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魔王到来 ①
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ソーニャはすぐさま崖を駆け下りた。真っ逆さまに森に入り、木から木へと軽快に飛び移って、あっという言う間に郷に辿り着く。
広場に現れたソーニャを見た住民達は溜息を吐いたり顔をしかめたりしたが、それ以上は反応しない。いつもならそれでも構わないが、今回ばかりは事情が違った。ソーニャはずかずかと議論の輪に踏み入ると、ぐるりと住民達を見回した。
「ふふん」
ざわついていた広場がわずかに静まる。場の注目を一身に浴びたソーニャは、細い腰に手を当て、したり顔を浮かべてみせた。
「んだよ。今はお前に構ってる場合じゃねぇんだ」
「あっち行ってろ! 人間かぶれ!」
議論の中心者達にすげなくされるが、ソーニャをそれを意にも留めない。
「ふーん、あっそ。でもいいのかしらぁ? のんびり話し合いなんかしちゃってて」
「あ? 言いたいことがあんならさっさと言えよ」
白い人差し指を、ゆっくりと郷の入口に向ける。
「きちゃったわよ。魔王」
ソーニャが指した方へ、皆が揃って目線を移した。
魔族は視力にも秀でている。住民のほとんどが、郷へと近づいてくる小さな二つの人影を捉えていた。
にわかに騒然さを取り戻す広場。先刻とは比較にならないほど盛んなざわつきだった。
「時間切れかよ。議論は終いだな」
対立陣営の一方。抗戦を主張していた若い男が、郷の出口へ足を向ける。
「おい待て! 話はまだ終わっていない!」
それを止めたのは、恰幅のいい壮年の男性だ。
「なんだ? 魔王とやらはすぐそこまで来てんだぜ。この期に及んでのんびりお喋りかよ?」
「時間がないからこそ、早急に魔王を招き入れる準備を整えるべきだ」
「日和ってんじゃねぇよ。あんたもこの郷の二番手なら、地元を守る気概見せろや」
「言いたいことはわかる……しかし世界は広いんだ。私もお前も決して弱いとは思わないが、世の中にはどんなに背伸びしたって敵わない相手がいる。郷主とてそうだろう」
「だから戦いもせずに下れってか? 強ぇかどうかも分からねぇ相手に?」
「私は誰にも死んでほしくないのだ。わかってくれ」
「わからねぇな。強ぇ奴に挑んで死ぬなら本望だぜ。あのルーク・ヴェルーシェは、そうやって戦い続けて最強になったんだ」
周囲から同意の声があがる。多くは血気盛んな若い魔族達。
めざめの騎士を一騎討ちにて破ったルーク・ヴェルーシェの名は、今や大陸中に轟いている。若者の間で命より武名を重んじる傾向が強まったのも、彼の武勇伝によるところが大きい。個の武勇を至高の価値とする魔族にとって、ルークの生き様はなにより魅力的に映った。
「行くぞ! 魔王と戦いてぇ奴は俺に続け!」
降伏派の制止も聞かず、青年達はこぞって郷から飛び出していった。ある者は飛空魔法を用いて。ある者は強化した脚力で。ある者は従僕の獣を駆って。
残された者達は恐々とその後姿を見送るのみ。
「あたしも行こーっと」
ソーニャは抗戦派の後を追う。もちろんそちらの方が面白そうだから。それ以外の理由はない。
飛空魔法で一直線。若者達が魔王と対峙したのを見て、ソーニャは近くの樹上から見物を決めこむ。
広場に現れたソーニャを見た住民達は溜息を吐いたり顔をしかめたりしたが、それ以上は反応しない。いつもならそれでも構わないが、今回ばかりは事情が違った。ソーニャはずかずかと議論の輪に踏み入ると、ぐるりと住民達を見回した。
「ふふん」
ざわついていた広場がわずかに静まる。場の注目を一身に浴びたソーニャは、細い腰に手を当て、したり顔を浮かべてみせた。
「んだよ。今はお前に構ってる場合じゃねぇんだ」
「あっち行ってろ! 人間かぶれ!」
議論の中心者達にすげなくされるが、ソーニャをそれを意にも留めない。
「ふーん、あっそ。でもいいのかしらぁ? のんびり話し合いなんかしちゃってて」
「あ? 言いたいことがあんならさっさと言えよ」
白い人差し指を、ゆっくりと郷の入口に向ける。
「きちゃったわよ。魔王」
ソーニャが指した方へ、皆が揃って目線を移した。
魔族は視力にも秀でている。住民のほとんどが、郷へと近づいてくる小さな二つの人影を捉えていた。
にわかに騒然さを取り戻す広場。先刻とは比較にならないほど盛んなざわつきだった。
「時間切れかよ。議論は終いだな」
対立陣営の一方。抗戦を主張していた若い男が、郷の出口へ足を向ける。
「おい待て! 話はまだ終わっていない!」
それを止めたのは、恰幅のいい壮年の男性だ。
「なんだ? 魔王とやらはすぐそこまで来てんだぜ。この期に及んでのんびりお喋りかよ?」
「時間がないからこそ、早急に魔王を招き入れる準備を整えるべきだ」
「日和ってんじゃねぇよ。あんたもこの郷の二番手なら、地元を守る気概見せろや」
「言いたいことはわかる……しかし世界は広いんだ。私もお前も決して弱いとは思わないが、世の中にはどんなに背伸びしたって敵わない相手がいる。郷主とてそうだろう」
「だから戦いもせずに下れってか? 強ぇかどうかも分からねぇ相手に?」
「私は誰にも死んでほしくないのだ。わかってくれ」
「わからねぇな。強ぇ奴に挑んで死ぬなら本望だぜ。あのルーク・ヴェルーシェは、そうやって戦い続けて最強になったんだ」
周囲から同意の声があがる。多くは血気盛んな若い魔族達。
めざめの騎士を一騎討ちにて破ったルーク・ヴェルーシェの名は、今や大陸中に轟いている。若者の間で命より武名を重んじる傾向が強まったのも、彼の武勇伝によるところが大きい。個の武勇を至高の価値とする魔族にとって、ルークの生き様はなにより魅力的に映った。
「行くぞ! 魔王と戦いてぇ奴は俺に続け!」
降伏派の制止も聞かず、青年達はこぞって郷から飛び出していった。ある者は飛空魔法を用いて。ある者は強化した脚力で。ある者は従僕の獣を駆って。
残された者達は恐々とその後姿を見送るのみ。
「あたしも行こーっと」
ソーニャは抗戦派の後を追う。もちろんそちらの方が面白そうだから。それ以外の理由はない。
飛空魔法で一直線。若者達が魔王と対峙したのを見て、ソーニャは近くの樹上から見物を決めこむ。
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