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二章
第49話 小さきものどもを丸めこめ
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「くっ、殺せ!」
「わしら命なぞ惜しくはないし、他の仲間だって売らんぞ!」
「そうじゃ!」
俺とガルデローヴの手の中にいる三体は、暴れようともがいている様子だ。
だが普通の人間ならまだしも、元魔王と現幹部の腕力を振りほどいて逃れることはできまい。
「まあそう騒ぐな。おとなしく聞け。俺はただお前らに頼み事があって来ただけなのだ」
「頼みじゃと!?」「それこそ怪しい!」「わしら魔法の実験台にされるんじゃ……!」
しかしうるさいな。
「なに、しっかりした家を一件建てたいから手伝いがほしいだけよ。専門分野だろう?働いた分だけパンとワインを報酬にやろうぞ。頷いてくれるなら目の前にある料理もちゃんとくれてやる。さあどうする?」
「信用ならん。死んだ方がましだと思える地獄につれていくんじゃろう」
「ああー……」
俺は露骨に深くため息をついた。
「故郷に残った同胞たちの安否が心配ではあるなあ。裏切り者の一族がどうなるか――考えだに恐ろしいわ。魔界で真面目に魔王軍に従って働いてくれているだけに、じつに惜しい」
「ま、魔界の同胞は関係ないじゃろ!」
「……そうだったな。もうお前らには関係ない話だった。故郷の同胞たちがどうなろうが、な。この話は忘れてくれ」
「…………!」
「頼みを聞いてくれないなら、仕方ない。別のノームにでも頼むとしようか」
「…………」
少し間があった。
ノームどもは顔を見合せる。
「ええい!聞けばええんじゃろう聞けば!」
やがてひとりのノームは赤ら顔をさらに赤くして叫んだ。
「おお、やってくれるか。それは助かる」
「やってもいいがわしら以外の同胞には手を出さんでくれい……」
涙目で訴えるノームもいる。
「うむ、頼んだぞ。ただ、後ろにいる人間には俺たちが魔族だと教えてはいかんぞ。絶対に口を滑らしたらいかん。お前らがこれからも《精霊》でいたければな」
「し、従うしかなかろう……」
「わしらも魔族であることは人間どもには知られておらんしな」
「はあ、なんでこんなことに……」
よし、脅迫――じゃない、交渉成立!
「コーラルさん、こういうことやらせると本当あくどいっすよね」
「やかましいわ」
ラミナに指示して、障壁を解除してもらう。
「すごいです先生……!精霊さん、初めて見ました。でもどうやって?」
「いやあ、最初ちょっと攻撃されたが、辛抱強く頼んだら手伝ってくれることになった。さすが心やさしいノームどもだ」
シオンに答える。
「心やさしいにしては、なんだか死んだような目をしていたり泣いているのもいるんですけど……」
不思議そうな顔をしているマヤが言った。
「なぜだろうなあ。わからん」
殺すなんて一言も言ってないんだがな。
ともあれ、これで家を作るための労働力が手にはいった。
「さて、では皆でメシを食うか!」
俺は言うが、
「メシじゃと?」
「毒じゃ!油断したところを毒で殺す気じゃ!」
めちゃ疑心暗鬼になってるなノームどもは。
仕方ないのだが。
「ならば俺が食わせてやろう。存分に食うがよい」
「うぎゃああっ、やめるんじゃあああ!」
俺はノーム用に置いてあったハンバーグを切り分けて無理やり口に入れる。
「フフルータン!」
「……?う、うまい、じゃと?」
死ななかったフフルータンを見て、ガルデローヴが掴んでいる二体もだんだんと警戒心が薄れてきた。
「殺すのではないのか?」
「もしくはボロ雑巾のようになるまで働かされるとか」
呆気に取られている二体に俺は首を振った。
「殺すつもりはないと言っているだろう。拘束する気も奴隷にする気もない。人聞きが悪いな」
「ノームさんたち、コーラルさんはそんなことしませんから安心してください。怖いのは見た目だけですから!」
マヤも言ってくれたが、やっぱ俺の見た目って怖いの?
