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魔物とダンジョン
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「支度の為のお休みだったのに、女の子とデートしてたじゃないですか」
デートとな。
「いえ。あの子達は元パーティメンバーであって、別にデートというわけでは」
「……あの子達?」
リーベルデの目が細くなったのを見て、俺は自身の失言を悟った。
「ねぇフリード。リーベが言ってるのはフォルスのことよ。一緒にお昼ご飯を食べていたでしょう?」
「ああ。いや、女の子というから、てっきりクレイン達のことかと」
俺の小さい声を聞いて目を吊り上げたのはリーベルデだった。
「じゃあなんですか。あの銀髪の子だけじゃなくて、他にも女の子を侍らせてたってことですか。随分とおモテになるんですねフリードさんって」
その言い方には語弊がある。けれど、端からはそう見えてしまうのも仕方ない。学院での俺の評判を知らないなら尚更だ。
椅子に座り直したリーベルデは、むすくれた顔で壁を睨みつけている。なるほど。来た時からご機嫌ナナメなのはこのせいだったのか。
はてさて、どう弁解したものか。真面目な話題があるのだから、そっちに持っていくべきか。どうせしなければいけない話だ。
「メローネ」
「はい?」
「ソル・グートマン。わかるか? 俺の元パーティメンバーなんだけど」
ほんの少し、メローネの表情が引き締まる。
「ええ。わかるわ。例の子ね」
ナダ・ペガルを破って神聖裁判の対象になった少年だと、即座に理解してくれたようだ。
「あいつ、襲撃の日に脱走して行方をくらませたらしい。学生も何人か斬ってる。フォルス教官や元パーティメンバー達とは、そのことで話をしていたんだ」
「脱走……なるほど、学院にとっては面倒な事態でしょうね」
「ただ、調査しているのはフォルス教官一人だけのようだった。人手不足というのもあるんだろうけど、たぶん、たかが学生一人に構っていられないってところだろう」
「あの子はなんて言ってたの?」
「今回の襲撃に、俺の元パーティメンバーが関与している可能性があると」
フォルス教官の言葉を、そのままメローネに伝える。貴族と教会の軋轢、クレインの実家、襲撃のタイミング。
それを聞いたメローネは、悩ましげに眉を顰めた。
「考えられない話じゃないけれど……リーベ、あなたはどう思う?」
話を振られたリーベルデは、椅子の上で背筋をぴんと伸ばしていた。いつの間にか聖女の面持ちに戻っている。膝を上で手を重ね、テーブルに視線を落としていた。
「ありえません」
明瞭な一言。
「ガウマン侯爵は優れた人格者です。教会のやり方に異を唱えていようと、人死にを政治の手段に用いるような御仁でありません」
この言い方だと、リーベルデはガウマン侯爵に会ったことがあるのだろう。ガウマン侯爵という人物について何一つ知らない俺に、反論の余地はない。
「フリードさん。私達は今日一日、学内を巡っていました。襲撃した魔物達が一体どこから現れたのか。それを調べる為です」
確かにそれは気になるところだ。
複数の危険指定種が、なぜ突如として学院に出現したのか。外からやってきたのなら接近に気付かないわけがないし、たとえ近づいても敷地を覆う結界が防いでくれるだろう。
ならば誰かが事前に魔物を引き込んでいたのか。それにしては、あまりにも数が多すぎるが。
「信じがたい事ではありますが……あの日、魔物達はこの場所で生まれたのです」
「生まれた? ですが、学園には強固な結界が」
「そう。ですから私達にとっては、まさかの出来事だった。フリードさんは、魔物がどのようにして生まれるか、ご存じですか?」
俺は首肯で答えた。
魔物は、ダンジョンで生まれる異形の生物。
ダンジョンとは、何らかの原因で魔力が濃くなった場所に突発的に生じる特殊な空間のことを指す。それは迷宮であったり、洞窟であったり、城塞や森林であったりする。どう見ても人工物にしか見えないものが自然に生成されるのは、ダンジョンが持つ謎の一つである。
「ダンジョン内部で凝固した魔力が、行き場を失って変異した存在。それが魔物です。原則、魔物はダンジョンの外に出ることはありませんが、何かの拍子でダンジョンが消滅した場合、内部の魔物は一斉に自然界に解き放たれる」
いわゆる『アウトブレイク』と呼ばれる現象だ。俺も一度、大量発生した魔物の駆逐任務に就いたことがある。
「つまり……学内のどこかにダンジョンがあって、それが消滅して『アウトブレイク』が起きたってことですか」
俺の憶測を受けて、リーベルデは首を横に振る。
「違います」
