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魔王の城 ①
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同刻。
北方の森林地帯。魔族領の中心に佇む魔王の居城。
空を覆い尽くすほどの高い木々に囲まれながら、それを遥かに凌ぐ天を衝かんばかりの威容は、見る者に王の偉大さを無遠慮に叩きつけるようだ。幾つもの尖塔が重なり合って形成された城は光沢のない黒に塗り固められており、まさに魔王城と呼ぶにふさわしい外観であった。
内部の回廊にて、柳眉を吊り上げたソーニャが魔王の玉座を目指していた。
回廊と言っても、その広大さは人間の文化における大劇場にも匹敵する。高い壁と天井に囲まれた空間に、パンプスのヒールが打ち鳴らす硬質な足音が反響していた。
「あー、もうっ! イライラするっ!」
石造りの床を踏みつけて小振りな頭を振ると、銀のツインテールがふわりと舞い躍る。
「どーしてあたしがこんな目に遭わなくちゃいけないってのよ!」
作戦通りモルディック砦の攻略を終えたソーニャであったが、強引な追撃戦によって眷属の多くを失ってしまった。白将軍クディカに斬り捨てられたのは、パンティラスを含め百数十。また、リーティアに破壊された巨人タイタニアは、魔王の眷属でも一段と強力かつ貴重な個体であった。一度の戦いでそれらを失ったことにより、ソーニャは魔王城への帰還を命じられたのだ。
敵に対する苛立ちが募り、魔王と顔を会わせることを思い気が滅入っている。
それでも命令とあらば参上するしかない。彼女にとって魔王は絶対だ。
回廊の窓から差し込む陽光がソーニャの半身を赤く染める。物憂げな溜息を吐いて、玉座の間へと足を踏み入れた。
「四神将ソーニャ・コワール。ただいま帰還いたしました」
普段から想像もできない凛とした発声。美貌の表情は引き締まり、姿勢は美しく整えられる。
魔王の玉座は、太い柱が立ち並ぶ大伽藍にあった。
薄暗い空間。柱の陰に生まれた闇は深淵を彷彿とさせる。幾度となくここを訪れたソーニャでさえも、この異様な雰囲気には未だ慣れていない。
「魔王様?」
反応がないことを訝しんだ彼女は、ゆっくりと玉座に近付いていく。
「ご不在ですか?」
暗闇に浮かぶ玉座に、魔王の姿はない。
ソーニャが安堵しかけたその瞬間。不規則に配置された燭台が、突如として一斉に光を灯した。
「きゃっ」
暴力的なまでの光量に照らされ、ソーニャは思わず目を覆う。同時に、身を守るため反射的に臨戦態勢をとった。
「ソーニャちゃんおかえり!」
無邪気な声と共に背中に抱きつかれる感触。
「あ、ちょっ……とっ」
驚き眼のソーニャは、抱きつかれた衝撃でたたらを踏む。
「魔王様! 離れてくださいまし!」
「えへへー。やだー」
背恰好も見た目の年齢も、ソーニャとそう変わらない可憐な少女。魔王と呼ばれた彼女は、ソーニャの首に腕を回して体を密着させていたが、何度かおしりを叩かれて渋々身を離した。
「まったく。けちだなぁソーニャちゃんは」
「けちではありません。いきなり背後を取られたあたしの身にもなってください!」
魔王がその気になれば、一秒もかからずソーニャを消し炭にできる。そんな相手に後ろから抱きつかれたのだ。いくら四神将でも、背筋が凍る思いだった。
北方の森林地帯。魔族領の中心に佇む魔王の居城。
空を覆い尽くすほどの高い木々に囲まれながら、それを遥かに凌ぐ天を衝かんばかりの威容は、見る者に王の偉大さを無遠慮に叩きつけるようだ。幾つもの尖塔が重なり合って形成された城は光沢のない黒に塗り固められており、まさに魔王城と呼ぶにふさわしい外観であった。
内部の回廊にて、柳眉を吊り上げたソーニャが魔王の玉座を目指していた。
回廊と言っても、その広大さは人間の文化における大劇場にも匹敵する。高い壁と天井に囲まれた空間に、パンプスのヒールが打ち鳴らす硬質な足音が反響していた。
「あー、もうっ! イライラするっ!」
石造りの床を踏みつけて小振りな頭を振ると、銀のツインテールがふわりと舞い躍る。
「どーしてあたしがこんな目に遭わなくちゃいけないってのよ!」
作戦通りモルディック砦の攻略を終えたソーニャであったが、強引な追撃戦によって眷属の多くを失ってしまった。白将軍クディカに斬り捨てられたのは、パンティラスを含め百数十。また、リーティアに破壊された巨人タイタニアは、魔王の眷属でも一段と強力かつ貴重な個体であった。一度の戦いでそれらを失ったことにより、ソーニャは魔王城への帰還を命じられたのだ。
敵に対する苛立ちが募り、魔王と顔を会わせることを思い気が滅入っている。
それでも命令とあらば参上するしかない。彼女にとって魔王は絶対だ。
回廊の窓から差し込む陽光がソーニャの半身を赤く染める。物憂げな溜息を吐いて、玉座の間へと足を踏み入れた。
「四神将ソーニャ・コワール。ただいま帰還いたしました」
普段から想像もできない凛とした発声。美貌の表情は引き締まり、姿勢は美しく整えられる。
魔王の玉座は、太い柱が立ち並ぶ大伽藍にあった。
薄暗い空間。柱の陰に生まれた闇は深淵を彷彿とさせる。幾度となくここを訪れたソーニャでさえも、この異様な雰囲気には未だ慣れていない。
「魔王様?」
反応がないことを訝しんだ彼女は、ゆっくりと玉座に近付いていく。
「ご不在ですか?」
暗闇に浮かぶ玉座に、魔王の姿はない。
ソーニャが安堵しかけたその瞬間。不規則に配置された燭台が、突如として一斉に光を灯した。
「きゃっ」
暴力的なまでの光量に照らされ、ソーニャは思わず目を覆う。同時に、身を守るため反射的に臨戦態勢をとった。
「ソーニャちゃんおかえり!」
無邪気な声と共に背中に抱きつかれる感触。
「あ、ちょっ……とっ」
驚き眼のソーニャは、抱きつかれた衝撃でたたらを踏む。
「魔王様! 離れてくださいまし!」
「えへへー。やだー」
背恰好も見た目の年齢も、ソーニャとそう変わらない可憐な少女。魔王と呼ばれた彼女は、ソーニャの首に腕を回して体を密着させていたが、何度かおしりを叩かれて渋々身を離した。
「まったく。けちだなぁソーニャちゃんは」
「けちではありません。いきなり背後を取られたあたしの身にもなってください!」
魔王がその気になれば、一秒もかからずソーニャを消し炭にできる。そんな相手に後ろから抱きつかれたのだ。いくら四神将でも、背筋が凍る思いだった。
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