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46. 番外編1

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※番外編1はレシュノルティア目線で描かれています。

最近、一人の少女のことばかりを考えている。僕が拾い上げたか弱くも強く見えた彼女のことだ。何故拾い上げるような真似をしたのか、今思えば少し説明がつかない。だが、自分と同じ花の名前を持つ彼女の、ひどく真っ直ぐな紫の瞳が僕を見つめた時、衝動と言うのだろうか。何かを確かに感じてしまったのだ。一目惚れ、というと安っぽくなるので、そうは言いたくない。
だが今思えば、あの幼い身体に似合わぬ早熟な表情や、凛とした彼女の美しさに惹かれてしまったのだと思うが。


「レシュノルティア様!じゃ、じゃなくて小公爵様っ、お待ちください!」

パタパタと後ろからして来た澄んだ声に振り返る。するとアスクレピアス公爵家の侍女服を着た美しい少女が、こちらにかけてきていた。

彼女の名前はジェンティアナ・レ・イフェイオン。子爵家の令嬢で、最近僕が婚約者にすると決めた存在だ。

「久しぶりだな、ジェンティアナ。」

「あ、はい!お久しぶりです。」

名を呼ぶと、彼女はあわあわと慌て始める。そしてほんのりと頬を染めると、目を合わせるのが恥ずかしいと言うように俯いた。ジェンティアナと会うのは、そういえばあの日以来だった。

「…侍女服を着ている、ということは、侍女として働くことにしたのか。」

「はい。その、まだ確定していない立場に甘える訳にはいきませんので。」

確かにそうだ。ジェンティアナは僕の父に、身分が足りないなら実力で補えと、ある条件を出されている。それはもう時期僕達が入学する、帝国立の魔法学院で三年間首席であり続けること。

だが僕はそれを彼女が達成出来ると思っていない。帝国立の王都に設立されている魔法学院だ、当然魔法・魔術や、礼儀作法において何一つ簡単なものなどありはしない。故に学院で行われる試験はこの広く広大なアルカンディア帝国の中にある数々の学院の中でも最難関。そして幼少期から過酷な教育を受けてきている上級貴族や皇族までも在籍するあの場所で、薬学の知識しかないジェンティアナが一位をずっと取り続けるなんて不可能だ。彼女の出を馬鹿には決してしていない。だが、身分が上にある者はそれだけ、教育の質が他の貴族とは異なるのだ。

彼女にとって父から出された条件が不可能に近くても、手がない訳ではない。僕は父に、あの過酷な場所で五度一位を取ることが出来れば、ひとつ願いを叶えてやると言われている。だから彼女が結果を残せなくても、僕が結果を取って父に交渉し、ジェンティアナを妻に迎えるつもりでいた。

「君が決めたなら、それでいいと思う。して、何か僕に用だったか。」

「そうでした。その、お礼を言いたくて。」

すると、突然ジェンティアナは僕の手を握るとひざまずいて見せた。それにキョトンとしていると、彼女は僕を慈しむような美しい眼差しで見上げて来る。

「心から感謝いたします、レシュノルティア・ラ・アスクレピアス様。この御恩は必ず…。必ず結果を残して、貴方のお役に立ってみせましょう。」

「…そうか。それは楽しみだな。」

「はい!」

曇りのないその笑顔に少しときめいたものの、ジェンティアナが自身でその望みを叶えることなど出来ないと、その時は思った。

それから数か月経ち、僕たちは学院に入学した。そしてそれからは残念な事に、めっきりジェンティアナとは会話をしなくなった。屋敷では仲良くすることが多かったのに、何なら彼女は目も合わそうとしない。でもまあ、大体僕を避ける理由には察しがつく。公爵家の令息と子爵家の子女が仲睦まじくしていたなら、誰に目を付けられてもおかしくない。それに少し寂しさを感じたが、僕が彼女の事を気にならなくなる事はなかった。

そして迎えた入学してからの最初の試験、上位成績者の発表は、生徒全員が集まる講堂で行われた。自分もかなり努力をして、実技の試験でも良い成績を残せた自身があった。だからジェンティアナには申し訳ないが、今回の一位はもらった、ぐらいのつもりでいた。だが僕は、その気持ちを後に少し恥じる事となる。

発表が始まり、三学年、二学年ともやはり成績上位者は皇族や上級貴族の者がほとんどだった。そして発表が一学年に移り、最初に今回一位だった者の名前が呼ばれた。

「一学年、試験第一位は…ジェンティアナ・レ・イフェイオン子爵令嬢!!」

「なっ…!?」

驚きのあまり声を漏らしてしまったのは、僕だけでは無かった。今まで何も目立たなかった令嬢が、しかも子爵家の令嬢が、数々の上級貴族の出の者や皇太子までもを差し置いて、首席の座に立っているのだから。そのざわめきの中でも彼女は凛としていて、淑やかにその場でスカートの裾を摘まんで礼をした。

「続いて二位、レシュノルティア・ラ・アスクレピアス公爵令息、三位、イーシアス・リタ・アルカンディア皇子…、」

あの日彼女が必ず恩を返すと言っていた言葉を信じないで、不可能だと思い込んでいた事が、ジェンティアナに負けて、すごく恥ずかしくなった。彼女は僕や皇太子までもの上に立ち、凛然とした表情でこの場に王として君臨している。素直に、喜べなかった。本当なら、ジェンティアナと結婚したいなら、喜べるはずだ。でも、プライドか何かがそれを邪魔した。好いているであろう女に、負かされたのだから。悔しかった、だから次もその次も、ジェンティアナを負かしてやるつもりで必死に己を磨いた。だだ悔しかったからだけではなく、彼女だけにに努力させるのは違うと思っていた。僕は自分が努力した成果で、ジェンティアナの隣に立ちたかったのだ。でも、何度やっても彼女には勝てなかった。

彼女は強かった。実力では誰にも近寄らせず、誰にでも何にでも圧勝して見せた。なんだ、最初から違ったのはジェンティアナの方だったのか、と感じたが、そうではないことに気が付いたことがある。最低だと自分でも思うが、ある日を境に、僕の彼女への想いは急激に増した。

それは試験が終わり、イーシアスとジェンティアナが口論している時を見てしまった時だった。











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