82 / 82
第三十六話 愛寵した彼女 (1)
しおりを挟む「何だって伯爵がここに用があるんだよ…。」
顔をぶすっとさせて、ガジュが送られてきた手紙を目を細めて眺める。
「その、ドフトボルケ伯爵家は私の母方の家でして…。王家の血を引き、王家からの信頼を預かる家として
国内の領地を視察する役目を受けています。きっとこれは、近いうちミテスバクムに視察をしに向かうという
意味なのでございますわ。」
そういえば、リベルタの母であるリティーシアは先王の娘、皇女であった人物だ。ドフトボルケ家はその
彼女とつながりがある一族らしい。
「公私混同なんじゃないの…。ミテスバクムには何年も視察なんか来ちゃいない。完璧に自分の立場を
利用しているみたいに見えるね。」
「ま、まあまあ。お出迎えしないのも失礼ですし、伯爵家の皆さんがいらっしゃった時には私が対応させて
いただきますね。」
「それはありがたいけど、一人で対応するのは許しません。必ずウォルコットと行動するように。」
先程の件で、ガジュは偉くディランを敵視しているように見える。そんなに心配しなくても、と思うが
ここは彼を心配させないためにそれに頷いておこう。
「承知いたしました。伯爵家の皆様に対応する際は、必ずウォルコットと行動を共にすることをお約束
いたしますわ。このリベルタ、必ず貴方の妻としての役目を果たして見せますわ。」
「ちょっと心配ではあるけど、頼もしい奥さんだね。僕は申し訳ないんだけれど、ここ数日ミテスバクムを
離れてしまったのもあって結界が少しだけど弱まっているみたいで…明日から手が離せなくなる日が続くかもしれない。だから、対応はベルに任せきりになってしまうかもしれない。」
「まあ、そうだったのですね。もちろんでございます、お任せください。」
この国では、他の家の者が自分の領地に訪れる際、挨拶やもてなし、案内をすることは妻の役目である。
だから元から対応は自分がするつもりだったのだが、気を使ってくれたのが少し嬉しかった。
それより、明日から手が離せなくなる状況になってしまうのはしょうがのないことなのは分かっているものの、
少し寂しかった。でも、ガジュの貼る結界がなければ、この国は成り立っていない。だから、寂しいと口にするのはおこがましいかもしれない。
「助かる。ありがとう。」
「いいえ。…あの、その、明日から忙しくなってしまうのですよね?」
「まあ、そうなるかな。だから食事もほとんど一緒に出来ないかも…ごめん。」
「私のことなどお気になさらないでくださいませ!大丈夫ですわ。」
「そう?…まあでも、僕はベルと数日離せないのは嫌だから、…だから、明日からあんまり会えない分、
少し触れさせて。」
「え?…ん、あっ…、」
ガジュの部屋で、ソファーで二人過ごしていたので口付けをされたまま、押し倒されてしまう。
いつもは、触れるだけのキスから始まって、どんどん深くなっていくのに今日はいきなり深く口付けられる。
「ん、ガジュ様…ふぁっ、」
「集中して。」
名前を呼ぶと、それを塞がれるようにまた深い口付けが降ってくる。リベルタの唇から、ガジュの唇が
離れたかと思うと、次は首筋へと進んで行く。首にキスをされると、少しいやらしい音がすぐそばの耳から
聞こえてしまう。それが毎回恥ずかしくて、リベルタはいつもぎゅっと目をつぶる。
だが、いつもガジュはここまでしかしてくれない。一度その先を試みたものの、今思い出しても恥ずかしいが
鼻血を出して怒られてしまった。だから、自分から誘うようなことはあまり言えない。故にいつまでも
夫婦らしい愛情表現はここまでで、彼が首筋に痕をつけ終わるとただ抱きしめ合って、眠る。
「…ごめん、もしかして嫌だった?」
「えっ?…何で、ですか。」
「浮かない顔してたから。嫌だったら本当にすぐ言って…、」
「い、嫌じゃないです!!全然、そんなんじゃなくて…。」
気が付いたら、どうやらうかない顔をしてしまった様だ。気を使わせてしまったみたいで、彼に申し訳なくなる。
「…うん、じゃあどうしたの?」
「そ、それが言えなくって…ですね。」
「なに、気になるじゃん。言ってよ。」
「言えないんですってばぁ…。」
だってまた鼻血なんて出してしまえば恥でしかない。そうでなくてもまたとんでもないことを仕出かして
しまうかもしれないのだ。恥ずかしくて、少し言えたものではない。
「…やっぱ嫌だった?」
「本当にそれは違うくて!もっとしてくれてもいいかなって気はしてるんで違うっていうか…!あ、、」
「……ふーん。もっと、ね。」
ついうっかりと、本音が飛び出してしまった。いや、かなり前にも飛び出した例は何度もあるのだが、
極力言わないようにしていた言葉が勝手に口から出てしまい、リベルタは顔が赤くなるのを抑えられなかった。
「…じゃあいつもはしてないようなこと、今からしてみる?」
3
お気に入りに追加
259
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(29件)
あなたにおすすめの小説
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
帰らなければ良かった
jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。
傷付いたシシリーと傷付けたブライアン…
何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。
*性被害、レイプなどの言葉が出てきます。
気になる方はお避け下さい。
・8/1 長編に変更しました。
・8/16 本編完結しました。
家出した伯爵令嬢【完結済】
弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。
番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています
6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております
皇帝陛下の寵愛なんていりませんが……何か?
当麻月菜
恋愛
「異世界の少女、お前は、私の妻となる為に召喚されたのだ。光栄に思え」
「……は?」
下校途中、いつもより1本早い電車に飛び乗ろうとした瞬間、結月佳蓮(ゆづき かれん)はなぜかわからないけれど、異世界に召喚されてしまった。
しかも突然異世界へ召喚された佳蓮に待っていたのは、皇帝陛下アルビスからの意味不明な宣言で。
戸惑うばかりの佳蓮だったけれど、月日が経つうちにアルビスの深い愛を知り、それを受け入れる。そして日本から遙か遠い異世界で幸せいっぱいに暮らす……わけもなかった。
「ちょっ、いや待って、皇帝陛下の寵愛なんていりません。とにかく私を元の世界に戻してよ!!」
何が何でも元の世界に戻りたい佳蓮は、必死にアルビスにお願いする。けれども、無下に却下されてしまい……。
これは佳蓮を溺愛したくて、したくて、たまらない拗らせ皇帝陛下と、強制召喚ですっかりやさぐれてしまった元JKのすれ違いばかりの恋(?)物語です。
※話数の後に【★】が付くのは、主人公以外の視点のお話になります。
※他のサイトにも重複投稿しています。
※1部は残酷な展開のオンパレードなので、そういうのが苦手な方は2部から読むのをおすすめさせていただきます。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
36話と37話が同じ話です。
オラトリオさん へ
二度もすみません!何故か二回投稿されていたことにも
気が付かず大変申し訳ありませんでした💦
ありがとうございました!🙇♀️
36話が二回投稿されている。
オラトリオ さんへ
初めまして!気が付きませんでした、教えて下さり
ありがとうございました💦
仮にもリベルタに恋してただろうに、恋してる彼女は想像も出来なかったのかな😅。好きなら彼女の幸せを願いなさいよねヽ(`Д´)ノプンプン。
おゆう さんへ
返信するのが遅くなり、大変申し訳ないです💦
今回も感想ありがとうございます!😭😭
そうですね、完璧なリベルタしか見ていなかったからこそ想像
できなかったのかもしれません。そして恋する彼女をまだ理解出来てないんですよね〜これが\(^o^)/