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要塞都市デルニエール ②
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「女の下などに就かされて、さぞ口惜しかったであろう。白将軍の無様は女の無能さを示す好例として後の世に伝え残されるだろうて」
戦士として、また上官として尊敬するクディカがこうも貶められることは、彼にとって耐えがたい屈辱である。
「殿下の仰ることはごもっとも。しかしながら我々は王より遣わされたまことの軍にございます故、それ以上の非難はご自重なさりますよう」
拳を握り締めるデュールの隣で口を開いたのは、リーティアだ。彼女は物腰柔らかく、しかし明瞭な口調で言い切った。
その堂々とした居様に、ティミドゥス公は思わずたじろぐ。そして取り繕うように咳払いを漏らした。
「まぁよい。それで、おぬしらはこれからどうするつもりだ。与えられた任務を果たせず、このデルニエールを危険に晒しおってからに」
リーティアが頷く。
「そのことですが、急ぎ救出部隊を整えようと考えております」
「救出部隊? そんな余裕があるのかね。部隊は壊滅したのだろう」
「ですから、殿下にご助力奉ろうと参上したのです」
「なんと。貴様、わしに兵を貸せと申すか」
「恐れながら」
ティミドゥス公は掠れた声で唸った。
生まれがそうさせたのか、あるいは環境のせいか。王の従兄弟として大きな実権を握っているが故に、彼は傲慢であった。出会う誰もがゴマを擂り、媚びた笑みを浮かべる。彼にとってはそれが日常であり、自負でもあった。
敗軍の参謀であるリーティアが後ろめたさを微塵も見せないことには、怒りはもちろんのこと、まず先に驚きを覚えていた。
「恥知らずめ。敗北だけに飽き足らず、臆面もなくそのようなことを申せるとは、信じられん」
「恥を忍んで、是非とも汚名返上の機会を頂きとうございます」
リーティアはその豊かな胸に手を当てて、すっと目を伏せた。
話の行く先を見守るデュールは、人知れずリーティアに感心していた。
自分よりいくつも歳下の、まだ少女らしさが残るほどの女が、大貴族であるティミドゥス公にこうまで毅然とした態度を取っている。愚弄の言葉を投げられながらも、理性的な振る舞いを忘れてはいない。
「フューディメイム卿。おぬしの評判は聞き及んでおる。その若さで宮廷政務官とは大したものだ。大方、その美貌で大臣どもを誑しこんだのだろうな」
「殿下!」
声を上げたのはデュールだ。
「フューディメイム卿は清廉潔白なお方です。いくら何でも、言っていいことと悪いことがありますぞ!」
「控えなさい。デュール殿」
リーティアに動じた様子はない。
むしろティミドゥス公の方が、デュールが荒げた声に驚いて椅子から転げ落ちそうになっていた。
「モルディック砦が落ちた今、魔族が次に狙うのはここデルニエール。殿下もさぞご不安でしょう」
緋色の瞳が、眼鏡の奥で微笑んだ。
「ですが心配はご無用。僅かばかり騎兵をお貸し頂ければ、散り散りになった我が軍と将軍を救出し、この街を守るための戦列を立て直して御覧に入れましょう」
「なに?」
ティミドゥス公の丸い目がさらに丸くなる。
「どうせ殲滅されている。白将軍とて既に討ち取られているに違いないて」
「そう思うからこそ、一刻も早く救出に向かいたいのです」
椅子に座りなおす公爵に、リーティアがにこやかに断言する。
戦士として、また上官として尊敬するクディカがこうも貶められることは、彼にとって耐えがたい屈辱である。
「殿下の仰ることはごもっとも。しかしながら我々は王より遣わされたまことの軍にございます故、それ以上の非難はご自重なさりますよう」
拳を握り締めるデュールの隣で口を開いたのは、リーティアだ。彼女は物腰柔らかく、しかし明瞭な口調で言い切った。
その堂々とした居様に、ティミドゥス公は思わずたじろぐ。そして取り繕うように咳払いを漏らした。
「まぁよい。それで、おぬしらはこれからどうするつもりだ。与えられた任務を果たせず、このデルニエールを危険に晒しおってからに」
リーティアが頷く。
「そのことですが、急ぎ救出部隊を整えようと考えております」
「救出部隊? そんな余裕があるのかね。部隊は壊滅したのだろう」
「ですから、殿下にご助力奉ろうと参上したのです」
「なんと。貴様、わしに兵を貸せと申すか」
「恐れながら」
ティミドゥス公は掠れた声で唸った。
生まれがそうさせたのか、あるいは環境のせいか。王の従兄弟として大きな実権を握っているが故に、彼は傲慢であった。出会う誰もがゴマを擂り、媚びた笑みを浮かべる。彼にとってはそれが日常であり、自負でもあった。
敗軍の参謀であるリーティアが後ろめたさを微塵も見せないことには、怒りはもちろんのこと、まず先に驚きを覚えていた。
「恥知らずめ。敗北だけに飽き足らず、臆面もなくそのようなことを申せるとは、信じられん」
「恥を忍んで、是非とも汚名返上の機会を頂きとうございます」
リーティアはその豊かな胸に手を当てて、すっと目を伏せた。
話の行く先を見守るデュールは、人知れずリーティアに感心していた。
自分よりいくつも歳下の、まだ少女らしさが残るほどの女が、大貴族であるティミドゥス公にこうまで毅然とした態度を取っている。愚弄の言葉を投げられながらも、理性的な振る舞いを忘れてはいない。
「フューディメイム卿。おぬしの評判は聞き及んでおる。その若さで宮廷政務官とは大したものだ。大方、その美貌で大臣どもを誑しこんだのだろうな」
「殿下!」
声を上げたのはデュールだ。
「フューディメイム卿は清廉潔白なお方です。いくら何でも、言っていいことと悪いことがありますぞ!」
「控えなさい。デュール殿」
リーティアに動じた様子はない。
むしろティミドゥス公の方が、デュールが荒げた声に驚いて椅子から転げ落ちそうになっていた。
「モルディック砦が落ちた今、魔族が次に狙うのはここデルニエール。殿下もさぞご不安でしょう」
緋色の瞳が、眼鏡の奥で微笑んだ。
「ですが心配はご無用。僅かばかり騎兵をお貸し頂ければ、散り散りになった我が軍と将軍を救出し、この街を守るための戦列を立て直して御覧に入れましょう」
「なに?」
ティミドゥス公の丸い目がさらに丸くなる。
「どうせ殲滅されている。白将軍とて既に討ち取られているに違いないて」
「そう思うからこそ、一刻も早く救出に向かいたいのです」
椅子に座りなおす公爵に、リーティアがにこやかに断言する。
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