邪教団の教祖になろう!

うどんり

文字の大きさ
上 下
40 / 63
三章

40 よこしまな一歩

しおりを挟む
 俺は怒りを露わにしながら、

「やめとけと言っただろ! 持っているのを見られたらすぐにでも第六位階に落とされるぞ!」

 少女に怒鳴ってから、焦燥に駆られた。

 またフレイバグに襲われているのか?

 思っていると、あとからフレイバグが二体飛び出した。

「やっぱりか!」

 俺は靄を出現させると、手のひらにミナナゴのプロヴィデンス――ゲッカレイメイを形成する。
 一気に作ったらやはり二本。

 阻むように見えない盾を作り出し、フレイバグの進行を止める。

「このあいだの要領で――」

 もう一枚。
 見えない壁を作り出して攻撃用に、針のような細く鋭い姿に形成。
 フレイバグの頭部を二体もろとも串刺しにする。

 頭が潰れ光を失ったフレイバグはその場に倒れた。

 胸をなでおろす。

 ゲッカレイメイが一本形を崩して霧散する。
 それから俺は尻餅をついている女の子に向き直った。

「…………」

 女の子は、立ち上がらずにバツが悪そうに顔をそらした。

「摘んじゃいけないとわかっていて摘んでるな」

「あ、ありがとう。二度も。助かった。で、でも、どうやってフレイバグを……?」

「そんなことはどうでもいい」

 俺はごまかそうとする女の子をにらみつける。
 もとはといえばこの子が襲われていたせいで俺は死にかけたのだ。
 反省しているならよかったものの、懲りずにまたゲッカレイメイを摘んでいた。
 俺はこの子とたいして歳は違わなさそうだが、正直、叱ってやらなければ気がすまない。

「よほどその花を摘みたいらしいが、捕まったら終わりだぞ。わかっているのか」

「…………」

 少女は立ち上がって、開き直ったように俺を見た。

「あ、あなたは知らないの、この花のことを! この花が、姉を救ってくれるかもしれないことを!」

「姉を救う……?」

 意味がわからない。
 花が誰かを救うことなんてあるのか?

「聞いたことがあるの。一星宗がこの花の採取を禁じているのは、惑わされている者の目を覚まさせて真実を見つめる効果があるからだって。正気に戻って、一星宗の支配に疑問を持たせないように採取を禁じているんだって」

「正気に戻す?」

 薬草や摘んではいけない花に関しては、俺はそれなりに詳しい。

 正気に戻す……そんな迷信じみた効能聞いたことはない。

「だからこの花は、おかしくなっちゃった姉を助けるのに必要なの」

「…………」

 ゲッカレイメイの性質を少し考えると、

「……あ、そういうことか?」

 なんとなくその都市伝説の出どころがわかった気がする。

 この子のお姉さんは、たぶん薬物依存だ。

「薬物依存のお姉さんにこの花をすりつぶして飲ませれば、その薬物依存が治るかもしれない――そう言いたいわけだな?」

「……そうよ」

「この花は、根に毒性がある。一星宗が採取を禁じているのはそのためだ」

 俺は冷静な口調で、説明を始める。

「毒はあるんだが、適量を飲めば鎮痛作用がある。量に注意して服用すれば、薬になるんだ。ただ、中毒症状や依存状態を治すってのは都市伝説だ。むしろちょうどいい分量を飲むと頭がすっと軽くなるから、それが気持ちよくなって日常的に使っているとゲッカレイメイにも依存してしまう可能性がある。ただの鎮痛効果を勘違いした輩が広げたデマだ。この花でお姉さんの目を覚まさせるのは不可能だ。むしろこの花が持っている毒で殺してしまうかもしれない」

「そ、そんな……」

 昔は鎮痛作用があるということがわからず、毒性が強いことだけが強調され、採取が禁じられ異端の花となった。

 ファイドくらいの専門家でなければ扱えないし、もしその姉が薬物依存にでもなっているとすれば、その依存をこの花で取り除けるわけではない。

「これは素人が扱うには容易じゃない。依存が治るかどうかはわからないけど、腕のいい医者なら紹介できる。まあ今はちょっと外出していないんだが……そのうち紹介する。それで手を退いてくれ」

