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二章
11 ダッタ
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飛び掛かろうとしていた男たちの動きが止まる。
「俺は戦いに来たんじゃない!」
男たちはぽかんとした。
たどたどしいながらもいきなり自分たちの言語を話しだした敵に面食らっているのだろう。
「お前たちの集落にキアラヴェアラという少女がいるだろ! その子に会いに来た! それだけなんだ!」
彼らは少数なぶん、部族内のつながりが強い。
明らかに知るはずのない内部情報を知っている人間――少なくとも無視はできないはずだ。
捕まっても、集落へ入ってしまえば、そこでキアラヴェアラに助けてもらえばいい。
問題なのは、この場で問答無用で殺されることだ。それだけはまずい。
「いたか? そんな名前のやつ」
「…………」
男たちが目を合わせて、
「うちは全員が親戚みたいなもんだ。名前だって顔だって全員覚えてる」
言ってからすぐに、男たちは殺気を込めた瞳で俺をねめつけた。
「キアラヴェアラ――そんな名前のやつは、うちの部族にはいない」
「ええええ!?」
嘘だろ……!?
ミナナゴに、でたらめを教えられたって言うのか!?
男たちは俺を観察しながら、憤怒の表情をあらわにする。
「身なりがいい。《一星宗》からの敵だな。嘘の情報で村に潜入しようとしている。言葉まで覚えて……なんて忌々しい」
「ふざけやがって! 俺たちの仲間がどれだけやられたと思って……! 殺してやる! 殺してやるぞ、一星宗のクソが!」
部族間抗争じゃない。
こいつら、はっきりとアルトゥーサと――いや、一星宗と争いをしているのか……!
大柄な男の方が踏み込んでくる。
見た目のわりに素早い身のこなしだ。気づいたときには、刃の切っ先が目の前に見えている。
俺はまた、花の盾を形成してそれを防ぐ。
「ちいっ、またか! 見えないが、なにかここにあるぞ!」
「こいつ、妙な術を使いやがるな。一星宗が使ってるような術みたいだ」
「じゃあやっぱ敵だよなあ!」
ショートランスの柄を短く持って踏み込む、剣のような横薙ぎ。
もう一方の男は距離をとって投げナイフ。
どちらも見えない盾で防ぐ。
俺には刺さらずその場に落ちる黒いナイフ。
戦ってはいけない。
俺はとにかく後ろに下がって距離をとるしかない。
そのとき――
「!」
小柄な少女が、空から降ってきた。
いや、木々を利用して高く跳躍していたのだ。
俺の頭上で、ショートスピアを振りかぶって落下してくる。
男たちと模様の違う、赤と黒の染め物。
こちらの方が華やかというか、少し派手な装いだ。
同じように浅黒い肌に、黒く長い髪。年齢は、俺より下。
十二、三歳くらいだ。
その少女が、男たちと同じように、いや、むしろ男たちよりも速く身軽に、着ているものの裾が翻るのをためらわずに、手に持っている槍を繰る。
ショートスピアの柄を短めに持っている。
斬撃をするときの持ち方だ。
落下の加速を利用して片手で打ち下ろされた槍を、花の盾でどうにか防ぐ。
「――つっ!」
突如、足に激痛が走った。
見ると、黒いナイフが俺の足の甲に突き刺さり、地面につなぎとめられていた。
角度的に、おそらく少女が放った投げナイフ。
頭上に意識を集中させて、足先に本命の攻撃を放っていたのだ。
瞬時に状況を把握し、まずは俺の動きを封じるために。
速すぎて見えなかった。
何をしていたのかさえ、俺にはすぐに認識できなかった。
痛みに立っていられず、膝をついた。
「ちょうどよかった。ダッタ、敵だ! 殺せ!」
「…………」
ダッタと呼ばれた少女は、着地と同時に踏み込む。
ショートスピアの柄を長く握る。
突き殺すときの持ち方。
正面から、槍が迫る。
反応して正面に盾を向けたが、
「!」
突如土が舞い上がった。
舞い上がった土は盾に阻まれ、見えないはずの輪郭を浮き立たせる。
正面への突きはフェイントだった。
ダッタと呼ばれた少女は踵をひねって身体を横にさばきつつ、槍を斜めから下段に突く。
見えない盾の範囲を見極めるために土砂を蹴り舞い上げたのだと気づいたときには、槍は盾の側面をすり抜けていた。
狙いは小手……俺の左手首。
盾の移動が間に合わない。
状況判断も対策も早すぎる。
なんだこの女の子は。
このままでは、殺される――!
「キアラヴェアラ!」
どうにもできなくなった俺はとっさに叫ぶ。
「――――」
少女――ダッタの持つ黒い刃は、俺に致命的な一撃を与える前に動きを止めた。
「おっ、俺は、キアラヴェアラという少女を探している! 本当にきみも知らないのか!?」
「…………」
ダッタは俺をねめつけたまま、じっと熟考しているように動かない。
俺は続ける。
「きみの名前、ダッタといったけど、ダッタと歳は近いかもしれない。部族にはいないかもしれないが、昔そういう子がいたって記憶とかもないか!?」
部族にいないということは、昔出て行ったか、行方不明になってしまったか……。
とにかく、敵意だけだった少女の反応が変わった。
何か知っているはずだ。
「おい、どうしたダッタ」
「さっさと殺せ!」
殺気立つ男二人が、俺に槍先を向ける。
「……おっ、俺は、キアラヴェアラに会いに、アルトゥーサからここまで来たんだ。敵対しに来たんじゃない。俺はきみたちとは戦わない……!」
必死になって言うと、ダッタは何か溜飲が下がったように槍を下ろして、
「まさか、ミナナゴ様の言ってた人だった……?」
「え?」
つぶやくような声に、俺は脱力した。
「俺は戦いに来たんじゃない!」
男たちはぽかんとした。
たどたどしいながらもいきなり自分たちの言語を話しだした敵に面食らっているのだろう。
「お前たちの集落にキアラヴェアラという少女がいるだろ! その子に会いに来た! それだけなんだ!」
彼らは少数なぶん、部族内のつながりが強い。
明らかに知るはずのない内部情報を知っている人間――少なくとも無視はできないはずだ。
捕まっても、集落へ入ってしまえば、そこでキアラヴェアラに助けてもらえばいい。
問題なのは、この場で問答無用で殺されることだ。それだけはまずい。
「いたか? そんな名前のやつ」
「…………」
男たちが目を合わせて、
「うちは全員が親戚みたいなもんだ。名前だって顔だって全員覚えてる」
言ってからすぐに、男たちは殺気を込めた瞳で俺をねめつけた。
「キアラヴェアラ――そんな名前のやつは、うちの部族にはいない」
「ええええ!?」
嘘だろ……!?
ミナナゴに、でたらめを教えられたって言うのか!?
男たちは俺を観察しながら、憤怒の表情をあらわにする。
「身なりがいい。《一星宗》からの敵だな。嘘の情報で村に潜入しようとしている。言葉まで覚えて……なんて忌々しい」
「ふざけやがって! 俺たちの仲間がどれだけやられたと思って……! 殺してやる! 殺してやるぞ、一星宗のクソが!」
部族間抗争じゃない。
こいつら、はっきりとアルトゥーサと――いや、一星宗と争いをしているのか……!
大柄な男の方が踏み込んでくる。
見た目のわりに素早い身のこなしだ。気づいたときには、刃の切っ先が目の前に見えている。
俺はまた、花の盾を形成してそれを防ぐ。
「ちいっ、またか! 見えないが、なにかここにあるぞ!」
「こいつ、妙な術を使いやがるな。一星宗が使ってるような術みたいだ」
「じゃあやっぱ敵だよなあ!」
ショートランスの柄を短く持って踏み込む、剣のような横薙ぎ。
もう一方の男は距離をとって投げナイフ。
どちらも見えない盾で防ぐ。
俺には刺さらずその場に落ちる黒いナイフ。
戦ってはいけない。
俺はとにかく後ろに下がって距離をとるしかない。
そのとき――
「!」
小柄な少女が、空から降ってきた。
いや、木々を利用して高く跳躍していたのだ。
俺の頭上で、ショートスピアを振りかぶって落下してくる。
男たちと模様の違う、赤と黒の染め物。
こちらの方が華やかというか、少し派手な装いだ。
同じように浅黒い肌に、黒く長い髪。年齢は、俺より下。
十二、三歳くらいだ。
その少女が、男たちと同じように、いや、むしろ男たちよりも速く身軽に、着ているものの裾が翻るのをためらわずに、手に持っている槍を繰る。
ショートスピアの柄を短めに持っている。
斬撃をするときの持ち方だ。
落下の加速を利用して片手で打ち下ろされた槍を、花の盾でどうにか防ぐ。
「――つっ!」
突如、足に激痛が走った。
見ると、黒いナイフが俺の足の甲に突き刺さり、地面につなぎとめられていた。
角度的に、おそらく少女が放った投げナイフ。
頭上に意識を集中させて、足先に本命の攻撃を放っていたのだ。
瞬時に状況を把握し、まずは俺の動きを封じるために。
速すぎて見えなかった。
何をしていたのかさえ、俺にはすぐに認識できなかった。
痛みに立っていられず、膝をついた。
「ちょうどよかった。ダッタ、敵だ! 殺せ!」
「…………」
ダッタと呼ばれた少女は、着地と同時に踏み込む。
ショートスピアの柄を長く握る。
突き殺すときの持ち方。
正面から、槍が迫る。
反応して正面に盾を向けたが、
「!」
突如土が舞い上がった。
舞い上がった土は盾に阻まれ、見えないはずの輪郭を浮き立たせる。
正面への突きはフェイントだった。
ダッタと呼ばれた少女は踵をひねって身体を横にさばきつつ、槍を斜めから下段に突く。
見えない盾の範囲を見極めるために土砂を蹴り舞い上げたのだと気づいたときには、槍は盾の側面をすり抜けていた。
狙いは小手……俺の左手首。
盾の移動が間に合わない。
状況判断も対策も早すぎる。
なんだこの女の子は。
このままでは、殺される――!
「キアラヴェアラ!」
どうにもできなくなった俺はとっさに叫ぶ。
「――――」
少女――ダッタの持つ黒い刃は、俺に致命的な一撃を与える前に動きを止めた。
「おっ、俺は、キアラヴェアラという少女を探している! 本当にきみも知らないのか!?」
「…………」
ダッタは俺をねめつけたまま、じっと熟考しているように動かない。
俺は続ける。
「きみの名前、ダッタといったけど、ダッタと歳は近いかもしれない。部族にはいないかもしれないが、昔そういう子がいたって記憶とかもないか!?」
部族にいないということは、昔出て行ったか、行方不明になってしまったか……。
とにかく、敵意だけだった少女の反応が変わった。
何か知っているはずだ。
「おい、どうしたダッタ」
「さっさと殺せ!」
殺気立つ男二人が、俺に槍先を向ける。
「……おっ、俺は、キアラヴェアラに会いに、アルトゥーサからここまで来たんだ。敵対しに来たんじゃない。俺はきみたちとは戦わない……!」
必死になって言うと、ダッタは何か溜飲が下がったように槍を下ろして、
「まさか、ミナナゴ様の言ってた人だった……?」
「え?」
つぶやくような声に、俺は脱力した。
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