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デルニエール攻防戦 王国軍サイド④ 下

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「若様もどうか、奥でお休みを。敵はひとまず去りました」

「いや、まずはこちらの被害を把握したい。ジークヴァルド将軍はどこか?」

「ここにおりますぞ」

 図ったかのようなタイミングで、ジークヴァルドが城壁に現れた。兜を小脇に抱えて大股で歩く快活さは、戦いの疲れを微塵も感じさせない。

「地上部隊は全て城内へ戻っております。歩兵部隊の損害は百五十ほど。我が重騎兵隊は……申し訳ありませぬ。私を除き、全滅しました」

 その報告に、周囲の将兵達は皆一様に口を噤んだ。
 ソーンはひととき瞼を落とし、長い鼻息を吐き出す。

「気にするな、というのは無理かもしれないけど。将軍、あなたはよくやったさ」

 四神将ルーク・ヴェルーシェの鬼神のごとき強さは、遠目から見ても際立っていた。空の対処で精一杯であったが、ソーンは視界の端に映る一騎討ちをしっかりと目撃していた。

「あなたが生き残ってくれただけで儲けものだ。名将ジークヴァルドは決して、部下の死を無駄にはしない」

「若」

 ソーンの言葉で、ジークヴァルドの沈痛な面持ちが多少和らいだ。

「さぁみんな。僕達はなんとか敵を撃退した。あくまで今日のところはだ。今は一息つけるけど、戦いが終わったわけじゃない。だから、改めて気を引き締めよう。またいつ敵が攻めてくるかわからないんだ」

 ソーンは掠れた声を精一杯張った。兵士達への激励のつもりであったが、如何せん反応は薄い。
 無理もない。皆疲弊しているのだ。ここにいるほとんどは、この戦いの為に徴兵された者達。最初は士気旺盛であっても、長時間の戦闘は彼らの心身を著しく消耗させていた。
 こんな状態で、明日も同じように戦うことができるのだろうか。とてもそうは思えない。
 能器将軍が率いてきた援軍は頼りになるだろう。だが、彼らに任せきりというわけにもいかない。政治的にも、心情的にも、デルニエールはそこに住む者達が守らねば意味がないのだ。
 ソーンは赤く焼けた天を仰ぐ。
 四神将の力は強大だ。メイホーンは死に、ジークヴァルドやハーフェイすらも敵わなかった。人間は数と団結を武器にするが、それだけでは四神将を倒すに及ばない。
 彼らに対抗するには、こちらにも強大な個の力が必要だ。数も団結も、個の力が活きてこそ輝くのだから。
 デルニエール攻防戦初日は、多くが想定外の展開だった。ソーンは頭の中で描いていたシナリオを、もう一度練り直さねばならなかった。
 だが、目論見通り進む計画がないわけではない。
 この戦いを通して、自ずと民の心はソーンに集まりつつあった。ティミドゥス公が持つのは権威と象徴だけであり、君主としての実がないことを民は見抜いたのだ。
 その気付きこそ、ソーンが民衆に求めてやまない革命への第一歩であった。
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