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第十八話 行く先を照らすランプ (1)

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「えっ、」

思わず声が漏れてしまい、パッと口元を抑えた。
店員はどうかしたのかという目線でこちらを見てくるが、
恥ずかしかったため目線を下に徐々にそらして、ガジュの
服の袖を小さく握った。

「ん?これがいいの?」

「えっと…だめでしょうか。」

「ベルがそうしたいならそうしよう。これ二つ、サイズが合う
ものをお願い。」

「かしこましました!」

コートのサイズが合うものを二人とも選んで、店を出ると
リベルタは小走りでガシュについて行った。
少しわがままを言ってしまった気がしたのだ。なんせ彼は
嫌だとも嬉しそうにもしていな無かったから。

「すみません、わがままを聞いていただいて。」

「どこがわがままなのさ。僕は嫌じゃないよ。」

「えっ…じゃあどこがわがままになるんでしょう。
分かりません。」

「あは、たまにベルって変なとこ遠慮するよね。
いいじゃないか、今日はデート?なんだし。記念に僕からの
プレゼントってことにしといてよ。」

「じゃあ、その、ありがとうございます…。」

「どういたしまして。
僕が何も言わなかったから気にしてくれたのかな?
知ってると思うけど僕は表情に乏しいから、ベルに
気を遣わせないようにこれからはちゃんと言葉にしていくと
しよう。僕はコートお揃いで嬉しいよ。ベルは?」

頬や鼻を真っ赤にさせたガジュが、こちらに笑って振り返る。
その顔は表情に乏しいなんて言葉とは裏腹に、少しワクワク
している子供のようにも見えた。
その言葉と表情が何だかとても愛おしく感じて、彼との関係性が
前よりも深くなっている気がした。

「そんなの、嬉しいに決まっているじゃありませんか。
私は今とても幸せですよ。このコートもずっと大切にいたします。」

「それは何より。でもヨーゼフは寒いから来るのは茶会
の時だけでいいな。」

「そうかもしれませんね。そういえば、この街の方々は
皆この白い毛皮のコートを着ていますけれどこれは何の
毛皮で?」

「狼のだよ。」

「狼!?」

「そ。ヨーゼフに住む雪狼は危険でね、人里に降りてくる前に
仕留めるんだよ。」

「そうでしたのね。」

「さ、次はどこに行こうか?
ヨーゼフの食べ物は保存が聞くから、あちらに帰る時に
飲む物や食べ物を買っていってもいいかも。」

「よろしいんですか!?
じゃあお酒!お酒と美味しいツマミみたいなものが私欲しいです!」

茶会で酔っ払ったガジュは何とも可愛らしかった。願わくば
また酔わせてみたい、という興味でリベルタは目を輝かせる。
するとガジュは「えぇ」としかめっ面をして目で拒否して来た。

「ベルおじさんみたいだよ。
あんまりお酒は飲まないって言ってなかったけ?」

「でも好きです!だってお喋りしながらお酒を飲む楽しさ
を知ってしまったんですもの。それに酔ったガジュ様は
甘えっ子で可愛かったですし~私に良い事しかなくってよ!」

「それで僕が良いって言うと思うの。
ていうか誰が甘えっ子だ。」

「え?酔っ払いながら間接キスだ~ってにこにこしてて
とっても可愛かったんですけど、覚えてません?」

「おっ、覚えてない!!」

ガジュはぷりぷりと怒って市場と逆方向に歩き出そうとするので
それを前に立ち塞がり制した。

「えー。たまにで良いですから酔わない程度に付き合って
下さいまし。」

「う…たまに、たまにだからね。」

「やりましたわ!」

それから市場を回り見たことの無い酒、食材、雑貨などを
買って歩いた。あるランプ屋に入った時、風呂にも浮かべられるという美しいランプを見つけた。どうやらヨーゼフの限定物らしい。
その中で球体の美しいランプを一つ、部屋に飾れるようの
小さなランプを一つリベルタは購入した。

街の中心をやっと回りきった夕方、カフェで二人は夕食を
済ませ、また街を歩き始めた。

「ランプ、お風呂と部屋用に買ったんだね。」

「はい!あ、これお風呂に浮かべる時は二人で入りますか?」

「ばっ!!何言ってんのバカ!!
そ、そういうのはちゃんと夫婦になってから…!!」

「へ~、じゃあ夫婦になった時には私と一緒のお風呂に
入りたいと。」

「そんなことは言ってない!!」

「ふふっ。」

「部屋に飾る用は?趣味?」

「可愛いなって思って、ほら。」

リベルタは買った手のひらサイズのランプを出して、
ガジュに見せた。

「それに、綺麗な緑色でしょう。
ミテスバクムの色だと思ったら買ってしまいました。」

「嬉しいこと言ってくれるじゃん。
ベルももっとあの街のこと知りたいって言ってくれたし、
また街の様子も、この前見れなかった所もまた見に行こう。」

「是非!
…ヨーゼフで言うことではないかもしれませんが、
この明かりが私達の行く末を、未来を明るく照らしてくれます
ように。なんちゃって。」

「ホントだよ。そう言うのはミテスバクムで言ってよね。」

「えへへ…。あっ!見てくださいガジュ様!」
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