邪教団の教祖になろう!

うどんり

文字の大きさ
上 下
11 / 63
二章

11 ダッタ

しおりを挟む
 飛び掛かろうとしていた男たちの動きが止まる。

「俺は戦いに来たんじゃない!」

 男たちはぽかんとした。

 たどたどしいながらもいきなり自分たちの言語を話しだした敵に面食らっているのだろう。

「お前たちの集落にキアラヴェアラという少女がいるだろ! その子に会いに来た! それだけなんだ!」

 彼らは少数なぶん、部族内のつながりが強い。
 明らかに知るはずのない内部情報を知っている人間――少なくとも無視はできないはずだ。
 捕まっても、集落へ入ってしまえば、そこでキアラヴェアラに助けてもらえばいい。

 問題なのは、この場で問答無用で殺されることだ。それだけはまずい。

「いたか? そんな名前のやつ」

「…………」

 男たちが目を合わせて、

「うちは全員が親戚みたいなもんだ。名前だって顔だって全員覚えてる」

 言ってからすぐに、男たちは殺気を込めた瞳で俺をねめつけた。

「キアラヴェアラ――そんな名前のやつは、うちの部族にはいない」

「ええええ!?」

 嘘だろ……!?

 ミナナゴに、でたらめを教えられたって言うのか!?

 男たちは俺を観察しながら、憤怒の表情をあらわにする。

「身なりがいい。《一星宗》からの敵だな。嘘の情報で村に潜入しようとしている。言葉まで覚えて……なんて忌々しい」

「ふざけやがって! 俺たちの仲間がどれだけやられたと思って……! 殺してやる! 殺してやるぞ、一星宗のクソが!」

 部族間抗争じゃない。

 こいつら、はっきりとアルトゥーサと――いや、一星宗と争いをしているのか……!

 大柄な男の方が踏み込んでくる。

 見た目のわりに素早い身のこなしだ。気づいたときには、刃の切っ先が目の前に見えている。

 俺はまた、花の盾を形成してそれを防ぐ。

「ちいっ、またか! 見えないが、なにかここにあるぞ!」

「こいつ、妙な術を使いやがるな。一星宗が使ってるような術みたいだ」

「じゃあやっぱ敵だよなあ!」

 ショートランスの柄を短く持って踏み込む、剣のような横薙ぎ。

 もう一方の男は距離をとって投げナイフ。
 どちらも見えない盾で防ぐ。

 俺には刺さらずその場に落ちる黒いナイフ。

 戦ってはいけない。
 俺はとにかく後ろに下がって距離をとるしかない。

 そのとき――

「!」

 小柄な少女が、空から降ってきた。

 いや、木々を利用して高く跳躍していたのだ。
 俺の頭上で、ショートスピアを振りかぶって落下してくる。

 男たちと模様の違う、赤と黒の染め物。
 こちらの方が華やかというか、少し派手な装いだ。
 同じように浅黒い肌に、黒く長い髪。年齢は、俺より下。
 十二、三歳くらいだ。

 その少女が、男たちと同じように、いや、むしろ男たちよりも速く身軽に、着ているものの裾が翻るのをためらわずに、手に持っている槍を繰る。
 ショートスピアの柄を短めに持っている。
 斬撃をするときの持ち方だ。

 落下の加速を利用して片手で打ち下ろされた槍を、花の盾でどうにか防ぐ。

「――つっ!」

 突如、足に激痛が走った。

 見ると、黒いナイフが俺の足の甲に突き刺さり、地面につなぎとめられていた。

 角度的に、おそらく少女が放った投げナイフ。
 頭上に意識を集中させて、足先に本命の攻撃を放っていたのだ。
 瞬時に状況を把握し、まずは俺の動きを封じるために。

 速すぎて見えなかった。
 何をしていたのかさえ、俺にはすぐに認識できなかった。

 痛みに立っていられず、膝をついた。

「ちょうどよかった。ダッタ、敵だ! 殺せ!」

「…………」

 ダッタと呼ばれた少女は、着地と同時に踏み込む。
 ショートスピアの柄を長く握る。
 突き殺すときの持ち方。

 正面から、槍が迫る。

 反応して正面に盾を向けたが、

「!」

 突如土が舞い上がった。
 舞い上がった土は盾に阻まれ、見えないはずの輪郭を浮き立たせる。
 正面への突きはフェイントだった。
 ダッタと呼ばれた少女は踵をひねって身体を横にさばきつつ、槍を斜めから下段に突く。

 見えない盾の範囲を見極めるために土砂を蹴り舞い上げたのだと気づいたときには、槍は盾の側面をすり抜けていた。

 狙いは小手……俺の左手首。
 盾の移動が間に合わない。

 状況判断も対策も早すぎる。
 なんだこの女の子は。
 このままでは、殺される――!

「キアラヴェアラ!」

 どうにもできなくなった俺はとっさに叫ぶ。

「――――」

 少女――ダッタの持つ黒い刃は、俺に致命的な一撃を与える前に動きを止めた。

「おっ、俺は、キアラヴェアラという少女を探している! 本当にきみも知らないのか!?」

「…………」

 ダッタは俺をねめつけたまま、じっと熟考しているように動かない。
 俺は続ける。

「きみの名前、ダッタといったけど、ダッタと歳は近いかもしれない。部族にはいないかもしれないが、昔そういう子がいたって記憶とかもないか!?」

 部族にいないということは、昔出て行ったか、行方不明になってしまったか……。

 とにかく、敵意だけだった少女の反応が変わった。
 何か知っているはずだ。

「おい、どうしたダッタ」

「さっさと殺せ!」

 殺気立つ男二人が、俺に槍先を向ける。

「……おっ、俺は、キアラヴェアラに会いに、アルトゥーサからここまで来たんだ。敵対しに来たんじゃない。俺はきみたちとは戦わない……!」

 必死になって言うと、ダッタは何か溜飲が下がったように槍を下ろして、

「まさか、ミナナゴ様の言ってた人だった……?」

「え?」

 つぶやくような声に、俺は脱力した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者パーティーを追放された俺は腹いせにエルフの里を襲撃する

フルーツパフェ
ファンタジー
これは理不尽にパーティーを追放された勇者が新天地で活躍する物語ではない。 自分をパーティーから追い出した仲間がエルフの美女から、単に復讐の矛先を種族全体に向けただけのこと。 この世のエルフの女を全て討伐してやるために、俺はエルフの里を目指し続けた。 歪んだ男の復讐劇と、虐げられるエルフの美女達のあられもない姿が満載のマニアックファンタジー。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

処理中です...