42 / 71
乙女の執念
しおりを挟む
フォルス教官が俺を一瞥する。
おい、どういうことだ。そんな声が聞こえてくるようだ。
「それは、どういった意図のご質問でしょうか?」
下手な回答はできないと踏んだのか、教官は即答を避ける。
リーベルデはにっこりと笑み、ティーカップとソーサーを手に小さく首を傾げた。
「言わなければわかりませんか?」
わからないだろ、普通。という言いたいのをぐっと堪える。
「彼を神聖騎士に登用するにあたって交友関係を調べられているのですか?」
「いいえ。まったくの個人的な質問です」
またもや意表を衝かれるフォルス教官。
ああもう。どうしてこんな時にこんな話になるのやら。
俺は助けを求めてメローネを見るが、彼女は目を輝かせて何も言おうとしない。そのワクワク顔の理由がさっぱりわからない。
「私は戦闘教官であり、彼は学院生、だった。と言うべきでしょうか」
「そのような表面上の関係が知りたいのではありません」
「あの、仰っている意味がよく……」
「先日、フリードさんと二人でお食事をなさっていたでしょう? 私の目には、ただの教官と教え子、という風には見えませんでした」
おいおい。そこまで突っ込むのか。
リーベルデは柔和な笑みを浮かべているが、その裏には決して曖昧にしておくものか、という乙女の執念を感じる。
教官も察したようだった。
一瞬だけ得心したように瞬きした後、恨めしげな視線をこちらに送ってきた。
「こう申し上げると失礼にあたるかもしれませんが。彼はお世辞にも優秀な学生とは言えませんでした。浪人しているだけあって同級生と歳も一回り違います。他の学生に比べて目をかけてしまうのも仕方ないと、そう思っています」
「あくまで教官と学院生の域を出ないと?」
「もちろんです。私とて教育者。公私混同はいたしません」
すっぱりと言い切った教官。他に言い様がないにしても、それはそれでなんとなく寂しいものがある。
「教官はこう仰っていますが。フリードさん?」
「はい」
リーベルデの笑みを受けて、俺は無意識に居住まいを正した。
「概ね、フォルス教官の主張通りかと」
「ですが私には、ただの教官と学院生が二人きりで食事をする理由やきっかけが思い浮かばないのです」
ちょっと待ってくれ。
さっきまでの聖女然とした振る舞いは一体どこへ行ってしまったのか。
年頃の少女はころころと気分が変わるものだが、どうやらリーベルデも例外ではないらしい。
「俺が教官をお誘いしたのは、これまでの感謝を込めてです。他意はありません」
「そうですか」
教官の部屋で手料理をご馳走してもらったことには触れない方がいい。話をややこしくするだけだ。
どこか納得がいかない様子のリーベルデだが、これ以上の追及はしないようだ。
フォルス教官からは湿度の高い視線を向けられる。お前も罪な男だな、とその目は語っていた。
「リーベルデ様。僭越ながら申し上げますが……こういったことは私以外にはお話にならない方がよろしいでしょう。聖女の色恋沙汰は、世間に忌避されますゆえ」
「心得ています。けれどすべては、フリードさん次第」
いやぁ。それは流石に自重してほしいぞ聖女様。
俺にだって自由に恋愛をする権利はある。いや、ないのか? 境遇からしてリーベルデから離れられないからな、俺って。
すでに外堀を埋められている気がする。
こうなってくると、リーベルデのご機嫌取りも俺の仕事になりそうだ。
そりゃやるけどさ。お姫様と召使いみたいにはなりたくないよな。
魔王復活の一大事だというのに、聖女が色恋に現を抜かしていていいのだろうか。俺のせいと言われればそうなんだろうけど。
俺の中にあった聖女と言う存在に対する印象が、少しずつ変わり始めている。
いい意味でも、悪い意味でも。
おい、どういうことだ。そんな声が聞こえてくるようだ。
「それは、どういった意図のご質問でしょうか?」
下手な回答はできないと踏んだのか、教官は即答を避ける。
リーベルデはにっこりと笑み、ティーカップとソーサーを手に小さく首を傾げた。
「言わなければわかりませんか?」
わからないだろ、普通。という言いたいのをぐっと堪える。
「彼を神聖騎士に登用するにあたって交友関係を調べられているのですか?」
「いいえ。まったくの個人的な質問です」
またもや意表を衝かれるフォルス教官。
ああもう。どうしてこんな時にこんな話になるのやら。
俺は助けを求めてメローネを見るが、彼女は目を輝かせて何も言おうとしない。そのワクワク顔の理由がさっぱりわからない。
「私は戦闘教官であり、彼は学院生、だった。と言うべきでしょうか」
「そのような表面上の関係が知りたいのではありません」
「あの、仰っている意味がよく……」
「先日、フリードさんと二人でお食事をなさっていたでしょう? 私の目には、ただの教官と教え子、という風には見えませんでした」
おいおい。そこまで突っ込むのか。
リーベルデは柔和な笑みを浮かべているが、その裏には決して曖昧にしておくものか、という乙女の執念を感じる。
教官も察したようだった。
一瞬だけ得心したように瞬きした後、恨めしげな視線をこちらに送ってきた。
「こう申し上げると失礼にあたるかもしれませんが。彼はお世辞にも優秀な学生とは言えませんでした。浪人しているだけあって同級生と歳も一回り違います。他の学生に比べて目をかけてしまうのも仕方ないと、そう思っています」
「あくまで教官と学院生の域を出ないと?」
