147 / 152
小さな掌握 ①
しおりを挟む
堀も塀も飛び越えてカイリの前に着地した彼らは、カイリ達の姿を見とめた後、きょろきょろと辺りを見渡した。
「魔王様はどちらか?」
問いを受けて、カイリが一歩前に出る。
「魔王はわたしです」
「あなたが……? なんと、これは失敬」
壮年はすぐさま拳と掌を合わせ一礼した。
「先程は郷の者が非礼をはたらき、まこと申し訳ありませぬ。我ら郷主フィリウスに代わり、平に謝罪いたします」
ソーニャはジメっとした非難の視線を男達に向けた。礼を尽くすには遅すぎる。せっかく造った門から入ってこいとも思った。
「ソーニャちゃん。この人達は?」
「郷の重役達です」
「重役……偉い人ってことだよね」
カイリは彼らに向き直って姿勢を正すと、ぎこちない礼で応えた。
「はじめまして。わたし、カイリ・イセっていいます。よろしくお願いします」
明るい笑顔。朗らかな声。
重役達はしばし呆気にとられた。今や魔族の半数以上を従える魔王が、自分達のような小物に礼儀を示すとは露ほども思っていなかったからだ。往々にして強者とは傲岸不遜。彼らにとって卑下や謙遜は誇りなき行為である。カイリの振る舞いは、魔族の価値観において非常識であるが故に、重役達はその真意を深読みしてしまう。
「やいっ。魔王様が名乗ったんだぞ! なにボケっとしてやがんだっ」
カイリの傍でトトが喚くと、重役達は表情を引き締める。
「遅ればせながら。私はパテルの郷のルモート・イヴィンと申す者」
改めて一礼した壮年に続き、重役達は口々に名乗りを並べる。
「んで、なんの用だ? 魔王様は忙しいんだぞっ。てめぇらなんかに構ってる時間がもったいないくれーになっ」
「トト。やめてったら」
カイリに頭をはたかれ、トトはようやく口を閉じる。
ルモートがコホンと咳払いを漏らして、場の空気を改めた。
「魔王様におかれましては、ぜひ我らの郷にお越し頂きたく、郷主に代わりお迎えにあがりました」
「迎えですか? でもフィリウスさんはお出かけ中って聞きました」
「仰る通り。されば郷主が帰ってくるまでの間、我らで歓待をと」
「えっと……気持ちは嬉しいんですけど、ごめんなさい。先にソーニャちゃんが招待してくれたので」
ソーニャを一瞥し、困ったように笑うカイリ。
「どうかお聞きください。その者は魔族の風上にも置けぬ人間かぶれ。魔王様を招くにふさわしくありませぬ」
冷たい視線をソーニャに向け、ルモートははっきりと口にした。
「人間かぶれ?」
「左様。この悪趣味な住処をご覧ください。その者が人間ごときに傾倒している確たる証拠ではありませんか」
「えっ」
カイリは思わず背後の城を見返した。視界の端にはソーニャのうんざりしたような表情が映っている。ソーニャとこの城が侮辱されていると悟ったカイリは、不機嫌になるのを隠そうともしなかった。
「魔王様はどちらか?」
問いを受けて、カイリが一歩前に出る。
「魔王はわたしです」
「あなたが……? なんと、これは失敬」
壮年はすぐさま拳と掌を合わせ一礼した。
「先程は郷の者が非礼をはたらき、まこと申し訳ありませぬ。我ら郷主フィリウスに代わり、平に謝罪いたします」
ソーニャはジメっとした非難の視線を男達に向けた。礼を尽くすには遅すぎる。せっかく造った門から入ってこいとも思った。
「ソーニャちゃん。この人達は?」
「郷の重役達です」
「重役……偉い人ってことだよね」
カイリは彼らに向き直って姿勢を正すと、ぎこちない礼で応えた。
「はじめまして。わたし、カイリ・イセっていいます。よろしくお願いします」
明るい笑顔。朗らかな声。
重役達はしばし呆気にとられた。今や魔族の半数以上を従える魔王が、自分達のような小物に礼儀を示すとは露ほども思っていなかったからだ。往々にして強者とは傲岸不遜。彼らにとって卑下や謙遜は誇りなき行為である。カイリの振る舞いは、魔族の価値観において非常識であるが故に、重役達はその真意を深読みしてしまう。
「やいっ。魔王様が名乗ったんだぞ! なにボケっとしてやがんだっ」
カイリの傍でトトが喚くと、重役達は表情を引き締める。
「遅ればせながら。私はパテルの郷のルモート・イヴィンと申す者」
改めて一礼した壮年に続き、重役達は口々に名乗りを並べる。
「んで、なんの用だ? 魔王様は忙しいんだぞっ。てめぇらなんかに構ってる時間がもったいないくれーになっ」
「トト。やめてったら」
カイリに頭をはたかれ、トトはようやく口を閉じる。
ルモートがコホンと咳払いを漏らして、場の空気を改めた。
「魔王様におかれましては、ぜひ我らの郷にお越し頂きたく、郷主に代わりお迎えにあがりました」
「迎えですか? でもフィリウスさんはお出かけ中って聞きました」
「仰る通り。されば郷主が帰ってくるまでの間、我らで歓待をと」
「えっと……気持ちは嬉しいんですけど、ごめんなさい。先にソーニャちゃんが招待してくれたので」
ソーニャを一瞥し、困ったように笑うカイリ。
「どうかお聞きください。その者は魔族の風上にも置けぬ人間かぶれ。魔王様を招くにふさわしくありませぬ」
冷たい視線をソーニャに向け、ルモートははっきりと口にした。
「人間かぶれ?」
「左様。この悪趣味な住処をご覧ください。その者が人間ごときに傾倒している確たる証拠ではありませんか」
「えっ」
カイリは思わず背後の城を見返した。視界の端にはソーニャのうんざりしたような表情が映っている。ソーニャとこの城が侮辱されていると悟ったカイリは、不機嫌になるのを隠そうともしなかった。
0
お気に入りに追加
91
あなたにおすすめの小説
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる