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デルニエール攻防戦 王国軍サイド③ 下

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「デルニエールの将軍と見受ける」

 兜のスリットから覗く金の一つ目に射抜かれ、ジークヴァルドは一抹の恐怖を抱く。それが伝わったのか、跨る馬が何度が地を叩いた。

「我が名はルーク・ヴェルーシェ。卿との一騎討ちを望む」

「四神将か……!」

 ハルバードを握り直し、ジークヴァルドは息を呑む。
 ソーニャ・コワールの他に四神将が現れるのは想定内だ。
 それよりも部下達はどうなったのか。ジークヴァルドの懸念はそこだった。

「一騎討ちとは剛毅だな。わざわざ数の利を捨てる気か?」

 手綱を操り馬を落ち着かせる。ルークへの言葉に、時間稼ぎ以外の意図はない。

「まことの戦士は数に頼まず」

 そろそろ砂煙が晴れる。

「なんと……!」

 そこにあったのは、夥しい数の骸。重騎兵五百。死屍累々の様相を呈していた。
 鎧の上から両断された者。馬ごと斬り捨てられた者。頭部を失った骸もあれば、原型を留めぬほど斬り刻まれた死体もあった。
 驚くべきは、陣形を組み高速で突撃する騎兵隊をたった十数秒で殲滅したことだ。常軌を逸している。いくら砂煙の中とはいえ、そんなことが可能なのか。

「いざ」

 ルークの騎馬、ガンドルフが一歩を踏み出す。
 ただそれだけの動作が、ジークヴァルドに息苦しいほどの重圧を与える。
 刹那。ルークの大剣が眼前にあった。

「ぬ――」

 魔法で強化された動体視力をもってして尚、捉えきれぬ速さ。初撃を防御できたのは、歴戦を生き抜いた直感の賜物であった。

「――ぅんッ!」

 ルークが放ったのは工夫のない斬り下ろし。大剣の重量を乗せた一撃は、彼の尋常ならざる膂力と相俟って、ジークヴァルドを馬ごと後方へ打ち飛ばした。
 ハルバードの柄が歪み、弾き飛ばされる。ジークヴァルドは空中で馬を巧みに操って着地。何とか落馬を免れたが、肝心の武器を失った。

「これが、四神将……」

 両手は痺れ、握力は半減している。腰の剣を抜いてみるが、こんなもので歯が立つか。
 歴戦の将だからこそわかる死期。鬼神のごとき敵を前にして、ジークヴァルドは自身の力が及ばないことを悟る。

「すまぬ」

 デルニエールで待つ妻と娘に、届かぬ謝罪を口にする。

「だが最期まで退きはせぬ。デルニエールの騎士、ジークヴァルドの名をその身に刻んでもらうぞ!」

 手綱を握り、ルークへと突撃。小細工なしの力比べだ。

「ジークヴァルド。その名、憶えておこう」

 ルークの大剣が風を斬り、老将軍の長剣と重なった。
 大剣が長剣を弾き飛ばす。
 後の結果は、言うまでもない。
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