「もちろんです。私とて教育者。公私混同はいたしません」
すっぱりと言い切った教官。他に言い様がないにしても、それはそれでなんとなく寂しいものがある。
「教官はこう仰っていますが。フリードさん?」
「はい」
リーベルデの笑みを受けて、俺は無意識に居住まいを正した。
「概ね、フォルス教官の主張通りかと」
「ですが私には、ただの教官と学院生が二人きりで食事をする理由やきっかけが思い浮かばないのです」
ちょっと待ってくれ。
さっきまでの聖女然とした振る舞いは一体どこへ行ってしまったのか。
年頃の少女はころころと気分が変わるものだが、どうやらリーベルデも例外ではないらしい。
「俺が教官をお誘いしたのは、これまでの感謝を込めてです。他意はありません」
「そうですか」
教官の部屋で手料理をご馳走してもらったことには触れない方がいい。話をややこしくするだけだ。
どこか納得がいかない様子のリーベルデだが、これ以上の追及はしないようだ。
フォルス教官からは湿度の高い視線を向けられる。お前も罪な男だな、とその目は語っていた。
「リーベルデ様。僭越ながら申し上げますが……こういったことは私以外にはお話にならない方がよろしいでしょう。聖女の色恋沙汰は、世間に忌避されますゆえ」
「心得ています。けれどすべては、フリードさん次第」
いやぁ。それは流石に自重してほしいぞ聖女様。
俺にだって自由に恋愛をする権利はある。いや、ないのか? 境遇からしてリーベルデから離れられないからな、俺って。
すでに外堀を埋められている気がする。
こうなってくると、リーベルデのご機嫌取りも俺の仕事になりそうだ。
そりゃやるけどさ。お姫様と召使いみたいにはなりたくないよな。
魔王復活の一大事だというのに、聖女が色恋に現を抜かしていていいのだろうか。俺のせいと言われればそうなんだろうけど。
俺の中にあった聖女と言う存在に対する印象が、少しずつ変わり始めている。
いい意味でも、悪い意味でも。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」
公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。
血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
何故、わたくしだけが貴方の事を特別視していると思われるのですか?
ラララキヲ
ファンタジー
王家主催の夜会で婚約者以外の令嬢をエスコートした侯爵令息は、突然自分の婚約者である伯爵令嬢に婚約破棄を宣言した。
それを受けて婚約者の伯爵令嬢は自分の婚約者に聞き返す。
「返事……ですか?わたくしは何を言えばいいのでしょうか?」
侯爵令息の胸に抱かれる子爵令嬢も一緒になって婚約破棄を告げられた令嬢を責め立てる。しかし伯爵令嬢は首を傾げて問返す。
「何故わたくしが嫉妬すると思われるのですか?」
※この世界の貴族は『完全なピラミッド型』だと思って下さい……
◇テンプレ婚約破棄モノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
【完結】冤罪で処刑されたので復讐します。好きで聖女になったわけじゃない
かずきりり
ファンタジー
好きで聖女になったわけじゃない。
好きで王太子殿下の婚約者になったわけじゃない。
贅沢なんてしていない。
下働きのように、ただこき使われていただけだ。
家族の為に。
なのに……偽聖女という汚名を着せて、私を処刑した。
家族を見殺しにした……。
そんな国に復讐してやる。
私がされた事と同じ事を
お前らにも返してやる。
*******************
こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。
晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。
「さようなら、私が産まれた国。
私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」
リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる──
◇婚約破棄の“後”の話です。
◇転生チート。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^
◇なので感想欄閉じます(笑)
公爵令嬢のRe.START
鮨海
ファンタジー
絶大な権力を持ち社交界を牛耳ってきたアドネス公爵家。その一人娘であるフェリシア公爵令嬢は第二王子であるライオルと婚約を結んでいたが、あるとき異世界からの聖女の登場により、フェリシアの生活は一変してしまう。
自分より聖女を優先する家族に婚約者、フェリシアは聖女に嫉妬し傷つきながらも懸命にどうにかこの状況を打破しようとするが、あるとき王子の婚約破棄を聞き、フェリシアは公爵家を出ることを決意した。
捕まってしまわないようにするため、途中王城の宝物庫に入ったフェリシアは運命を変える出会いをする。
契約を交わしたフェリシアによる第二の人生が幕を開ける。
※ファンタジーがメインの作品です
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる