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第十七話 花嫁の条件(2)

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ホールがシーンと、静まり返った。

「ごめんなさい今戻りました…ってあら?
皆今日は静かね。どうしたの?」

バタバタとツィツィーリアがホールに戻って来るが、
先程の会話を彼女は聞いていなかったため、皆の顔を見て
きょとんとした。

「それは何で正式な伴侶でもないのにその子を
連れてきたかってことかい、ヴェヘルミーナ。」

アイザアスが苦笑いをして聞くが、それにヴェヘルミーナは
すかさず「そうよ」と答えた。
彼女が何を思ってそれを聞いたのかは分からないが、少なくとも
リベルタは良く思われていないかもしれない。
何と答えたらいいか分からず、だんだん目が泳ぎ始めてしまう。
何か、何か言わなければならないのに口を開いては閉じて、
唾を飲む。

「ああごめん。私あなたのこと攻めてる訳じゃないわ。
まさかガジュも、この子に答えさせようだなんて思ってないでしょ?」

「分かってる。
確かにお前が言う通りベルはまだ僕の正式な妻ではないよ。」

「じゃあこの子のことどうするつもり?
知ってると思うけど三年以内に子が出来なかったらその子は
王都に強制送還される。その気がないなら今すぐにでも手放すべきだわ。
この子の三年間を無駄にするの?」

今の言い方だと、ヴェヘルミーナは半端な存在のリベルタを悪く思ってる訳ではないように思えた。
どちらかというと、その気がないのにリベルタの人生のおける三年間を
無駄にするな、と言っている様にも聞こえる。

「分かってる。この子を信頼してない訳じゃ
ないけど彼女は三人目だ、僕だって慎重にもなる。だけど、それを言い訳に
この子の三年間を無駄にする気はない。だから傍に置いてる。
…これ以上野暮なこと聞かないでよ。」

意見をしっかり述べたものの、ガジュは真っ赤な顔でヴェヘルミーナを
上目遣いに睨んだ。それを見るとヴェヘルミーナは「こりゃ驚いた」
と言って目を見開くと、その後にクスっと笑った。

「悪いこと聞いちゃったわ。あんたシャイで恥ずかしがり屋だからさ。
リベルタさんも、ごめんね。皆の前で困るようなこと言っちゃって。」

ヴェヘルミーナが申し訳なさそうな顔をするが、
きっとまだ、自分はミテスバクムのことを知らないと思った。
嫁いで一か月、街に降りたのは一度だけ。きっとガジュのことも
知らないことがあるだろう。身分も知識も半端な状態で、
まだミテスバクムの姓は名乗れない。

「あ、いいえ。
ガジュ様が私のことを大切に思ってくれていることは
存じております。私はガジュ様に嫁いでまだ一か月ほどですし、
ミテスバクムを名乗るにはまだ至らぬ所ばかりです。そんな私が
ガジュ様と同じ姓を名乗るなど、まだ出来ません。
でも、いつかガジュ様が私に同じ姓を名乗ることを許してくれるその時までに、
旦那様を支える妻として、今よりももっとミテスバクムのことを知っておきたいですわ。」

「え…どうしようめちゃくちゃにしっかりしてる子だ…。
私なんて出会って三秒でセオドアに今日から姓はサミュエルを
名乗りなさいって言っちゃった。」

「ちょっとカーリン様!そんなことを言ったら俺が恥
かくじゃないですか!!」

リベルタが決意のようなものもこめて、ヴェヘルミーナを真っ直ぐに
見たところで、雰囲気をぶち壊すがごとくカーリンが呆けた顔で
会話に介入してきてしまった。会話の中にセオドアも巻き込んだ
のですかさず彼もツッコミを入れる。

「ああもうカーリン様、彼女の素晴らしい言葉が台無しだわ。
うふふ、よかったわねガジュ様。リベルタってばとっても貴方のことも
貴方の愛する領地と領民のことも考えているいい子じゃない。」

それにツィツィーリアが微笑んで、周りはそれに頷いていた。
リベルタはガジュの妻として認められた様な気がして、
彼の方を見て恥ずかしそうに微笑んだ。
するとガジュもそれにつられた様に笑って、リベルタの
手を握る。

「うん…僕にはもったいないくらいいい子だよ。」







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