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兵士つよし!
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腰を抜かすことも出来ず、金縛りにでもあったみたいに微動だにできなかった。
そんなカイトを見て、クディカは鼻を鳴らす。
「この程度で気圧されるか。存外、私の買いかぶりかもしれん。演技だとすれば、大した役者だな」
彼女の瞳には明らかな失望と嘲りの色がある。ゴミを見るような目というのはこういうものを言うのかと、カイトの中の冷静な部分が感じていた。
首筋から剣が離れると、カイトの全身を縛り付けていた殺気も解かれる。剣が鞘に納まる音が引き金となって、カイトの腰は砕けてしまった。
「誰ぞいるか!」
「ハッ! ここに!」
クディカの呼びかけに応じ、数人の兵が部屋に入ってきた。軍人然とした動作で敬礼して、床にへたりこむカイトを一瞥する。
「こいつを牢に入れておけ。私の許可があるまでは決して外に出すな」
「承知致しました、将軍」
言うや否や、カイトは両脇から抱え上げられ、乱暴に連行されてしまう。
「ちょ、ちょっと待って……話を、話を聞いてくれ!」
「何を今更。喋れと言って喋らなかったのはお前だろう。大人しく繋がれていろ」
すでにクディカはカイトへの興味をなくしていた。それは、カイトが何の力も持たぬ凡人であると判断したからに相違ない。脅威のない者に割く時間は無駄だということだ。
「クディカ。これはあまりにも、非情に過ぎるのではありませんか」
「それ以上は言うな。リーティア」
控えめな抗議の声を上げたリーティアを、クディカは力強く制してしまう。
「私には将軍としてこの砦を守る責務がある。得体の知れぬ存在を野放しにして、後の憂いとなったらどうする。一体誰が責任を取るというのだ」
魔族の攻撃は激しさを増す一方で、予断を許さぬ状況が続いている。カイトを除く誰しもが理解していることだ。
「それはわかります。ですが」
「わかってくれるならこの話は終わりだ」
「いいえ、まだです。せめて彼を法に則って処遇すると約束してください」
クディカは真っすぐな瞳をリーティアに向ける。交差する視線の中には、旧知の仲にこそ生まれる緊張感と、そして信頼があった。やがてクディカの凛とした唇から淡い溜息が漏れる。
「無論だ。約束しよう」
必死に抵抗するカイトの耳には、そんな美女二人のやり取りは届いていなかった。
「何をもたついている! さっさと連れていけ!」
「オラ、大人しくしろ!」
ついに兵士の拳がカイトの腹部に叩きこまれた。身構える余裕さえなかったせいで、鈍い痛みがカイトの自由を奪う。
戦場で鍛え上げられた屈強な兵士達に囲まれて敵うわけがない。
はたしてカイトは、抵抗虚しく投獄の憂き目に遭ったのだった。
そんなカイトを見て、クディカは鼻を鳴らす。
「この程度で気圧されるか。存外、私の買いかぶりかもしれん。演技だとすれば、大した役者だな」
彼女の瞳には明らかな失望と嘲りの色がある。ゴミを見るような目というのはこういうものを言うのかと、カイトの中の冷静な部分が感じていた。
首筋から剣が離れると、カイトの全身を縛り付けていた殺気も解かれる。剣が鞘に納まる音が引き金となって、カイトの腰は砕けてしまった。
「誰ぞいるか!」
「ハッ! ここに!」
クディカの呼びかけに応じ、数人の兵が部屋に入ってきた。軍人然とした動作で敬礼して、床にへたりこむカイトを一瞥する。
「こいつを牢に入れておけ。私の許可があるまでは決して外に出すな」
「承知致しました、将軍」
言うや否や、カイトは両脇から抱え上げられ、乱暴に連行されてしまう。
「ちょ、ちょっと待って……話を、話を聞いてくれ!」
「何を今更。喋れと言って喋らなかったのはお前だろう。大人しく繋がれていろ」
すでにクディカはカイトへの興味をなくしていた。それは、カイトが何の力も持たぬ凡人であると判断したからに相違ない。脅威のない者に割く時間は無駄だということだ。
「クディカ。これはあまりにも、非情に過ぎるのではありませんか」
「それ以上は言うな。リーティア」
控えめな抗議の声を上げたリーティアを、クディカは力強く制してしまう。
「私には将軍としてこの砦を守る責務がある。得体の知れぬ存在を野放しにして、後の憂いとなったらどうする。一体誰が責任を取るというのだ」
魔族の攻撃は激しさを増す一方で、予断を許さぬ状況が続いている。カイトを除く誰しもが理解していることだ。
「それはわかります。ですが」
「わかってくれるならこの話は終わりだ」
「いいえ、まだです。せめて彼を法に則って処遇すると約束してください」
クディカは真っすぐな瞳をリーティアに向ける。交差する視線の中には、旧知の仲にこそ生まれる緊張感と、そして信頼があった。やがてクディカの凛とした唇から淡い溜息が漏れる。
「無論だ。約束しよう」
必死に抵抗するカイトの耳には、そんな美女二人のやり取りは届いていなかった。
「何をもたついている! さっさと連れていけ!」
「オラ、大人しくしろ!」
ついに兵士の拳がカイトの腹部に叩きこまれた。身構える余裕さえなかったせいで、鈍い痛みがカイトの自由を奪う。
戦場で鍛え上げられた屈強な兵士達に囲まれて敵うわけがない。
はたしてカイトは、抵抗虚しく投獄の憂き目に遭ったのだった。
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