邪教団の教祖になろう!

うどんり

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四章

60 ナタロン神父は悔しがる

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 教会。

 いつの間にか置いてあったニクネーヴィンからの手紙を握りしめて、ナタロン神父は忌々しげに机を叩いた。

「くそが!」

 おのれ……おのれ。

 不正を暴露するだと?

 どいつもこいつも馬鹿にしやがって! 馬鹿にしやがって!

「取引しようってのか。俺は神父だぞ。位階が下の雑魚が、この俺と、対等に、取引などと……!」

 ナタロン神父は立ち上がった。

 そうだ。ニクネーヴィンが消えれば誰も真実を語れなくなる!

 手紙を握りしめて、考えを巡らせる。

 すべて消し去ってやる!

 そのときドアをノックする音があり、スレムが中へ入ってくる。

「神父様、イレイルが重傷の状態で発見された件でお話が。治療の結果、イレイルはどうにか生きていたようですが、意識が戻りません」

 空気読めや頭の悪い糞が。

 内心スレムの登場に舌打ちをしながら、ナタロン神父は平静を装って答える。

「ああ、その件ですか」

 そういえば、シスターを捕らえるのに必死で、そっちはおろそかになっていた。

 あとで息の根を止める必要があるか……。

「それで、だからどうしたのです」

「なにか知っておられますか? 話では侵入した物取りに襲われたとのことですが……」

「知りませんよ」

 イレイルが倒れた件について、神父は皆に物取りの仕業と説明していた。

「神父様のお部屋にも侵入したのに何も盗まずに逃げたというのも妙だと思いまして。騎士を一方的に倒せるということは、かなりの手練のはず。組織的な犯行かもしれません」

 妙な勘ぐりをしやがる。

 思ったとき、ナタロン神父は妙案をひらめく。

「そう。そうなのです」

「そう、というと……?」

「イレイルをやった犯人がわかりました」

「いや、今知らないと――」

 スレムの言葉を遮って、ナタロン神父は穏やかに言った。

「異端者ニクネーヴィンとその仲間たちです。武器が現場に落ちていましたね?」

「ええ、ショートソードですね。銘のようなものが彫られていましたが、神父様は関係ないと――」

「調べた結果、ニクネーヴィンのものと判明しました」

「ニ、ニクネーヴィン?」

「小金持ちの商人ですよ。全国に組合を作って汚らしく金を儲けている悪党でもあります」

 お前も一回会ったことあるだろうが。

 とナタロン神父は内心苛立ちながら答える。

「なぜそのニクネーヴィンのものだと?」

「神が」

「神がそんなに具体的なことをおっしゃられたのですか?」

「そうです。今朝私の夢枕に立たれておっしゃられました」

「今信託が降りた、とおっしゃられましたが、それとはまた別に夢枕に立たれたのですか?」

「いつかは問題ではありません」

 スレムにしては、いきなりそんなことになって戸惑いしかない様子だ。

「神はこうも言いました。異端者ニクネーヴィンとその仲間を抹殺せよと」

「ま、抹殺ですか。それは……」

「皆殺しにします」

 ――空気読んでとにかく従え阿呆が。何こういうときだけ躊躇してやがる。

 ナタロン神父は心の内で悪態をつきつつ、勢いで押すことに決める。

 相手は、上の言うことがとにかく正しいと思っている常識知らずの小僧だ。視野が狭いし、反対意見は雑音に聞こえる。
 一星宗に浸かっているとありがちな人格だが――しかしだからこそ神を出汁にすれば操るのは容易い。

「戸惑うのはわかります。私も同じ気持ちですから。しかし我々は神のお言葉に従う使命を持っている。スレム、力になってくれますね?」

「そ、それは本当に神のお言葉なのですか」

「神託を疑うのですか?」

「……わ、わかりました。不信心な疑いをもってしまいました。申し訳ありません」

「よいのです」

 ナタロン神父はうなずく。

 よし、どうにか言いくるめられた。ならばこいつを使って、ニクネーヴィン抹殺といこう。

「『』を託します。最強の《人形の法具》にして唯一の型を」

 失敗はできない。最初から切り札を使う。

 ナタロン神父はデスクから首しかない人形の法具――指令型ペナンガランを取り出す。

 フレイバグやマナナンガルを操る通常の指令型とは違う、特別製の赤い指令型だ。

「潜伏場所はわかっています。この指令型で操る最強の法具で、どうにか敵を打ち倒してください。よろしくお願いしますよ」

 言って、ナタロン神父はなんのことはないように朗らかに笑った。
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