「…………」

 俺が説得しようとすると、少女は首を左右に振った。

「心を立ち直らせなきゃ意味ない……医者なんかじゃ」

「それは、そうだが。それはお姉さん次第だろ」

「せっかく入った修道院をすぐにやめて、一度だけふらふら家に帰ってきたと思ったら変な薬を勧められて! 話を聞いたら、変な男に促されて薬を使うようになったって言ってたから……」

「男に騙されて薬物依存にさせられたのか」

「だから、姉を――メルヴィを立ち直らせて、その男もなんとかしなきゃいけないの」

 男にも薬にも依存しているということか。

「少し厄介だな。どちらもどうにかしなきゃいけないってことだろ」

「そいつの名前も、いる場所もわかってる。私一人じゃどうにもできないかもしれないけど、姉だけでも正気に戻そうと思って……でもゲッカレイメイに正気を戻す効果がないんなら、私はどうすれば……」

 それは、一星宗に相談したほうがいい問題じゃないのか。
 あの聖刻騎士団と人形の法具なら、すぐに取り締まってくれそうだが。

「ちなみに、お前の姉をおかしくさせたやつの名前は知っているか?」

「うん。ニクネーヴィン、って名前」

「ニクネーヴィン!?」

 思わぬ名前が出てきて、俺は少女の顔をまじまじと見た。
 お互い、なんで知ってるのって雰囲気だ。
 いや、俺とダッタを助けてくれた男と名前だけ同じという可能性もあるだろうが。

「いや、違法な薬を扱っているとなると、いろいろ説明はつくか……」

 やはりナタロン神父たちから俺を助けたのは裏があってのことだろうか。

 人に薬を買わせて儲けている、ということか。

 俺に薬を買わせるために、いったん助けて自分を信頼するように仕組もうとしていたということか。
 俺を騙して薬漬けにすれば、ナタロン神父に賄賂を払う以上のリターンが見込める。

「ニクネーヴィンを知ってるの」

「昨日会って、招待状をもらった」

 俺はポケットからサインの書かれたカードを取り出す。

「少しこいつの素性が知りたくて、探りを入れようと思ってたんだ」

「…………」

 少女は絶句して、考えを巡らすように森の木々を見つめてから、俺を見た。

「お願い。私と一緒に、姉を助けに行ってほしい。今……何をやったのかわからなかったけど、フレイバグを二体簡単に倒したよね。きみとなら、怖い人が出てきてもどうにかなりそう」

「簡単に倒せるわけじゃない。制約がある」

「お、お礼ならなんだってするから」

 俺はすぐにうなずいた。
 この少女に言われるまでもなく、行動はすでに決まっている。

「俺も様子を見に行こうと思ってた。行き先は同じだ」

 ダッタがいないし様子を伺うだけにしておこうと思ったんだが……まあ、なりゆきだ。

「家にいるのは夜だけらしいから、夜にニクネーヴィンの家に行く。きみを連れて動くのは少し心配だけど」

「止めてもついていくから……」

「だろうな。いいけど、なんだってお礼をしてくれるのか?」

「……私にできることなら、だけど。まっ、まさか」

 少女は紅潮しながら、エフィに比べたら控えめな自分の膨らみを両手で隠すようにする。

「いや、なんでそうなる。俺からのお願いは一つだ」

 おそらくもっと面倒なことを頼むだろう。
 俺は悪魔と契約する罪人がするような含み笑いを作ると、

「これからはアケアロスではなくミナナゴを信仰してもらう。そうすればお姉さんを助けるのに力を貸す」

 教団づくりのよこしまな一歩を踏み出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者パーティーを追放された俺は腹いせにエルフの里を襲撃する

フルーツパフェ
ファンタジー
これは理不尽にパーティーを追放された勇者が新天地で活躍する物語ではない。 自分をパーティーから追い出した仲間がエルフの美女から、単に復讐の矛先を種族全体に向けただけのこと。 この世のエルフの女を全て討伐してやるために、俺はエルフの里を目指し続けた。 歪んだ男の復讐劇と、虐げられるエルフの美女達のあられもない姿が満載のマニアックファンタジー。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

処理中です...