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エルンダを後に
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いつもの如く、セスは車内に入れてもらえない。
残暑は未だ厳しいが、走る馬車の上には気持ちの良い風が吹いていた。
「あーすっきりした!」
馬車の中から、シルキィの快活な声が聞こえてくる。
「なにがクローデン侯爵家よ。盗賊なんかにやられちゃって、全然大したことないじゃない」
いったい何度目だろうか。エルンダを出てからというもの、それまでの鬱憤を晴らすように同じような台詞を繰り返していた。よほど腹に据えかねていたのだろう。
「サラサったらあんなに怖がっちゃって。良い様だったわ。ねぇティア?」
「はい。私もそう思います」
ティアの返答も段々と雑になっている。
こうして憎まれ口を叩いているシルキィではあるが、あそこでサラサを助けたのは英断という他ない。多少皮肉っぽくはあったが、貴族の責務を建前としたことも正解だった。評判というものはどこから広まるかわからないものだ。シルキィの言動はラ・シエラの名を上げることになるだろう。
「そんなに嫌いなら、助けなくてもよかったんじゃ?」
御者席から訪ねたセスに、シルキィの顔がむっとした。
「言ったでしょう? 貴族の責務を果たしただけ。聞いていなかったの?」
「本心じゃない」
たとえ助けなくとも誰も咎めはしなかった。普通に考えれば、助けたくても助けられない状況だったのだから。
それでもシルキィは、たった一人の護衛を使ってまでサラサを救ったのだ。
「あそこで見捨てたりなんかしたら、きっと後悔するって思ったのよ」
セスに図星をつかれたのが気に食わなかったのか、拗ねたような細い声だった。
思わず笑みが零れる。
「それでこそお嬢だ」
セスは嬉しそうに、青い空を見上げた。
残暑は未だ厳しいが、走る馬車の上には気持ちの良い風が吹いていた。
「あーすっきりした!」
馬車の中から、シルキィの快活な声が聞こえてくる。
「なにがクローデン侯爵家よ。盗賊なんかにやられちゃって、全然大したことないじゃない」
いったい何度目だろうか。エルンダを出てからというもの、それまでの鬱憤を晴らすように同じような台詞を繰り返していた。よほど腹に据えかねていたのだろう。
「サラサったらあんなに怖がっちゃって。良い様だったわ。ねぇティア?」
「はい。私もそう思います」
ティアの返答も段々と雑になっている。
こうして憎まれ口を叩いているシルキィではあるが、あそこでサラサを助けたのは英断という他ない。多少皮肉っぽくはあったが、貴族の責務を建前としたことも正解だった。評判というものはどこから広まるかわからないものだ。シルキィの言動はラ・シエラの名を上げることになるだろう。
「そんなに嫌いなら、助けなくてもよかったんじゃ?」
御者席から訪ねたセスに、シルキィの顔がむっとした。
「言ったでしょう? 貴族の責務を果たしただけ。聞いていなかったの?」
「本心じゃない」
たとえ助けなくとも誰も咎めはしなかった。普通に考えれば、助けたくても助けられない状況だったのだから。
それでもシルキィは、たった一人の護衛を使ってまでサラサを救ったのだ。
「あそこで見捨てたりなんかしたら、きっと後悔するって思ったのよ」
セスに図星をつかれたのが気に食わなかったのか、拗ねたような細い声だった。
思わず笑みが零れる。
「それでこそお嬢だ」
セスは嬉しそうに、青い空を見上げた。
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