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(※ここからジェンティアナ視点に戻ります。)

「午後の授業がもうすぐ始まるんじゃないでしょうか?」

「ん?午後の授業までならあと三十分はあるぜ。」

先程から何か黒いオーラを放つレシュノルティア遠回しに逃げようとした所だったのに、
空気を読めぬイーシアスの発言によって逃亡は不可能となった。

「あら、そうでしたか。あはは、」

「来てくださいますよね?」

「あー、…分かりました。」

今逃げたりしたら後が怖そうだ。彼が何に怒っているかは知らないが、ここは大人しくついて行くことにしよう。

「こちらです、先生。」

「どうも…。」

階段を登ってついて行った先、そこには小さくはあるが一つの研究室があった。確か学院の高等部に入ると、成績優秀者には個人の研究室が与えられる。ということは、レシュノルティアは高等部でも成績優秀な様だ。

「どうぞ、お入りください。」

「失礼します。」

部屋に入ると、まるで書店にいる時のような
インクの香りが部屋に漂っていた。そして机の上には、大きな魔法陣が描かれた用紙が何枚もあったり、魔法式を合成する計算などが黒板にびっしりと書き込まれてあったりと、何とも研究熱心な様子がうかがえる。

「すごい、もしかしてこれって影魔法と水魔法の魔術式を合成して、また少しオリジナルで書き換えてます?」

「少し読んだだけで分かるだなんて、流石です…とは思うが、今は素直に褒めてやれないな。」

振り返ると、ため息をついてネクタイを緩めているレシュノルティアが目に映る。やはり何も報告せずに講師を始めた事を、怒っているのだろうか。

「…どういう意味です?何も言わずに講師を始めたこと、怒っていらっしゃるんですか。」

「それは僕が干渉するところではないからな、引き受けると言ったのはジェンなんだから好きにすればいいと思っているよ。」

「じゃあ何に怒ってらっしゃるんです?」

「そうだな、強いて言えば先生の無防備さにですかね。」

「え?…きゃっ!?」

いきなり机の上に押し倒されて、思わず「何してるんですか、」と聞いてしまった。こんな所で押し倒されて、誰に見られているかも分からないのに、危険だ。

「やめて下さい、誰かに見られてるかもしれないのに…!」

「見られてませんし聞かれてないですよ。ここ、防音魔法がかかっているし、カーテンだって閉まっているでしょう。」

確かに部屋全体に何かしらの魔法がかかっているのは気がついていたし、カーテンが閉まっているせいで部屋も少し暗い。だが誰かに見られてはいなくても、私が彼の婚約者であっても、やはり教員として今の状況と体勢はまずい。

「それでもだめです!私は教員としてここにいるんですからね。」

「そうですね、今の貴方は教員だ。でも、自分が誰の婚約者なのかお忘れなんじゃないですか?」

「どういう、意味ですか。」

レシュノルティアはまた、はぁとため息を吐くと、片手で私の両腕を頭上近くで押さえ付けた。

「ほ、本当にどういうおつもりですかっ?」

「魔法を使うためのステッキは?」

「え?あ、スカートの右ポケットですけど…。」

「右ポケットね。」

するとレシュノルティアは容赦なく私のスカートの右ポケットに手を突っ込んでくる。
そして私が魔法学の授業で使っているスティックを取り出すと、それを床に落とした。

「レシュ、ノルティア様?本当に何を…。」

「はい、これでいとも簡単に何も抵抗出来ない状況にされてしまったが、何か弁明はあるか?」

「本当にどういうことか、私には分からないのですが…。」

「こんなにホイホイと研究室に連れ込まれて押し倒されて、魔法を使用するためのスティックも今君の手元にはない。危機管理能力が君には足りてなさそうだったんでな、忠告だ。」

それを言われて、思わずむっとしてしまった。レシュノルティアじゃなきゃ、こんなこと許したりなんてしない。でもやっぱり、教員であるのにそう思ってしまった時点で意識が低いのかもしれない。

「それは、ご忠告痛み入ります…。」

「…何が言いたいか分かっていなさそうだな、本当に。」

「え?ん、んんっ…!?」

ここは学院内だというのに、レシュノルティアは私に強引に口付けると必死に舌が入るのを拒んでいてもそれをこじ開けて舌を絡ませて来る。

「んぁっ…だめ、です…っ。」

抵抗したくても私が男性の力に適うわけもなく、そして太ももとの間にも彼の足が挟まれてしまい、何も抵抗出来なかった。そして次第に口付けから与えられた熱で、抵抗しようとする気すら失せてきてしまう。

「っは…、こんなことを他の男にされている所、誰かに見られて写真でも撮られたらどうする。…そんなことをされたら、すぐ君は僕の婚約者で無くなってしまって、僕も君を失うことになるだろうな。」
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