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突然の来客
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翌朝。俺は部屋の掃除に勤しんでいた。
リーベルデ付きの神聖騎士になったことで、必然的に剣魔学院を去ることになる。退学ないし休学。どちらになるかはまだ決まっていないが、リーベルデがここを発つ時には俺もお供をしなければならない。いつでも出られるように私物の整理と寮の片付けを済ませておいた方がいいとは、メローネの言である。
ある程度部屋が片付いてきたところで、ふとノックの音が響いた。
「フリードさん。いらっしゃいますか?」
クレインの声だ。
彼女が俺を訪ねてくるなんて珍しい。いや、初めてじゃないか。些か驚きながら扉を開くと、そこにはクレインの他、フレデリカとユキが並び立っていた。
「ごきげんよう。フリードさん。壮健そうでなによりですわ」
「ああ。みんなこそ……無事みたいだな」
三人とも目立った怪我もなく、顔色もよさそうだ。
「本日はあの時のお礼に参りましたの。これはほんの気持ちですわ」
クレインが差し出したのは、丁寧にラッピングされた小包だ。
「ありがとう。嬉しいよ」
思わず笑みが零れる。
誰かに感謝されるというのは、やはり気分がいいものだ。掛け値なしに、清々しい気持ちになる。
「私達を、恨んでないんですか」
語気強く言ったのはフレデリカ。彼女は唇を引き結んでじっと見上げてくる。
「私達の判断が間違っていたとは思いません。ですが、フリードさんにとってはわりと理不尽な出来事だったはずです」
自覚はあったんだな。苦笑いもやむなし。
「正直、恨んだり憎んだりしたことはないよ。あるとすれば、それは自分の無力に対してだ。パーティの役に立てなかったことは、本当にすまないと思ってる」
「底抜けのお人好し」
ユキの平淡な呟き。
確かにその通りかもしれない。だけど。
「自分の不遇を誰かのせいにするなんて、カッコ悪いからな」
環境のせいにするのは簡単だ。だが俺は安易な方に逃げたくない。
少女達は各々の面持ちで俺を見上げる。
「フリードさん。今更このようなことを申し上げるのはまことに心苦しいのですが」
意を決した風に、クレインが言葉を紡ぐ。
「わたくし達のパーティに戻ってきては下さいませんか? もう二度と、あなたを邪険にしないとお約束いたします。どうか」
躊躇いなく深々と頭を下げたクレインに、俺はかなり虚を衝かれた。
パーティ復帰の要請を予想していなかったわけじゃない。もしかしたらそんなことになるかもしれないと、考えていなかったと言えば嘘になる。
クレインは侯爵家の令嬢である。学内では身分の差はないものとして扱われるが、だからといって自尊心の強い彼女が易々と頭を下げるわけがない。そう思っていた。
「先日の件で、私達は己の未熟を思い知りました。ソルがいなくなった今、私達にはあなたの力が必要になってしまったんです。とても遺憾ではありますが」
「言い方」
フレデリカとユキも、クレインに倣い頭を下げる。
これは一体どうしたものか。いや、どうもこうもない。
「悪いけど、それはできない」
三人は身じろぎするだけで顔を上げようとしない。それどころか更に深く頭を下げる。
「今までのことは平に謝罪いたします。どうかわたくし達に、もう一度チャンスをお与え下さい」
「違うんだ。そうじゃない。とにかく頭を上げてくれ」
寮の廊下だ。人目もある。これでは謝られているこっちの方が居心地が悪くなってくるじゃないか。
「あなたが許してくれるまで、ずっとこのままでいる」
ユキの頭頂部がそんなことを言うものだから、俺も頭を抱えた。
「言っただろう? 別に恨みも憎みもしていない。許すとか許さないとか、そういう話じゃないし、強いてどちらか選べというのなら、もうとっくに許してる」
「では、パーティに戻ってきて下さるのですね?」
「だから、それはできないんだ」
ぱあっと顔を上げたクレインの表情が、俺の言葉を受けて再び曇る。
「……どうしてですの?」
「リーベルデ様付きの神聖騎士になった。近いうちに学院をやめて、巡礼の旅に同行することになる」
なるべく落ち着いて言葉にしたつもりだった。内容が内容なだけに、少々早口になってしまったのは否めない。
三人は顔を見合わせて唖然としている。何を聞いたのか理解できない、といった様相だ。
リーベルデ付きの神聖騎士になったことで、必然的に剣魔学院を去ることになる。退学ないし休学。どちらになるかはまだ決まっていないが、リーベルデがここを発つ時には俺もお供をしなければならない。いつでも出られるように私物の整理と寮の片付けを済ませておいた方がいいとは、メローネの言である。
ある程度部屋が片付いてきたところで、ふとノックの音が響いた。
「フリードさん。いらっしゃいますか?」
クレインの声だ。
彼女が俺を訪ねてくるなんて珍しい。いや、初めてじゃないか。些か驚きながら扉を開くと、そこにはクレインの他、フレデリカとユキが並び立っていた。
「ごきげんよう。フリードさん。壮健そうでなによりですわ」
「ああ。みんなこそ……無事みたいだな」
三人とも目立った怪我もなく、顔色もよさそうだ。
「本日はあの時のお礼に参りましたの。これはほんの気持ちですわ」
クレインが差し出したのは、丁寧にラッピングされた小包だ。
「ありがとう。嬉しいよ」
思わず笑みが零れる。
誰かに感謝されるというのは、やはり気分がいいものだ。掛け値なしに、清々しい気持ちになる。
「私達を、恨んでないんですか」
語気強く言ったのはフレデリカ。彼女は唇を引き結んでじっと見上げてくる。
「私達の判断が間違っていたとは思いません。ですが、フリードさんにとってはわりと理不尽な出来事だったはずです」
自覚はあったんだな。苦笑いもやむなし。
「正直、恨んだり憎んだりしたことはないよ。あるとすれば、それは自分の無力に対してだ。パーティの役に立てなかったことは、本当にすまないと思ってる」
「底抜けのお人好し」
ユキの平淡な呟き。
確かにその通りかもしれない。だけど。
「自分の不遇を誰かのせいにするなんて、カッコ悪いからな」
環境のせいにするのは簡単だ。だが俺は安易な方に逃げたくない。
少女達は各々の面持ちで俺を見上げる。
「フリードさん。今更このようなことを申し上げるのはまことに心苦しいのですが」
意を決した風に、クレインが言葉を紡ぐ。
「わたくし達のパーティに戻ってきては下さいませんか? もう二度と、あなたを邪険にしないとお約束いたします。どうか」
躊躇いなく深々と頭を下げたクレインに、俺はかなり虚を衝かれた。
パーティ復帰の要請を予想していなかったわけじゃない。もしかしたらそんなことになるかもしれないと、考えていなかったと言えば嘘になる。
クレインは侯爵家の令嬢である。学内では身分の差はないものとして扱われるが、だからといって自尊心の強い彼女が易々と頭を下げるわけがない。そう思っていた。
「先日の件で、私達は己の未熟を思い知りました。ソルがいなくなった今、私達にはあなたの力が必要になってしまったんです。とても遺憾ではありますが」
「言い方」
フレデリカとユキも、クレインに倣い頭を下げる。
これは一体どうしたものか。いや、どうもこうもない。
「悪いけど、それはできない」
三人は身じろぎするだけで顔を上げようとしない。それどころか更に深く頭を下げる。
「今までのことは平に謝罪いたします。どうかわたくし達に、もう一度チャンスをお与え下さい」
「違うんだ。そうじゃない。とにかく頭を上げてくれ」
寮の廊下だ。人目もある。これでは謝られているこっちの方が居心地が悪くなってくるじゃないか。
「あなたが許してくれるまで、ずっとこのままでいる」
ユキの頭頂部がそんなことを言うものだから、俺も頭を抱えた。
「言っただろう? 別に恨みも憎みもしていない。許すとか許さないとか、そういう話じゃないし、強いてどちらか選べというのなら、もうとっくに許してる」
「では、パーティに戻ってきて下さるのですね?」
「だから、それはできないんだ」
ぱあっと顔を上げたクレインの表情が、俺の言葉を受けて再び曇る。
「……どうしてですの?」
「リーベルデ様付きの神聖騎士になった。近いうちに学院をやめて、巡礼の旅に同行することになる」
なるべく落ち着いて言葉にしたつもりだった。内容が内容なだけに、少々早口になってしまったのは否めない。
三人は顔を見合わせて唖然としている。何を聞いたのか理解できない、といった様相だ。
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