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鑑定の儀

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「もちろん、誰しもがスキルを授かれるわけではありません。ごく一部の選ばれた者のみが、スキルという神からのギフトを手にすることができる。私には、そのお手伝いをする力があります。これもまた、女神ダーナより授かったスキルがあるからです」

 うーむ。
 聖女が言うのだから真実なのだろうか。

「言葉を重ねるより、実際に目にして頂く方が早いでしょう」

 予定通りの展開ではあったが、タイミング的には完全に不意打ちだった。
 聖女が体ごとこちらを向き、美貌の微笑みで俺の心を串刺しにした。

「フリード・マイヴェッターさん。どうぞ、こちらへ」

 その瞬間、講堂中の視線が俺に集中する。
 勘弁してくれ。
 どうしてこんなことに。

「早く行け」

 隣に立っていた騎士に小声で叱られ、俺はようやく聖女のもとへと歩みを進めた。
 そして俺は一応の儀礼作法として、聖女の前に跪き、両手を組み合わせた。

「みなさん。ここにいらっしゃるフリードさんは、かつて私の命を救ってくださった恩人です。これから数日かけて、みなさんお一人お一人に『鑑定の儀』を執り行っていくわけですが、その最初の一人に彼を任命させて頂きました」

 参席する生徒達がにわかにざわつき始めた。当然だ。俺みたいな奴が、こんな光栄な役目を与えられるなんて誰が予想しただろうか。
 痛いくらいに伝わってくる。俺に向けられる嫉妬と侮蔑の感情。講堂中から突き刺さるような嫌悪の視線。

 イヤになるぜ。

 一人の騎士が、水晶玉を抱えて聖女のもとへやってくる。
 聖女はその水晶玉を受け取ると、舞台に設けられた台座の上に置き、そっと手をあてがった。

「これより聖女リーベルデが、運命の女神ダーナの御名のもと『鑑定の儀』を執り行います」

 もう始まるのか。
 まだ心の準備ができていないのに。

 透明なだけだった水晶玉が、ほのかな金の光を放ち始める。その光は無数の粒子となって講堂中に拡散し、神秘的な光景を生み出した。同級生達は舞い浮かぶ光の粒を見上げたり、その中心となる水晶と聖女を凝視したりしている。
 当の聖女は、紅の瞳で輝く水晶玉を見つめている。
 俺は跪いたまま、どうすればいいかわからない。段取りとか何も聞いていないし。

「フリードさん。どうぞお立ち下さい」

 柔らかな声に促され、俺はゆっくりと立ち上がる。

「さぁ、この水晶に触れるのです。我らの神が、あなたの内に宿る才を見出だして下さいます」

 言われるがまま、俺は水晶に触れた。
 途端。それまで控えめに光っているだけだった水晶玉が、一際強い輝きを放つ。
 その眩さに、俺は目を細める。

「これは……」

 対して、聖女はその光をじっと見つめていた。
 まもなく光は収束する。
 講堂内はしんと静まり返っていた。
 聖女は驚いたような、あるいは戸惑っているような、そんな表情のまま固まっている。桃色の唇を小さく開いたまま、水晶玉から視線を離さない。

「フリードさん。あなたは一体……」

 そんなことを呟かれたが、俺に反応の余地はなかった。
 聖女は思い出したように我に返ると、小さく咳ばらいを漏らす。

「残念なことではありますが――」

 この場の誰もが心待ちにしていた澄んだ声。

「――あなたの中に、スキルを見出すことはできませんでした」

 あまりにも痛烈な宣告。

 けれど、分かっていたことだ。
 俺なんかに秘められた力があるわけがない。そういうのは、クレインやそのパーティメンバーのような、才能あふれる若者にこそふさわしい。

 講堂からは嘲弄の言葉や笑いが聞こえてくる。
 なにが『鑑定の儀』だ。同級生の前で笑い物にされただけじゃないか。

「ごめんさない」

 それは俺だけに聞こえる、小さな謝罪だった。
 聖女は声量を変えず、できるだけ口を動かさないように言葉を続ける。

「日が暮れたら迎賓館に来てください。待っています」

 正直、意表を衝かれた。

「さあ、もう下がるんだ」

 何か反応する前に、お付きの騎士に壇上から去るよう促され、俺は何が何だかわからないまま講堂の警備に戻ることになった。

 いや、本当。
 どういうことなんだよ。
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