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将と将
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「もー! まーた魔王様に言い訳しなきゃじゃない!」
ソーニャは憂鬱そうに柳眉を歪め、蝶の羽ばたきのような吐息を漏らした。
「貴様か。露出狂の変態女」
クディカの鋭利な剣尖と眼光が、ソーニャに向けられる。
「あら、あなただったの。偏屈女騎士さん」
髪に櫛を通しながら、ソーニャはクディカを見ようともしなかった。
相変わらずふざけた態度だ。だが実力は侮れない。少女のような容姿でもれっきとした魔王軍の将である。殿を務めると啖呵を切ったものの、一体どれほど耐えられるか。
「一人だなんて寂しいわねー。あ、わかった。あんまり無能なものだから、部下に見捨てられちゃったんでしょ」
「似たようなものだ」
「えーかわいそー。人望ないのね。剣を振るしか能がないくせに、調子に乗って将軍になんかなるから」
クディカの額に血管が浮いた。剣を握り締め、奥歯を噛み締める。
「よほど、死にたいようだな……!」
怒りの衝動に任せて、白光の剣を振り抜いた。飛翔した濃密な魔力は瞬く間に敵の戦列に着弾し、凄絶な光の爆発を生み出す。十数の魔獣が激しく宙に吹き飛び、まとめて消滅した。
「あはっ。怒らせちゃった」
爆心地の至近にいたソーニャと巨人は、魔力によって形成された球形の障壁に包まれ、悠然と無傷の姿を見せている。
クディカは眉を顰めた。これまで何度かやり合ったことがあるが、やはりソーニャは手強い。乗り物にしている巨人も一筋縄ではいかなさそうだ。加えて、従える獣は目算で三十は超えている。
どう考えても無謀だ。しかし退くわけにはいかない。指揮官としてより多くの部下を生かすためにも。
クディカは決意を胸に剣を構える。手綱を強く握り直すと、彼女の鎧が仄かな光に包まれた。
人の肉体は脆弱だ。彼女の纏う白い光は、弱い身体に強化を施す魔法の顕れであった。
クディカが大きく息を吸い込む。
「あ、そうそう」
突撃の出鼻を挫くように、ソーニャがぽんと両手を叩く。
「砦の地下にいた彼。逃がしておいたから」
「……なんだと?」
「ごめんねー勝手しちゃって。でもほら、悪い子じゃなさそーだったし」
にっこり笑ったソーニャに対し、クディカはお見通しといった風に鼻を鳴らした。
「やはり貴様らの送り込んだ間者だったか」
「んー?」
一瞬、ソーニャの顔がぽかんとして、すぐに妖しげな笑みを取り戻す。
「あぁー、そうそう。そういうことにしときましょっか。そっちの方が面白そう」
「間者を使って地下牢を掘り当てるとは。貴様達はついに己の信念を捨て去ったようだ」
クディカの剣に、再び光が灯る。
「我こそは七将軍が一騎! クディカ・イキシュ! 乙女より賜わりしこの剣に懸けて、断じて魔族の好きにはさせん!」
名乗り口上と共に白馬が嘶く。長い金髪を残光のようになびかせ、魔獣の群へと突撃した。
「はぁ。人間どもが勝手に作ったイメージなんて知ったこっちゃないけど、あたし達はあたし達できちんと考えて戦争やってるから」
接近するクディカを、ソーニャの紅い瞳がようやく捉えた。
「思い知らせてあげる」
ソーニャが細い腕を掲げるや否や、獣達は一斉に動き出す。
それは総指揮官が単騎で殿を務めるという、メック・アデケー王国にとって異例の撤退戦であった。
ソーニャは憂鬱そうに柳眉を歪め、蝶の羽ばたきのような吐息を漏らした。
「貴様か。露出狂の変態女」
クディカの鋭利な剣尖と眼光が、ソーニャに向けられる。
「あら、あなただったの。偏屈女騎士さん」
髪に櫛を通しながら、ソーニャはクディカを見ようともしなかった。
相変わらずふざけた態度だ。だが実力は侮れない。少女のような容姿でもれっきとした魔王軍の将である。殿を務めると啖呵を切ったものの、一体どれほど耐えられるか。
「一人だなんて寂しいわねー。あ、わかった。あんまり無能なものだから、部下に見捨てられちゃったんでしょ」
「似たようなものだ」
「えーかわいそー。人望ないのね。剣を振るしか能がないくせに、調子に乗って将軍になんかなるから」
クディカの額に血管が浮いた。剣を握り締め、奥歯を噛み締める。
「よほど、死にたいようだな……!」
怒りの衝動に任せて、白光の剣を振り抜いた。飛翔した濃密な魔力は瞬く間に敵の戦列に着弾し、凄絶な光の爆発を生み出す。十数の魔獣が激しく宙に吹き飛び、まとめて消滅した。
「あはっ。怒らせちゃった」
爆心地の至近にいたソーニャと巨人は、魔力によって形成された球形の障壁に包まれ、悠然と無傷の姿を見せている。
クディカは眉を顰めた。これまで何度かやり合ったことがあるが、やはりソーニャは手強い。乗り物にしている巨人も一筋縄ではいかなさそうだ。加えて、従える獣は目算で三十は超えている。
どう考えても無謀だ。しかし退くわけにはいかない。指揮官としてより多くの部下を生かすためにも。
クディカは決意を胸に剣を構える。手綱を強く握り直すと、彼女の鎧が仄かな光に包まれた。
人の肉体は脆弱だ。彼女の纏う白い光は、弱い身体に強化を施す魔法の顕れであった。
クディカが大きく息を吸い込む。
「あ、そうそう」
突撃の出鼻を挫くように、ソーニャがぽんと両手を叩く。
「砦の地下にいた彼。逃がしておいたから」
「……なんだと?」
「ごめんねー勝手しちゃって。でもほら、悪い子じゃなさそーだったし」
にっこり笑ったソーニャに対し、クディカはお見通しといった風に鼻を鳴らした。
「やはり貴様らの送り込んだ間者だったか」
「んー?」
一瞬、ソーニャの顔がぽかんとして、すぐに妖しげな笑みを取り戻す。
「あぁー、そうそう。そういうことにしときましょっか。そっちの方が面白そう」
「間者を使って地下牢を掘り当てるとは。貴様達はついに己の信念を捨て去ったようだ」
クディカの剣に、再び光が灯る。
「我こそは七将軍が一騎! クディカ・イキシュ! 乙女より賜わりしこの剣に懸けて、断じて魔族の好きにはさせん!」
名乗り口上と共に白馬が嘶く。長い金髪を残光のようになびかせ、魔獣の群へと突撃した。
「はぁ。人間どもが勝手に作ったイメージなんて知ったこっちゃないけど、あたし達はあたし達できちんと考えて戦争やってるから」
接近するクディカを、ソーニャの紅い瞳がようやく捉えた。
「思い知らせてあげる」
ソーニャが細い腕を掲げるや否や、獣達は一斉に動き出す。
それは総指揮官が単騎で殿を務めるという、メック・アデケー王国にとって異例の撤退戦であった。
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