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「…やだ、別に詰め寄ったりなんかしていませんよ。ただ、先生の顔色が優れなかったようだったので近くで見ただけです。というか、あまり愛想がない貴方がずいぶんと婚約者の事は大切にしているんですね。」

「君に振りまく愛想も生憎ない。それと、彼女は婚約者なんだ、大切に決まっているだろう。」

そうだ、確か公式設定ではヒロインはやや人との距離感が近いと書かれていた。だが貴族会でいきなり人の顔を覗き込むのは失礼な行為な他ない。そんなことをすること自体ありえないので、レシュノルティアから見ればルミエールが私に詰め寄っているように見えたのかもしれなかった。そして何か、この二人の間の空気が重くなる。どちらも
言葉に棘があり、喧嘩腰のようになっている。

「やめてくださいい二人とも。ミスターアスクレピアス、私は彼女の言う通り詰め寄られてなどいません。ですが、ミスリゼット。ほうけた顔をしていた私も悪いですけれど、人の顔をいきなり覗き込むのはこの学院ではよろしくありませんね。以後気を付けるように。」

「はあい…。」

ルミエールは「気に入らない」という態度をおさめて、ぷいっとそっぽを向いた。二人は本当に仲が良さそうにはやはり見えなくて、それに安心してしまう。そして自分はレシュノルティアにまだ「大切だ」と思ってもらえる、言ってもらえる存在であることを確認したら、大分と不安が消えて行くのを感じた。
また、物語を私が狂わせてしまったことにより、すでに展開は変わっていきつつあることを今確認できた。それによりヒロインがどう行動するかが、やはり気になる所である。ならば、少しルミエールと関われる立場を私は用意しなければならない。

「…ミスリゼット、お詫びと言ってはなんですが、貴方のダンス講師となる件を引き受けます。だから早くお帰りなさい、もう外も暗いですから。」

「え、本当ですか!?やったぁ、嬉しいです!ではまた明日、お会いしましょうね先生!!」

要求の承諾を得ると、ルミエールはスキップをするようにしてその場から立ち去った。どうやら、要件は本当にダンスの講師となるかだけの話だったらしい。結局彼女が私に無害なのかそうでないかは分からず、安心したような安心しきれないような感覚が胸にうずまいて消えない。引き受けたものの、上手くやっていけるだろうか。

「………すまない、僕が余計な口を挟んでしまったせいで講師をする件を君に受け入れさせてしまった。」

「え?…あっ、」

ハッとしてレシュノルティアの方を見ると、まるで捨てられた子犬のようにしょんぼりとした顔をしている。
しまった、先程の言い方では、レシュノルティアの勘違いを私がびたように聞こえてしまったかもしれない。ルミエールの要求を聞き入れたのは、彼女を少しでも観察・監視できる立場が欲しいという私情まみれの返答なのに、こんな顔をさせてしまって申し訳ない。

「ち、違います!えっとほら、私も教え子が多い方がやる気が出ますし、ルミエールさんもきっと悪い子じゃないですよ。」

「気を使わなくても…、」

「気なんて使っていませんよ。私が困っていると思って助けようとしてくれたんですもの、嬉しいです。」

そうレシュノルティアに私は微笑むと、廊下に誰もいないかどうか辺りをよく見回して確認した。

「ありがとうございます、レイ。貴方にまだ大切だと言ってもらえて、私幸せです。」

すると、彼は一瞬驚いたかのような顔をして、急に私の腰を抱き寄せて距離を縮めて来る。そして私の顔をじっと見つめて来るので、それに私も目をぱちくりとさせていると、ここは学院内にも関わらず急に口付けされた。

「ん…!?ちょっ、ここは公爵邸じゃないんですよ!」

「今のは君が悪いと思うがな。」

「な、何がです。」

顎を持ち上げられると、するどい目つきの彼と嫌でも目が合った。ああ、このレシュノルティアの目を私は見たことがある。この目は、私が彼からの愛を軽んじる様なことを言ったり、疑うような事を言ってしまった時に向けられる眼差しだった。

「まだ、とはどういうつもりだ。…君は本当に、僕に愛されているという自覚がないようだな。
ジェンが何を心配しようが僕が君以外を愛することはないし、僕の妻になるのはジェンティアナ・レ・イフェイオンしかありえない。この言葉を軽く考えているのなら…これから痛い目に遭わせるぞ。二度とそんな言葉を言えないようにしてやる。」












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