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第二十七話 未完成な夫婦の秘め事 (1)
しおりを挟む誰にだって肌を許す訳では無い、ガジュが先程の行動を辱めと言ったことが気にかかって、それを伝えただけのつもりだった。
だが、ガジュは先程怒っていた表情よりもさらに険しい顔をして、
こちらに振り返りずんずんと進んで来る。
「ねえ、あのっさぁ……いい加減にしてくれない?その!!格好のせいで理性ぶっ飛び気味だって僕自己申告したよね?」
「えっと…しました、ね。」
「じゃあ何で僕のこと煽るようなこと言うのさ。もしかして僕試されてる?」
「な、何にでしょう。」
「あーっ、全くこのお嬢さんはこういう事にだけはうといから困ったもんだよ。」
「だから疎いって、何がですか?」
「はぁ…まったく、形式上まだベルが侯爵令嬢だから僕も色々我慢してるってのに…。」
リベルタが少し頬を膨らませた所で、ガジュは彼女に被せた上着を
乱暴に取り上げた。それに驚きベッドの上で後ずさりを始めたが、
もう遅い。あからさまに不機嫌だと言った表情をしたガジュが、
リベルタの腕を掴み、彼女の細い身体を引き寄せる。
「…あ、あの、ガジュ様?」
「何。」
てっきり押し倒されてしまうかと思ったが、リベルタの身体はベッドの上で、ガジュの膝に乗せられる様な形で抱きしめられていた。
何か、彼を怒らせてしまったかもしれないことは分かったが、リベルタはガジュが何に怒っているのかが分からなかった。だから、
胸に顔を埋める様にして黙りながらガジュの髪を少しだけ撫でてみる。
「…ベル。」
「は、はい。」
「本当に、僕になら何されても嫌じゃないの。」
「そうですね。今みたいに目を合わせてくれないのは、少し寂しいですが。」
「何なのあんた。さっきから可愛いことばっかり言って天然かましてさ、婚礼前だってのに僕に手を出されるとか思わないの。」
「…ああ、そういうことでしたか!」
「はぁ!?今気がついたの?」
今までガジュが言っていることや怒っている理由があまり分からなかったが、結婚式の、夫婦初めての夜である初夜が訪れる前に
男を挑発する様なことを言うなと言われたことに今初めて気がついた。リベルタはミテスバクムに嫁いできた花嫁とはいえ、結婚式を挙げていない身分はまだ侯爵令嬢だ。貴族の令嬢は初夜を迎えるまで男を知らぬ身体で無くてはならない。夫が初めての男性でならなければならない。そうでなければ傷物と見なされてまともな嫁ぎ先はないと言われている。その貴族としての貞操を、ガジュは気にしてリベルタに手を出すようなことはしたくないと言っていた様だ。
「お恥ずかしながら…えっと、はい。そうとも知らず失礼を申しました。確かに…結婚式を挙げていない身分で最後まで…というのはよろしくないです。」
「って言うと思った。いい?僕達は夫婦だけどまだ未完成な夫婦なの。僕が手を出したがる様なことは言わないで。これでも必死に我慢してるの。」
「すみません…。」
ヨーゼフでの茶会の夜から思っていたが、ガジュは基本的にこちらからの同意や接触が無い限り手を出してきたりしない。それは度胸や欲などの問題ではなく、リベルタのことを第一に思っての行動だ。欲に任せて先走り後でこちらを不快な思いにさせない様な、細かな配慮。いい加減にしろだの我慢しろだの言っているくせして、いつも彼は優しい。だが少しだけガジュがプロポーズをしてくれた夜の様に、また触れてくれるのではないかと期待してしまっている自分もいた。恐らく彼のことだからこちらが理解したことを分かればきっともう触れてはくれない。それが少し嫌で、しゅんとした顔をしていると急にガジュが口づけてくる。
「んっ…んんっ…、」
いきなりの深く長い口づけに、少し待っていてしまった口づけに、
身体が反応してしまう。やめて欲しくない、そう思った彼女は
ガジュからの口づけに応えるように彼の首に腕を回した。
「っは、何この手。あんまり誘うようなことしてこないでって言ったこと、まだ分かってないの?」
「わ、分かっておりますわ…。でも、えっと…私まだガジュ様に触れていて欲しい、です。」
あの夜から何だか気恥ずかしくて、ガジュとリベルタは口づけも交わせずにいた。お互い顔を合わせる度見えてしまう首元の跡、
思い出す唇の感触。耳に残り続けるベッドの軋む音。触れて欲しいのに、それを見た瞬間また恥ずかしくなって、婚礼前だということを言い訳に触れ合うことから目を逸らしてきた。彼女だって、ガジュのことを恋い慕っている。触れて欲しく無い訳は、ない。口づけ以上のことだってしたいのだ。
「いや分かってないと思うけど…、」
「で、ですからつまり!!」
呆れ顔をしたガジュを黙らせるように、リベルタは彼の手を
自分の右胸に押付けて、叫ぶように声を上げた。
「うわっ、びっくりした…。…………え?」
「は、はしたない真似をしているのは重々承知です。でも…私だってガジュ様に触れて欲しい、です。ですから、あのっ!!あの…誰も私達の事など見ておりませんし、最後までで無いなら、しても良いということにはなりませんでしょうか…。」
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