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第十七話 雪の街での(仮)夫婦の一日 (1)

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「昔私アイザアス様に一目惚れされた~って言われてぇ。」

「ギャハハ!!
今おっさんのアイザアスが一目惚れしたって言ってる
とこ想像したら腹筋死ぬっ!」

「おっさんが一目惚れしちゃいかんのか~。
差別だ差別ぅ。」

段々皆酒が進んできたのか、笑い声が大きくなり
どんちゃん騒ぎになっていた。
ガジュとヴェヘルミーナはお酒に弱いのか、
もう潰れてしまっている。

「んぅ…まだ、まだ飲めるし。」

真っ赤な顔で机に突っ伏しているのに、まだ飲めるという
ガジュには説得力がない。
さすがにこれ以上飲ませる訳にはいかないので、リベルタは
ガジュの手に持っているグラスを取り上げた。

「ちょっとぉ、何すんのさベル…。
まだ、飲めるって言ってんのぉ。」

「これ以上飲んだら二日酔いになりますわ。
いやもう手遅れ…?いやどっちにしろもういけません!」

「やだ。返して…。」

涙目で上目遣いに見られてキュンとしてしまい、
「うっ」と息を飲むがいやだめだとガジュを睨む。

「い、いけません!
これは私が頂きますわっ。」

リベルタはグラスに入っていたシャンパンをグイッと
飲み干して、テーブルに置いた。
それに「おっー!」と声が上がる当たり、皆かなり酔っ払って
いる。最初はほのかな出会い話や夫婦でのエピソードを
順番に話して、半分惚気大会だったのだが、
今や案外お互いの恥ずかしい思い出などを酒のツマミにして
盛り上がっている。

「あっー、ベルが僕のお酒飲んだ…。
そういうの、何だっけ?間接キスって言うんだよ。
ふへへ、ベルのえっちー。」

そう言ってガジュがまるで小さな子供のようにケラケラと
笑って、また机に突っ伏してはスヤスヤと寝息を
たてだした。

確かに関節キスだったかもしれない。いつもつんけんした
態度の彼の口から「えっちー」と言われてしまい、リベルタは
顔を赤くせずにはいられなかった。

「いやあ、貴方もやりますね。
リベルタさんはお酒に強い方なんですか?」

「ええまあ。あまり飲みはしませんがお酒は
嫌いじゃありません。ジェイデンさんも中々お強いよう
ですね。」

恥ずかしさのあまり新しいワインを注いで、飲もうとした所に
ジェイデンが質問してくる。
尋ねてきたジェイデンもかなりケロッとした顔を
していて、かなり飲んでいるはずなのに頬に紅潮も見られ
ないので相当お酒に強いのだろう。

「私もそんなに強い方ではありませんが、ヴェヘルミーナ様に
よく付き合わされたのでそれで強くなったのかもしれません
ね。」

ヴェヘルミーナに付き合わされた、という割には
彼女ももうジェイデンの膝で潰れて眠ってしまっている。
そしてジェイデンは自分の膝で眠るヴェヘルミーナの
頭を愛おしそうに撫でた。

「あらやだ、惚気られちゃった。」

「?
今何かそんな事を私はいいましたか?」

「いいえ。ヴェヘルミーナ様を見つめる眼差しが
余りにも甘かったものですから。」

「あはは…それは失礼いたしました。」

「ふふ。人の恋愛話とは面白いですね。
ご馳走様です。」


午前二時を回った頃、そろそろお酒に強い組だった
ツィーリア、ジェイデン、リベルタと
カーリンとセオドアにも酔いが回ってきた所で、
ヨーゼフにて開催された茶会(?)もお開きになった。

「ほらガジュ様、貴方が起きたらビックリしそうな
ものですけど、夫婦の寝室は同じにされているらしい
ので行きますよ。」

「ん~…。あれ、もうお開きになったの?」

「そうですよ。立てますか?」

「ん…大丈夫。」

ガジュは机から顔を起こし、目を少し擦るとフラフラ
しながらも立ち上がった。

「ガジュ様ってば、酔っ払ったら面白くて可愛かったから
また酔わせてみたい所ですけれど明日私とデートだって
こと、ちゃんと覚えてます?」

 「覚えてないわけ、ないじゃん……。
僕だって楽しみに…してたんだから。」

「…あらまあ。」

酔っ払っているからなのか、ガジュが驚きの一言を口に
する。だが先程から足取りが不安でしかないので、
リベルタはガジュの体を支えるように腰に手を回して
くっついた。

「…私も楽しみです。
ですからどうか明日の朝はちゃんと起きてくださいましね。」
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