そして彼女は、信じられない事実を口にした。
「今まさに、この学院そのものがダンジョン化しているのです」
デートとな。
「いえ。あの子達は元パーティメンバーであって、別にデートというわけでは」
「……あの子達?」
リーベルデの目が細くなったのを見て、俺は自身の失言を悟った。
「ねぇフリード。リーベが言ってるのはフォルスのことよ。一緒にお昼ご飯を食べていたでしょう?」
「ああ。いや、女の子というから、てっきりクレイン達のことかと」
俺の小さい声を聞いて目を吊り上げたのはリーベルデだった。
「じゃあなんですか。あの銀髪の子だけじゃなくて、他にも女の子を侍らせてたってことですか。随分とおモテになるんですねフリードさんって」
その言い方には語弊がある。けれど、端からはそう見えてしまうのも仕方ない。学院での俺の評判を知らないなら尚更だ。
椅子に座り直したリーベルデは、むすくれた顔で壁を睨みつけている。なるほど。来た時からご機嫌ナナメなのはこのせいだったのか。
はてさて、どう弁解したものか。真面目な話題があるのだから、そっちに持っていくべきか。どうせしなければいけない話だ。
「メローネ」
「はい?」
「ソル・グートマン。わかるか? 俺の元パーティメンバーなんだけど」
ほんの少し、メローネの表情が引き締まる。
「ええ。わかるわ。例の子ね」
ナダ・ペガルを破って神聖裁判の対象になった少年だと、即座に理解してくれたようだ。
「あいつ、襲撃の日に脱走して行方をくらませたらしい。学生も何人か斬ってる。フォルス教官や元パーティメンバー達とは、そのことで話をしていたんだ」
「脱走……なるほど、学院にとっては面倒な事態でしょうね」
「ただ、調査しているのはフォルス教官一人だけのようだった。人手不足というのもあるんだろうけど、たぶん、たかが学生一人に構っていられないってところだろう」
「あの子はなんて言ってたの?」
「今回の襲撃に、俺の元パーティメンバーが関与している可能性があると」
フォルス教官の言葉を、そのままメローネに伝える。貴族と教会の軋轢、クレインの実家、襲撃のタイミング。
それを聞いたメローネは、悩ましげに眉を顰めた。
「考えられない話じゃないけれど……リーベ、あなたはどう思う?」
話を振られたリーベルデは、椅子の上で背筋をぴんと伸ばしていた。いつの間にか聖女の面持ちに戻っている。膝を上で手を重ね、テーブルに視線を落としていた。
「ありえません」
明瞭な一言。
「ガウマン侯爵は優れた人格者です。教会のやり方に異を唱えていようと、人死にを政治の手段に用いるような御仁でありません」
この言い方だと、リーベルデはガウマン侯爵に会ったことがあるのだろう。ガウマン侯爵という人物について何一つ知らない俺に、反論の余地はない。
「フリードさん。私達は今日一日、学内を巡っていました。襲撃した魔物達が一体どこから現れたのか。それを調べる為です」
確かにそれは気になるところだ。
複数の危険指定種が、なぜ突如として学院に出現したのか。外からやってきたのなら接近に気付かないわけがないし、たとえ近づいても敷地を覆う結界が防いでくれるだろう。
ならば誰かが事前に魔物を引き込んでいたのか。それにしては、あまりにも数が多すぎるが。
「信じがたい事ではありますが……あの日、魔物達はこの場所で生まれたのです」
「生まれた? ですが、学園には強固な結界が」
「そう。ですから私達にとっては、まさかの出来事だった。フリードさんは、魔物がどのようにして生まれるか、ご存じですか?」
俺は首肯で答えた。
魔物は、ダンジョンで生まれる異形の生物。
ダンジョンとは、何らかの原因で魔力が濃くなった場所に突発的に生じる特殊な空間のことを指す。それは迷宮であったり、洞窟であったり、城塞や森林であったりする。どう見ても人工物にしか見えないものが自然に生成されるのは、ダンジョンが持つ謎の一つである。
「ダンジョン内部で凝固した魔力が、行き場を失って変異した存在。それが魔物です。原則、魔物はダンジョンの外に出ることはありませんが、何かの拍子でダンジョンが消滅した場合、内部の魔物は一斉に自然界に解き放たれる」
いわゆる『アウトブレイク』と呼ばれる現象だ。俺も一度、大量発生した魔物の駆逐任務に就いたことがある。
「つまり……学内のどこかにダンジョンがあって、それが消滅して『アウトブレイク』が起きたってことですか」
俺の憶測を受けて、リーベルデは首を横に振る。
「違います」
そして彼女は、信じられない事実を口にした。
「今まさに、この学院そのものがダンジョン化しているのです」
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