上 下
22 / 152

要塞都市デルニエール ②

しおりを挟む
「女の下などに就かされて、さぞ口惜しかったであろう。白将軍の無様は女の無能さを示す好例として後の世に伝え残されるだろうて」

 戦士として、また上官として尊敬するクディカがこうも貶められることは、彼にとって耐えがたい屈辱である。

「殿下の仰ることはごもっとも。しかしながら我々は王より遣わされたまことの軍にございます故、それ以上の非難はご自重なさりますよう」

 拳を握り締めるデュールの隣で口を開いたのは、リーティアだ。彼女は物腰柔らかく、しかし明瞭な口調で言い切った。
 その堂々とした居様に、ティミドゥス公は思わずたじろぐ。そして取り繕うように咳払いを漏らした。

「まぁよい。それで、おぬしらはこれからどうするつもりだ。与えられた任務を果たせず、このデルニエールを危険に晒しおってからに」

 リーティアが頷く。

「そのことですが、急ぎ救出部隊を整えようと考えております」

「救出部隊? そんな余裕があるのかね。部隊は壊滅したのだろう」

「ですから、殿下にご助力奉ろうと参上したのです」

「なんと。貴様、わしに兵を貸せと申すか」

「恐れながら」

 ティミドゥス公は掠れた声で唸った。
 生まれがそうさせたのか、あるいは環境のせいか。王の従兄弟として大きな実権を握っているが故に、彼は傲慢であった。出会う誰もがゴマを擂り、媚びた笑みを浮かべる。彼にとってはそれが日常であり、自負でもあった。
 敗軍の参謀であるリーティアが後ろめたさを微塵も見せないことには、怒りはもちろんのこと、まず先に驚きを覚えていた。

「恥知らずめ。敗北だけに飽き足らず、臆面もなくそのようなことを申せるとは、信じられん」

「恥を忍んで、是非とも汚名返上の機会を頂きとうございます」

 リーティアはその豊かな胸に手を当てて、すっと目を伏せた。
 話の行く先を見守るデュールは、人知れずリーティアに感心していた。
 自分よりいくつも歳下の、まだ少女らしさが残るほどの女が、大貴族であるティミドゥス公にこうまで毅然とした態度を取っている。愚弄の言葉を投げられながらも、理性的な振る舞いを忘れてはいない。

「フューディメイム卿。おぬしの評判は聞き及んでおる。その若さで宮廷政務官とは大したものだ。大方、その美貌で大臣どもを誑しこんだのだろうな」

「殿下!」

 声を上げたのはデュールだ。

「フューディメイム卿は清廉潔白なお方です。いくら何でも、言っていいことと悪いことがありますぞ!」

「控えなさい。デュール殿」

 リーティアに動じた様子はない。
 むしろティミドゥス公の方が、デュールが荒げた声に驚いて椅子から転げ落ちそうになっていた。

「モルディック砦が落ちた今、魔族が次に狙うのはここデルニエール。殿下もさぞご不安でしょう」

 緋色の瞳が、眼鏡の奥で微笑んだ。

「ですが心配はご無用。僅かばかり騎兵をお貸し頂ければ、散り散りになった我が軍と将軍を救出し、この街を守るための戦列を立て直して御覧に入れましょう」

「なに?」

 ティミドゥス公の丸い目がさらに丸くなる。

「どうせ殲滅されている。白将軍とて既に討ち取られているに違いないて」

「そう思うからこそ、一刻も早く救出に向かいたいのです」

 椅子に座りなおす公爵に、リーティアがにこやかに断言する。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

処理中です...