5 / 82
第三話 よく聞こえませんでしたのでもう一度(1)
しおりを挟む「…随分と危険な手に出られましたね。
先程の発言、王家に不穏をもたすとも聞こえました。
しかも二家の財政を立て直すほどの金額、どこから
ご準備なされたのですか?」
平然とした表情が崩れないユーリとは真逆に、
アドニスは少しこちらを睨んできていた。
「まあ、嫌だったら断ってくれて構いません。
これは強制ではございませんから。
そうですね、この金銭は私が事業で成功した時のものの
ほんの一部でございます。」
オールドローズ侯爵家が運営する事業はいくつかあり、
それは魔法式を売るというものがほとんとだ。
その中でも、リベルタは花や植物の色そのものを自分の髪に
コピーするという魔法式を生み出すことに成功している。
それを売りに出したところ、大商会から大量の儲けを得た。
そして二人に渡した金額はその一部に過ぎない。
「なるほど。」
「でも悪くない条件だと思いません?
貴女方は半年前の嵐で家業である農業が
上手く立ち回らず没落しかけている。皇帝陛下は下級貴族に
興味が無いお方ですから、助けていただけなかったのでは
なくって?」
別にこの二人が新聞記者に情報を売らずとも、
遅かれ早かれ皇太子の婚約者が変わったことは民衆にも知れ渡る。
だがそれはルイスフォードの都合の良い理由、
つまりはオールドローズ侯爵令嬢が皇太子の機嫌を損ねたから、
などと報じられるだろう。
それは何より自分が誇りを持っている侯爵家の顔に泥を塗ることになる。家族に迷惑を出来ればかけたくない、その一心だった。
だから痛いところをついて、今見方につけようとしている。
「本当に末恐ろしいお方。
いいでしょう、私は王家に大した忠誠心も持ち合わせておりませんし、家が助かるのなら私も大助かりです。」
ユーリがため息を着くも、苦笑いする。
「ありがとうございます。アドニス子爵令息はどうなさります?」
「私も下に着く者のことを考えておられない皇帝陛下には
うんざりしていました。引き受けます。」
アドニスは不本意だが、という顔をしているがこれで二人のとの取引が成立した。
そんな危険な取引がされている事も知らず、
その頃皇宮では、ルイスフォードがリベルタをどこに
嫁ぎ飛ばすかの話し合いがされていた。
彼は基本的にプライドが高い。自分が恥をかかされた女を
野放しに出来るほどの寛容さはなかった。
「北のアルデハイド公国にいる大公家に嫁がせるのは
いかがでしょうか、陛下。」
「馬鹿者!!まったくお前は賢いやつだと思っておったのに…。
良いか、他国などに嫁がせればこのロゼレム帝国に
何らかの嫌がらせをしてくるやもしれん!
オールドローズ侯爵令嬢にはそれが出来る美しさも
強かさもあるのだぞ…。…む、そういえば南に住む竜人の花嫁が
まだ決まっていなかったな。あのような端にある地に嫁げば
それも出来まい。彼女には緑竜の花嫁として、南の地、
ミテスバクムに嫁いでもらう他ないな…。」
「承知致しました。では明後日にでも彼女を皇宮に
呼び出します。それと一つ、条件をつけたいのですが……、」
このロゼレム帝国には、東西南北に別れて国の結界を貼る
神獣や竜人が存在している。
そして彼らが住まうは王都より遠く遠く離れた辺境の地。
南の守護者、緑龍の血を引く竜人には跡継ぎを産ませる
花嫁が現在不在だ。そのような地に住まわせば、
リベルタは何も出来ないと親子揃って考えたようだ。
だが彼らはリベルタを呼び出す明後日に、大変痛い目を
見ている。
「リベルタ・ド・オールドローズ侯爵令嬢、
貴殿には南のミテスバクムに住まう竜人に嫁ぐ任を
全うしていただく。」
皇宮に呼び出され、謁見の間でリベルタは皇帝と
ルイスフォードに跪きながら、そう来たかと思うも平常心を
崩さなかった。遠くに飛ばされる覚悟と予想は出来ていたが、
まかさ竜人に嫁がされるとは思っていなかった。
まあ少なからずルイスフォードよりかはマシな男であると
だけ期待したい。
「へ、陛下!!皇太子殿下!!大変でございます!」
と、そこで謁見の間に宰相が血相を抱えて飛び込んでくる。
「何事だ宰相!!今大事な話を…、」
「ロイガール大公及びっ、ダナス侯爵が皇太子殿下の
所属を降りられました!!この二家が降りられたことによりっ、
他にも所属を降り出そうという貴族がっ…!!
そして何故か民衆にも皇太子殿下が不貞を働いたという
記事が大量にでまわっている様子です!!」
来たきたと、リベルタは気づかれないように笑う。
「あらあらまあまあ…。
そのような記事がでまわっている最中、次期皇后と皆に知られる
私が辺境の地に嫁げば…皆様の目には大層私が可哀想に
映るでしょうね。」
5
お気に入りに追加
259
あなたにおすすめの小説
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
五年目の浮気、七年目の破局。その後のわたし。
あとさん♪
恋愛
大恋愛での結婚後、まるまる七年経った某日。
夫は愛人を連れて帰宅した。(その愛人は妊娠中)
笑顔で愛人をわたしに紹介する夫。
え。この人、こんな人だったの(愕然)
やだやだ、気持ち悪い。離婚一択!
※全15話。完結保証。
※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第四弾。
今回の夫婦は子無し。騎士爵(ほぼ平民)。
第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』
第二弾『そういうとこだぞ』
第三弾『妻の死で思い知らされました。』
それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。
※この話は小説家になろうにも投稿しています。
※2024.03.28 15話冒頭部分を加筆修正しました。
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします
天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。
側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。
それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
もう彼女でいいじゃないですか
キムラましゅろう
恋愛
ある日わたしは婚約者に婚約解消を申し出た。
常にわたし以外の女を腕に絡ませている事に耐えられなくなったからだ。
幼い頃からわたしを溺愛する婚約者は婚約解消を絶対に認めないが、わたしの心は限界だった。
だからわたしは行動する。
わたしから婚約者を自由にするために。
わたしが自由を手にするために。
残酷な表現はありませんが、
性的なワードが幾つが出てきます。
苦手な方は回れ右をお願いします。
小説家になろうさんの方では
ifストーリーを投稿しております。
婚約者の心の声が聞こえるようになったけど、私より妹の方がいいらしい
今川幸乃
恋愛
父の再婚で新しい母や妹が出来た公爵令嬢のエレナは継母オードリーや義妹マリーに苛められていた。
父もオードリーに情が移っており、家の中は敵ばかり。
そんなエレナが唯一気を許せるのは婚約相手のオリバーだけだった。
しかしある日、優しい婚約者だと思っていたオリバーの心の声が聞こえてしまう。
”またエレナと話すのか、面倒だな。早くマリーと会いたいけど隠すの面倒くさいな”
失意のうちに街を駆けまわったエレナは街で少し不思議な青年と出会い、親しくなる。
実は彼はお忍びで街をうろうろしていた王子ルインであった。
オリバーはマリーと結ばれるため、エレナに婚約破棄を宣言する。
その後ルインと正式に結ばれたエレナとは裏腹に、オリバーとマリーは浮気やエレナへのいじめが露見し、貴族社会で孤立していくのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる