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無知なる罪 ①
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翌朝のことだ。
「魔王様っ! たいへんだ!」
耳元の騒々しい声が、寝入っていたカイリの意識を叩き起こす。
「トト~? なに~?」
「フィリウスの奴が帰ってきたんだ! それも大勢引き連れて! だから、早く起きてくれよっ」
「ふぁ~い」
内容が耳に入らないまま瞼をこすり、枕元に畳んだ服に手をかける。寝ぼけ眼で天蓋付きのベッドから下りるカイリは、トトの首根っこを掴むソーニャに気がついた。
「ほら、もういいでしょーが。これ以上の無礼は目に余るわよ」
「あっこらっ。引きずんな! 自分で歩けるっての! なぁ!」
「うっさいわねぇ。声だけは一人前だわ」
二人のそんなやり取りに、思わず頬が緩む。
「魔王様、食堂でお待ちしております」
トトを引っ掴んだまま優雅に一礼して、ソーニャは静かに部屋を後にする。
「ふふ」
カイリは上機嫌だった。できたばかりの友人と、妹分とが打ち解けていることがどうしようもなく嬉しい。
この世界にやってきてからというもの、友人と呼べる者はトトだけだった。そして昨日、新しい友ができた。代えがたい宝を得たと、カイリは顔がほころぶのを抑えられない。
鼻歌を奏でながら身だしなみを整え、スキップで食堂へ向かう。カイリが姿を見せると、席についていたソーニャとトトが立ち上がって一礼した。
「魔王様。よき日の朝に」
ソーニャの厳かな挨拶に、カイリはあくびをしながら「おあよー」と答える。
「トト。さっき何か言ってたけど、どうしたの?」
「どーしたもこーしたもねーって。フィリウスの奴が帰ってきたんだってさ」
「そうなんだ。意外と早かったね。じゃあ、朝ごはん食べたらお話しに行こっか」
ぱっと表情を明るくしたカイリに対して、トトとソーニャは不穏な様相を崩さない。
「あれ? どうしたの?」
「残念ですが、お話の前に戦が始まりそうですわ」
「いくさ?」
「愚かにも魔王様に挑まんと、北部の郷主どもが大勢押しかけてきたようです」
カイリは昨日の事件を思い出す。こちらの話を聞かず、憤って攻撃してきた青年と、その末路。そして、過去に続いた同様の出来事も。
「また、戦わなくちゃいけないの?」
憂いた吐息が足元に落ちる。
「魔王様の支配を認めたくねぇ連中がいやがんのさ」
「支配だなんて。わたし、そんなつもりじゃ――」
弁解じみた言葉はそこで止まった。
カイリとて理解している。強大な力を手にした以上、対等な対話にはならない。強者の言葉には力が乗る。相手に従うか抗うかの二択を強いる。
俯いたカイリを見て、ソーニャとトトは顔を見合わせた。
「ともかく、お座りください。魔王様」
促され、カイリは無言でテーブルにつく。
ソーニャの赤い瞳が、トトを一瞥した。
「魔王様っ! たいへんだ!」
耳元の騒々しい声が、寝入っていたカイリの意識を叩き起こす。
「トト~? なに~?」
「フィリウスの奴が帰ってきたんだ! それも大勢引き連れて! だから、早く起きてくれよっ」
「ふぁ~い」
内容が耳に入らないまま瞼をこすり、枕元に畳んだ服に手をかける。寝ぼけ眼で天蓋付きのベッドから下りるカイリは、トトの首根っこを掴むソーニャに気がついた。
「ほら、もういいでしょーが。これ以上の無礼は目に余るわよ」
「あっこらっ。引きずんな! 自分で歩けるっての! なぁ!」
「うっさいわねぇ。声だけは一人前だわ」
二人のそんなやり取りに、思わず頬が緩む。
「魔王様、食堂でお待ちしております」
トトを引っ掴んだまま優雅に一礼して、ソーニャは静かに部屋を後にする。
「ふふ」
カイリは上機嫌だった。できたばかりの友人と、妹分とが打ち解けていることがどうしようもなく嬉しい。
この世界にやってきてからというもの、友人と呼べる者はトトだけだった。そして昨日、新しい友ができた。代えがたい宝を得たと、カイリは顔がほころぶのを抑えられない。
鼻歌を奏でながら身だしなみを整え、スキップで食堂へ向かう。カイリが姿を見せると、席についていたソーニャとトトが立ち上がって一礼した。
「魔王様。よき日の朝に」
ソーニャの厳かな挨拶に、カイリはあくびをしながら「おあよー」と答える。
「トト。さっき何か言ってたけど、どうしたの?」
「どーしたもこーしたもねーって。フィリウスの奴が帰ってきたんだってさ」
「そうなんだ。意外と早かったね。じゃあ、朝ごはん食べたらお話しに行こっか」
ぱっと表情を明るくしたカイリに対して、トトとソーニャは不穏な様相を崩さない。
「あれ? どうしたの?」
「残念ですが、お話の前に戦が始まりそうですわ」
「いくさ?」
「愚かにも魔王様に挑まんと、北部の郷主どもが大勢押しかけてきたようです」
カイリは昨日の事件を思い出す。こちらの話を聞かず、憤って攻撃してきた青年と、その末路。そして、過去に続いた同様の出来事も。
「また、戦わなくちゃいけないの?」
憂いた吐息が足元に落ちる。
「魔王様の支配を認めたくねぇ連中がいやがんのさ」
「支配だなんて。わたし、そんなつもりじゃ――」
弁解じみた言葉はそこで止まった。
カイリとて理解している。強大な力を手にした以上、対等な対話にはならない。強者の言葉には力が乗る。相手に従うか抗うかの二択を強いる。
俯いたカイリを見て、ソーニャとトトは顔を見合わせた。
「ともかく、お座りください。魔王様」
促され、カイリは無言でテーブルにつく。
ソーニャの赤い瞳が、トトを一瞥した。
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