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第十一話 街一番艶美な娘 (1)

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「もしかして緊張してる?
皆いい人だからそんなに緊張しなくてもいいよ。」

街へ降りる道中、会話や言動がカチコチしているリベルタに、
ガジュはクスりと微笑む。

「えっ、あ、はい!…す、すみません。」

緊張しているのもあるが、どちらかと言うとすぐに挨拶を
しに行かなかったことが街の人々に失礼なのではないかと
考え始めていた。

「ん?もしかして何か不安ごとでもあった?」

「ええと、もしかして嫁いできてすぐに挨拶に行かなかったの、
失礼じゃなかったかなって。」

「あは、気にしなくていいよそんなの。
だって僕が街に花嫁を紹介しに行くってことは、少なくとも
僕がその子に関心があるって証なんだからさ。
だから逆にすぐ連れてきたら何か変ってことになる。」

「確かに……ガジュ様が女性をすぐに気に入るなんて
何だか変な気がします!」

街へ共に降りるということは、ガジュに興味を持っていられてい
るという証と聞いて、顔が赤くなる。
だが赤くなったら笑われてしまうと思い、少しからかうような
ことを言って誤魔化した。

「ねえちょっと!僕は美しさとかですぐに惚れるような
男じゃないってことなの。」

ガジュが頬を膨らませていじけた子供の様な表情をする。

「確かにそうですね。ガジュ様が女性を美しさで選別する
お方なら私はひと目で惚れられていましたね。」

と、また少しふざけた様なことを言う。
ガジュなら突っ込んでくれることを見越したおふざけ
だったのだが、彼は突っ込んでくれなかった。

「確かにね。僕が女性を美しさで妻にするか決めるなら
すぐにベルを妻に迎えてたかも。」

「あの突っ込んで下さいよ!!逆に恥ずかしいですわ…。」

「いや、実際そうだよ。」

「ガジュ様ってほんとは私のこと結構好きじゃありません?」

「どうかな。…ほら、ベル。着いたよ。
ここが緑竜が加護し緑が綻ぶ街、ミテスバクムだ。」

街へ降りるというから、山を降るのかと思っていたが
ミテスバクムは森に囲まれた街の様だ。そして天上から仕込む
光がそよそよよと街に差し込んで、それがまた美しい。
ミテスバクムの民家にも市場にも、緑は常に傍にあって、その
初めて見る光景は神々の遊び場のように見える程神秘的な何かを
感じた。

「…………綺麗。
とっても美しい街ですね。ここが、ガジュ様の収める街…。」

「そうだよ。僕は緑竜の血を引く竜人で、ここに結界を
貼る守護者である前にこの街の領主みたいなものだから。
だからちょくちょくこの街には顔を出してるよ。
じゃ、行こうか。」

「はい。」

ガジュに手を引かれ、ミテスバクムの街へ足を踏み入れた。
まず足を踏み入れると朝なので市場が沢山の賑わいを見せていた。
その市場で売られているものに目をやると、王都にはない
珍しい果物が多く売られていて、どれもこれも食べてみたくなる。

「まあどれもこれも素敵。あ、あの果物とっても美味しそう
ですね!それにガジュ様が送ってくださったワンピースと
似た物を着ている女性が沢山。私馴染めているかしら。」

「大丈夫。…ベルがこの街を気に入ってくれたみたいで
よかったよ。」

「それはもう。ガジュ様、連れてきて下さってありがとう
ございます。」

「ベルが嫌じゃないなら二人で定期的に行くのもいいね。」

「本当ですか?嬉しい。」  

市場を少し進んだところで、一人の男がこちらの存在に
気がついたのか、声を上げる。

「おっ!ガジュ様じゃねぇですか!!」

「え、ガジュ様??」

「ほんとだ!領主様ようこそ!」

一声でガジュの存在が街に広がり、皆がすぐに笑顔を見せ、
次々に声をかけた。
それにガジュが今まであまり見たことの無いぐらい柔らかな
笑みを見せて、彼が本当にこの街と人々を愛しているという
のだということが分かった。

「うん、皆ただいま。」

「おかえりなさい!ん?…ガジュ様が女の人連れてらァ!!
この前王都からいらっしゃったっていう花嫁さんですかい?」

領主の花嫁、その言葉に先程よりも多くの人々がこちらを見る。

「そうだよ、この子がこの前嫁いできてくれた人。
でもまだ花嫁じゃないんだ。」

「あれ~?そうなの?」

紹介された立ち位置がかなり微妙なので、街の人々に歓迎されない
のではないかという不安が少し生まれる。
だから、少し俯きたくたくなる。

「…まだ花嫁じゃないけど、その、今の僕の良い人。
だからここに連れてきたの。」

ガジュが、繋がれていた手を少し強く握ってくれた。
それにぱっと、自然に顔が上がる。

「…何にやけてんのベル。」

「えっ?に、にやけてませんわ!
こ、コホン!…私この度ガジュ様に嫁ぐこととなった
リベルタと申します。どうぞよろしくお願い致します。」

ガジュがしっかりと、リベルタをどう思っているかを伝えて
くれたので、彼女は自然と胸を張って挨拶ができた。

「こりゃ美しいお嬢さんね!歓迎いたします、リベルタ様!」

「ガジュ様にもついに良い人が!?嬉しいです!」

こちらに視線を寄せてくれていた人から、歓迎の声が
上がりリベルタはほっと胸をなでおろした。

「…よかった。」

「…僕の良い人ってことよりも、きっと街の連中も
ベルの人柄を知ったら、もっとベルのことを好きになるよ。」

「まあ、そうなれたなら幸いですがそれじゃガジュ様が
ヤキモチを焼いてしまわれませんか?心配です…。」

「減らず口たたけるくらいならもう緊張してみたいだね。」

そう言ってガジュが繋がれていた手を離そうとするが、
少しきつく握って繋ぎ止める。

「…なに?」

「手、繋いでくれたのって私が出来るだけ緊張しないように
ですよね?それってガジュ様が私にくれた優しさじゃないですか。だから、貴方の優しさをもう少し感じていたいのでもう少し
繋いでいたいです。」

「はぁ!?…っ、まあ別に、いいけど……。」

「やった。」

「仲がよろしいことで!!」

少しひやかすような一言で、街に笑いが起こってしまう。
それはそれで二人とも恥ずかしかったので、二人揃って頬を赤く
染めた。


「……あれ?やっぱり!やっぱりガジュだ!!
久しぶり~!!」

が、後ろからした女性の声の主がいきなりガジュに抱きついて
きたので、リベルタの背筋が、凍った。



「……シェーレ?」






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