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第二十八話 郷党の民へ (4)
しおりを挟む馬車が大きくガタンと揺れたので、それにリベルタは外の状況を確認する。すると馬車は盗賊のような集団に囲まれており、馬車を動かしていた執事の首には金棒が当てがわれていた。
「…盗賊?」
「みたい、ですわね。」
「ど、どういたしましょう…?」
ここで戦力となるのは、攻撃系の魔法や精霊術が使えるガジュとリベルタだけだった。カルディナも魔法を得意とするが、彼女は心優しいため人を攻撃をする様な魔法を使えない。故に、護衛もついていないこの馬車の中で戦力となる二人が、今から外に出向き盗賊と戦う他ない。
「ガジュ様、ここは私達が…。」
「だめ、そしたらカルディナがこの馬車に一人になる。」
「ですが、」
「ちょいと厳しいだろうけど僕一人で大丈夫。何も心配しないで
ここで待ってなよ。」
「ガジュ様!!」
そう言ったガジュが馬車から飛び出した時、盗賊達の顔がリベルタの目にはっきりと映った。それからリベルタは、「ん…?」と
一度首を傾げ頭を悩ませた後、ガジュに向かってくる盗賊達の剣さばきを見た。そして次に、ゆっくりとカルディナの方に体を向ける。
「ガジュ様は、大丈夫でしょうか…。」
「…カルディナ。」
「何でしょう?」
「……こら。」
「はぁー、やだわ。さっき一瞬見えた盗賊達と、その剣さばきで
理解してしまうだなんて本当鋭い。」
カルディナがおどけたようにくすくすと可愛らしく笑うが、
リベルタは少しだけ気が気で無かった。あの盗賊の集団は、盗賊などではない。盗賊に扮装したオールドローズ家の騎士団員だ。
侯爵家の騎士団員で、彼らは剣のプロだ。もちろん弱いわけがない。それがおよそ四十はいるのだからガジュだけで対処できるか不安になる。リベルタはそれが分かった瞬間、馬車を飛び出そうとするがそれをカルディナに軽く止められてしまった。
馬車の扉の取っ手に手をかけるが、ガチャガチャと言う音がして扉が開かなかった。
「出られませんよ、ここからは。」
「…?あっ、ちょっとカルディナ!!」
扉が開かないと思ったら、馬車の扉のドアノブには結界魔法が
掛けられている。彼女が馬車から出られないように、
カルディナが魔法で細工をしたのだ。
「ううーん、出してあげたいのも山々なんですけれど…すみませんお姉様。これご当主様のご意向でして。」
「お父様が!?…何のために?」
「うちの娘を預けるに相応しい人間でなくては…と。
私も止めましたし、オールドローズ家の騎士団員四十はきついと思うんですれけど…。」
「でしょう?分かっているなら私を早くここから出して。」
「ですから、これはお父様のご意向です。こちらが勝手なことを言っている自覚はありますけれど、お姉様が今飛び出せば騎士団員を困らせますよ。騎士団員はお父様から竜人殿の力を試すように言われていますが、お姉様はまだ…いいえ、これからもオールドローズ家の令嬢です。そのオールドローズに仕える騎士団員はお姉様を攻撃したりだなんて出来ません。」
「それは、そう…だけれども。でもガジュ様は私の伴侶になるお方なのに、こんな…、」
「軽い力試しとお父様は仰せでしたし、ガジュ様が大きな怪我をすることはございませんでしょう。だからここで大人しくしていましょう。それにお姉様からは以前のような魔力を感じません。…ちょうど半分ほど減っていますね。」
しまったと、リベルタは顔を顰めた。預けた魔力が無ければ、
出ていったとしても足で惑いになりかねない。カルディナに
ドレスの腕部分を引っ張られ、不本意ではあるがリベルタは大人しく座った。それから十数分後、馬車の扉が開く。入ってきたのはガジュではない、オールドローズ家の副騎士団長であるリオン・ディ・
アデルハイドという男だ。
「お嬢!お久しぶりです!!」
ぱあっとした笑顔でリオンはリベルタに声をかけるが、次の瞬間彼は胸ぐらを掴まれ引っ張られた。
「この馬鹿者共!!アデルハイド卿は副団長でしょうっ、何故止めて下さらなかったのですかーーー!!!!」
「ぐえぇっ…しょうがないじゃないですかぁ。僕達は侯爵様に仕えてる身分なので逆らえないですよー。」
「あの方は私の旦那様なのですよ!!そうじゃなくても、試すようなことをするのなんて無礼です!」
「まあそれは後からたっぷりお嬢にお説教をくらうとして…
どうですミテスバクムでの暮らしは?」
「た、楽しいわよ。毎日幸せですし旦那様のことも慕っておりますわ。」
「そりゃー何より…どわっ!?」
馬車に入り込んでいたリオンの頭を、ガジュが思いっきり蹴り飛ばした。どうやら先程からの会話はガジュには聞かれていないらしい。リオンはその場で気絶してしまったのだが、身体を投げ飛ばされる様な形で彼は馬車からほっぽり出された。
「ぶ、無事…?」
「あ、えっと…はい。」
ガジュは息切れて少し苦しそうな表情をして、リベルタの顔に触れた。こちらの無事を心配してくれたが、彼の方がボロボロだった。
目立った外傷はないものの、頬には擦り切れた所がいつくかあり、
服もあちこち破れかけている。彼の心配をしたいが、まず騎士団員
四十を相手にして目立った外傷が無いこと、あまり体力を消耗しきっている様に見えないことに姉妹は驚いていた。
「さっき蹴り飛ばした奴で最後だったみたい。」
「お疲れ様でした。少し治癒魔法をかけさせていただきますね。」
リベルタはガジュの頬に触れ、額同士ををこつんと合わせた。すると粒子のような光が小さく生まれ、彼の傷を治して行き呼吸を安定させた。そして窓に目をやると、死んではいないものの騎士団員達は戦闘不能状態にされていた。ガジュは精霊術も得意なようだが、体術にも長けているらしい。そのおかけでリオンも一発の蹴りで気絶させられてしまった訳だ。
「…ありがと。ていうか、さっきの奴ら本当に盗賊なのかな。」
「と、いいますと?」
「剣の使い方が全く野蛮じゃないって言うかな…、すごく強かったんだけど、金棒持って戦ってる奴とかは妙に武器を使いこなせてなかったし。何だろう、盗賊の新人?」
当たり前だ。彼らは騎士団員故剣の秀才の集まりで、金棒など普段使う者などそうそういない。そしてガジュの言う通り盗賊の新人でもある。
「えっと…大変申し訳ないことを申しますと…ですね。」
「ん?」
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「………え?………………え??」
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「…いやぁ、申し訳なかったね竜人殿。この盗賊の新人共は我がオールドローズ侯爵家の騎士団員の者です。無礼をお許し頂きたい…は少し無理があるかな。」
「お父様……!!」
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