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第二十一話 愛しい人を想って眠れますように (2)
しおりを挟む「見ての通りガジュ様はお休みになっているだけよ。
よく眠れる魔法を少しね。私に何か話そうとしてくれているのは
分かったのだけど、お疲れの様だったから少し眠って頂いたの。
三四時間もすれば目覚めるでしょう。」
「本当、なんでしょうね…?」
「もちろん本当よ。現に呼吸に乱れはないでしょう?」
どうやらガジュに危害を加えようとしたと思われたらしい。心外だ。ウォルコットは脈や呼吸、心音などを調べると、ふぅと息を吐く。異常が無いことを確認した様だ。だが、何故か敵意の目線が取り下げられない。
「何かしら、本当に先程のは睡眠作用や疲労回復が混ぜこまれた魔法式に過ぎないわ。貴方のご主人様に何も危害を加えられない。」
「…知っていますか、リベルタ・ド・オールドローズは天才なのです。」
ウォルコットを落ち着かせようと柔らかい声で彼をなだめたつもりだったのだが、思わずきょとんとしてしまう様なことを言われてしまう。
「えっと…?私が貴方に何かしてしまいましたでしょうか。」
「いいえ。ただ、奥様がミテスバクムに嫁いできた時、貴方のことを全て調べさせていただいたのです。」
全て、という言葉にリベルタは少し考えてから、思い当たる節を探した後不気味に微笑むとそういうことでしたか、と少し冷めた目でウォルコットを見上げた。
「私が生み出してきた魔法式、全てをご存知ということですのね。
つまり貴方は、私が恐ろしいと。」
リベルタは家庭で役立つような魔法式から、人を癒す魔法式、
戦争で用いれば負け無しの魔法式まで様々な魔法式を生み出してきた。そんな彼女のことを人は大抵、恐ろしいという目で見る。
何故ならリベルタには、天才的な想像力がある訳では無いからだ。
ただ「これがこうなれば便利なのにな」と日常ふと思うことを魔法を使ってすぐ可能にしてしまう。そしてその魔法式を商会や国に売りつけては大量の自分の財産にして来た。
「いえ…そういうことでは、」
「…ふむ。でもこんなにおっかない女がいては貴方のご主人様に
もしかしらた危害を加えるのでは無いかと心配しているのでしょう?いいわ。」
リベルタは自分がつけていた耳飾りを外すと、ブツブツと呪文を唱えた後、それに自分の魔力の半分を込めた。そしてまだ少し光る耳飾りを、ウォルコットに手渡す。
「はいこれ。」
「これ、は…?」
「私の魔力の半分が入った耳飾りよ。」
「えええええ!!??おっ、おわおわっ!!」
ウォルコットは驚きのあまり、耳飾りを落としそうになる。
だがこれで彼は安心出来るはずだ。魔法式を使うには、ものによるがかなりの魔力量が必要になってくる。故に半分の魔力量では
魔法式を使うことなど不可能だ。
「心配なのでしょう?だったら受け取りなさい。
それを貴方に預けている限り、私魔法をろくに使えないもの。
無くしたら承知しませんけれど。」
「か、かしこまりました。…その、良かったのですか?」
「何よハッキリしない人ね。いいの、構いませんの。
私別に魔法式を作るのは暇つぶしでしたし、もう十分稼いだとも思いまして。それに、ウォルコットに危険な女だって思われ続けるのも嫌。ガジュ様も、私たちの間に微妙な空気が流れてたら
気になさるわ。」
「そう、ですか。ではこの耳飾り、預からせていただきます。」
「ええ、お願い。…ねえウォルコット。」
「はい?」
「ガジュ様のお母様は、ガジュ様にとって大切なお人?」
ウォルコットがソファーに寝かせたガジュの髪を、少しだけ撫でてみる。すやすやと寝息をたてていることに安心もしたが、もしかしたら今頃、彼は夢の中で愛する母と一緒なのだろうかなどと考える。
「…それは、もう。きっとご主人様がこの世で一番尊敬し、
愛していたのはテレジア様に違いありませんね。ですが、
今は奥様のことが一番かもしれないですよ。」
「まあそうかしら。先程の魔法式をかけられた人はね、夢で一番愛おしい人と会えたって言うの。だからガジュ様、お母様と今一緒ね。」
微笑んでガジュの頬を撫でると、ガジュが何やら口にし始めた。
寝言だろうか。
「んん…母様っ、ベルは僕の所の子です…連れて、いくなぁ…。」
その寝言に、リベルタとウォルコットは顔を見合わせる。
「ねえウォルコット、これって怖い意味じゃないわよね?」
「…さあ?」
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