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異世界の美女あらわる! ①
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ともあれ、どうやら命は助かったらしい。
木材を組んだだけの簡素なベッドの上で、カイトは正座を組んで俯いていた。
強要されたわけではない。険しい顔を向けてくる女性に反抗の意思がないことを示そうと、カイトが無意識にとった姿勢である。そろそろ脚が痺れてきた。
「いいか。もう一度訊く」
こじんまりとした殺風景な部屋。カイトの目の前には二人の女性がいた。
「名前と所属を言え。これは軍令だ」
一人は、厳しい声でカイトに詰問する金髪の女性。二つの碧眼は蒼穹を宿したように澄んでいるが、その目つきは鋭利な刃物のように鋭い。仰々しい純白の甲冑を着込み、腰には長剣を帯びていた。
「名前は伊勢カイト。所属とかは、多分ありません」
何度目になるかわからない答えを口にする。
目を覚ましてからというもの、ずっと同じ質問を繰り返されている。最初こそ戸惑っていたカイトであるが、流石にそろそろうんざりしてきた。
それは女性の方も同じようで、激しい苛立ちを隠そうともしていない。強かに机を叩きつけられ、カイトはびくりと身体を震わせる。
「誤魔化すのもいい加減にしろ! 我が軍にそんな名の兵士はいない!」
彼女の語気は一息ごとに強くなる。その度、カイトは頭を下げた。
「何故あの場所にいた?」
答えられない。
「野戦の真っ只中に、剣も鎧もなしに出る馬鹿がどこにいる?」
一人、ここにいる。
「挙句の果てにマナ中毒だと? お前に後衛術士がいるとするならば、一体どれほどの間抜けなのか!」
「そんなこと言われたって、俺だって何が何だか」
あの戦場にいた理由はカイト本人が一番知りたいことだし、マナ中毒とやらも知らないし、まして後衛術士など聞いたこともない。
「落ち着いてくださいクディカ。そのように大きな声で責め立てては……ほら、彼も委縮しています」
椅子の上。たおやかに座るもう一人の女性が、金髪の女を嗜めた。
「危篤状態から回復したばかりなのです。可哀想ではありませんか」
彼女は柔和な微笑みを浮かべつつも、どこか困ったように眉尻を下げていた。
ゆったりとした臙脂色の法衣に身を包んだ彼女は、深い翡翠色に染まる長い髪を一房に編んでいる。緋色の瞳を縁取る長いまつ毛も、少し太めの眉も、頭髪と同じ色彩だ。
日本人離れした色合いに多少の驚きはあったが、それはすぐそこはかとない嬉しさに変わった。異世界らしい美女の姿に、ちょっと、いやかなり感動した。
「リーティア。お前も言っていたではないか。魔族が間者を用いることもありえなくはないと。この男がそうでないと言い切れるのか?」
木材を組んだだけの簡素なベッドの上で、カイトは正座を組んで俯いていた。
強要されたわけではない。険しい顔を向けてくる女性に反抗の意思がないことを示そうと、カイトが無意識にとった姿勢である。そろそろ脚が痺れてきた。
「いいか。もう一度訊く」
こじんまりとした殺風景な部屋。カイトの目の前には二人の女性がいた。
「名前と所属を言え。これは軍令だ」
一人は、厳しい声でカイトに詰問する金髪の女性。二つの碧眼は蒼穹を宿したように澄んでいるが、その目つきは鋭利な刃物のように鋭い。仰々しい純白の甲冑を着込み、腰には長剣を帯びていた。
「名前は伊勢カイト。所属とかは、多分ありません」
何度目になるかわからない答えを口にする。
目を覚ましてからというもの、ずっと同じ質問を繰り返されている。最初こそ戸惑っていたカイトであるが、流石にそろそろうんざりしてきた。
それは女性の方も同じようで、激しい苛立ちを隠そうともしていない。強かに机を叩きつけられ、カイトはびくりと身体を震わせる。
「誤魔化すのもいい加減にしろ! 我が軍にそんな名の兵士はいない!」
彼女の語気は一息ごとに強くなる。その度、カイトは頭を下げた。
「何故あの場所にいた?」
答えられない。
「野戦の真っ只中に、剣も鎧もなしに出る馬鹿がどこにいる?」
一人、ここにいる。
「挙句の果てにマナ中毒だと? お前に後衛術士がいるとするならば、一体どれほどの間抜けなのか!」
「そんなこと言われたって、俺だって何が何だか」
あの戦場にいた理由はカイト本人が一番知りたいことだし、マナ中毒とやらも知らないし、まして後衛術士など聞いたこともない。
「落ち着いてくださいクディカ。そのように大きな声で責め立てては……ほら、彼も委縮しています」
椅子の上。たおやかに座るもう一人の女性が、金髪の女を嗜めた。
「危篤状態から回復したばかりなのです。可哀想ではありませんか」
彼女は柔和な微笑みを浮かべつつも、どこか困ったように眉尻を下げていた。
ゆったりとした臙脂色の法衣に身を包んだ彼女は、深い翡翠色に染まる長い髪を一房に編んでいる。緋色の瞳を縁取る長いまつ毛も、少し太めの眉も、頭髪と同じ色彩だ。
日本人離れした色合いに多少の驚きはあったが、それはすぐそこはかとない嬉しさに変わった。異世界らしい美女の姿に、ちょっと、いやかなり感動した。
「リーティア。お前も言っていたではないか。魔族が間者を用いることもありえなくはないと。この男がそうでないと言い切れるのか?」
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