「仕事内容は家の建設、報酬はメシだと言っただろうが。とりあえず今日は宴だ。食って飲むぞ!」
「…………」
ようやくわかったらしい。
抵抗する力がなくなったのを確認して、俺たちはノームどもを解放してやった。
「ま、まあ食い物をくれるならやってやらんでもないがの」
「うむ、うむ。まあ普段はわしらが勝手にやるだけで仕事など受けんがな、おぬしに免じて特別じゃ」
「しかしうまいのお。パンも絶品じゃて」
もう食い物をほおばりながらくつろぎはじめた。
現金なやつらだ。
「おお、そうだ、マヤ」
「なんです?」
「黒猪の毛皮や牙が残っておる。食えるところは俺がもらうが、それ以外は見つけてくれたマヤのもの、ということでどうだ?」
「え、でも……いいんですか?」
「もらっていけ。これは二人の報酬だからな」
「じゃあ……」
ウォフナーの話によると、黒猪は珍しく高価だ。
毛皮も牙も骨もいい値で売れるだろう。
ノームに顔を向ける。
「ノームども、毛皮なめせるか?」
「誰に言っておるんじゃ」
「貴族に金貨を山と積ませるくらいの最上級品にしてやるわい」
「時間をくれりゃあ、じゃがの」
うむ、心強い。
マヤはというと、隅に置いてある黒猪の毛皮と骨を見つめながら、なにか決意めいた表情をしていた。
「わしら命なぞ惜しくはないし、他の仲間だって売らんぞ!」
「そうじゃ!」
俺とガルデローヴの手の中にいる三体は、暴れようともがいている様子だ。
だが普通の人間ならまだしも、元魔王と現幹部の腕力を振りほどいて逃れることはできまい。
「まあそう騒ぐな。おとなしく聞け。俺はただお前らに頼み事があって来ただけなのだ」
「頼みじゃと!?」「それこそ怪しい!」「わしら魔法の実験台にされるんじゃ……!」
しかしうるさいな。
「なに、しっかりした家を一件建てたいから手伝いがほしいだけよ。専門分野だろう?働いた分だけパンとワインを報酬にやろうぞ。頷いてくれるなら目の前にある料理もちゃんとくれてやる。さあどうする?」
「信用ならん。死んだ方がましだと思える地獄につれていくんじゃろう」
「ああー……」
俺は露骨に深くため息をついた。
「故郷に残った同胞たちの安否が心配ではあるなあ。裏切り者の一族がどうなるか――考えだに恐ろしいわ。魔界で真面目に魔王軍に従って働いてくれているだけに、じつに惜しい」
「ま、魔界の同胞は関係ないじゃろ!」
「……そうだったな。もうお前らには関係ない話だった。故郷の同胞たちがどうなろうが、な。この話は忘れてくれ」
「…………!」
「頼みを聞いてくれないなら、仕方ない。別のノームにでも頼むとしようか」
「…………」
少し間があった。
ノームどもは顔を見合せる。
「ええい!聞けばええんじゃろう聞けば!」
やがてひとりのノームは赤ら顔をさらに赤くして叫んだ。
「おお、やってくれるか。それは助かる」
「やってもいいがわしら以外の同胞には手を出さんでくれい……」
涙目で訴えるノームもいる。
「うむ、頼んだぞ。ただ、後ろにいる人間には俺たちが魔族だと教えてはいかんぞ。絶対に口を滑らしたらいかん。お前らがこれからも《精霊》でいたければな」
「し、従うしかなかろう……」
「わしらも魔族であることは人間どもには知られておらんしな」
「はあ、なんでこんなことに……」
よし、脅迫――じゃない、交渉成立!
「コーラルさん、こういうことやらせると本当あくどいっすよね」
「やかましいわ」
ラミナに指示して、障壁を解除してもらう。
「すごいです先生……!精霊さん、初めて見ました。でもどうやって?」
「いやあ、最初ちょっと攻撃されたが、辛抱強く頼んだら手伝ってくれることになった。さすが心やさしいノームどもだ」
シオンに答える。
「心やさしいにしては、なんだか死んだような目をしていたり泣いているのもいるんですけど……」
不思議そうな顔をしているマヤが言った。
「なぜだろうなあ。わからん」
殺すなんて一言も言ってないんだがな。
ともあれ、これで家を作るための労働力が手にはいった。
「さて、では皆でメシを食うか!」
俺は言うが、
「メシじゃと?」
「毒じゃ!油断したところを毒で殺す気じゃ!」
めちゃ疑心暗鬼になってるなノームどもは。
仕方ないのだが。
「ならば俺が食わせてやろう。存分に食うがよい」
「うぎゃああっ、やめるんじゃあああ!」
俺はノーム用に置いてあったハンバーグを切り分けて無理やり口に入れる。
「フフルータン!」
「……?う、うまい、じゃと?」
死ななかったフフルータンを見て、ガルデローヴが掴んでいる二体もだんだんと警戒心が薄れてきた。
「殺すのではないのか?」
「もしくはボロ雑巾のようになるまで働かされるとか」
呆気に取られている二体に俺は首を振った。
「殺すつもりはないと言っているだろう。拘束する気も奴隷にする気もない。人聞きが悪いな」
「ノームさんたち、コーラルさんはそんなことしませんから安心してください。怖いのは見た目だけですから!」
マヤも言ってくれたが、やっぱ俺の見た目って怖いの?
「仕事内容は家の建設、報酬はメシだと言っただろうが。とりあえず今日は宴だ。食って飲むぞ!」
「…………」
ようやくわかったらしい。
抵抗する力がなくなったのを確認して、俺たちはノームどもを解放してやった。
「ま、まあ食い物をくれるならやってやらんでもないがの」
「うむ、うむ。まあ普段はわしらが勝手にやるだけで仕事など受けんがな、おぬしに免じて特別じゃ」
「しかしうまいのお。パンも絶品じゃて」
もう食い物をほおばりながらくつろぎはじめた。
現金なやつらだ。
「おお、そうだ、マヤ」
「なんです?」
「黒猪の毛皮や牙が残っておる。食えるところは俺がもらうが、それ以外は見つけてくれたマヤのもの、ということでどうだ?」
「え、でも……いいんですか?」
「もらっていけ。これは二人の報酬だからな」
「じゃあ……」
ウォフナーの話によると、黒猪は珍しく高価だ。
毛皮も牙も骨もいい値で売れるだろう。
ノームに顔を向ける。
「ノームども、毛皮なめせるか?」
「誰に言っておるんじゃ」
「貴族に金貨を山と積ませるくらいの最上級品にしてやるわい」
「時間をくれりゃあ、じゃがの」
うむ、心強い。
マヤはというと、隅に置いてある黒猪の毛皮と骨を見つめながら、なにか決意めいた表情をしていた。
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