上 下
30 / 74

エルンダを後に

しおりを挟む
 いつもの如く、セスは車内に入れてもらえない。
 残暑は未だ厳しいが、走る馬車の上には気持ちの良い風が吹いていた。

「あーすっきりした!」

 馬車の中から、シルキィの快活な声が聞こえてくる。

「なにがクローデン侯爵家よ。盗賊なんかにやられちゃって、全然大したことないじゃない」

 いったい何度目だろうか。エルンダを出てからというもの、それまでの鬱憤を晴らすように同じような台詞を繰り返していた。よほど腹に据えかねていたのだろう。

「サラサったらあんなに怖がっちゃって。良い様だったわ。ねぇティア?」

「はい。私もそう思います」

 ティアの返答も段々と雑になっている。
 こうして憎まれ口を叩いているシルキィではあるが、あそこでサラサを助けたのは英断という他ない。多少皮肉っぽくはあったが、貴族の責務を建前としたことも正解だった。評判というものはどこから広まるかわからないものだ。シルキィの言動はラ・シエラの名を上げることになるだろう。

「そんなに嫌いなら、助けなくてもよかったんじゃ?」

 御者席から訪ねたセスに、シルキィの顔がむっとした。

「言ったでしょう? 貴族の責務を果たしただけ。聞いていなかったの?」

「本心じゃない」

 たとえ助けなくとも誰も咎めはしなかった。普通に考えれば、助けたくても助けられない状況だったのだから。
 それでもシルキィは、たった一人の護衛を使ってまでサラサを救ったのだ。

「あそこで見捨てたりなんかしたら、きっと後悔するって思ったのよ」

 セスに図星をつかれたのが気に食わなかったのか、拗ねたような細い声だった。
 思わず笑みが零れる。

「それでこそお嬢だ」

 セスは嬉しそうに、青い空を見上げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

レイヴン戦記

一弧
ファンタジー
 生まれで人生の大半が決まる世界、そんな中世封建社会で偶然が重なり違う階層で生きることになった主人公、その世界には魔法もなく幻獣もおらず、病気やケガで人は簡単に死ぬ。現実の中世ヨーロッパに似た世界を舞台にしたファンタジー。

私のスローライフはどこに消えた??  神様に異世界に勝手に連れて来られてたけど途中攫われてからがめんどくさっ!

魔悠璃
ファンタジー
タイトル変更しました。 なんか旅のお供が増え・・・。 一人でゆっくりと若返った身体で楽しく暮らそうとしていたのに・・・。 どんどん違う方向へ行っている主人公ユキヤ。 R県R市のR大学病院の個室 ベットの年配の女性はたくさんの管に繋がれて酸素吸入もされている。 ピッピッとなるのは機械音とすすり泣く声 私:[苦しい・・・息が出来ない・・・] 息子A「おふくろ頑張れ・・・」 息子B「おばあちゃん・・・」 息子B嫁「おばあちゃん・・お義母さんっ・・・」 孫3人「いやだぁ~」「おばぁ☆☆☆彡っぐ・・・」「おばあちゃ~ん泣」 ピーーーーー 医師「午後14時23分ご臨終です。」 私:[これでやっと楽になれる・・・。] 私:桐原悠稀椰64歳の生涯が終わってゆっくりと永遠の眠りにつけるはず?だったのに・・・!! なぜか異世界の女神様に召喚されたのに、 なぜか攫われて・・・ 色々な面倒に巻き込まれたり、巻き込んだり 事の発端は・・・お前だ!駄女神めぇ~!!!! R15は保険です。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

冤罪で捕まった俺が成り上がるまで

ダチョ太郎
ファンタジー
スラム街の浮浪児アヴェルは貧民街で少女に道案内を頼まれた。 少女が着る服は豪華で話し方にも気品を感じさせた。 関わるとろくなことがないと考えたアヴェルは無視して立ち去ろうとするも少女が危害を加えられそうになると助けてしまう。 そしてその後少女を迎えに来たもの達に誘拐犯扱いされてしまうのだった。

兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?

志位斗 茂家波
ファンタジー
モッチ王国の第2王子であった僕は、将来の国王は兄になると思って、王弟となるための勉学に励んでいた。 そんなある日、兄の卒業式があり、祝うために家族の枠で出席したのだが‥‥‥婚約破棄? え、なにをやってんの兄よ!? …‥‥月に1度ぐらいでやりたくなる婚約破棄物。 今回は悪役令嬢でも、ヒロインでもない視点です。 ※ご指摘により、少々追加ですが、名前の呼び方などの決まりはゆるめです。そのあたりは稚拙な部分もあるので、どうかご理解いただけるようにお願いしマス。

忍びの末裔の俺、異世界でも多忙に候ふ

たぬきち25番
ファンタジー
 忍びの術は血に記憶される。  忍びの術を受け継ぐ【現代の忍び】藤池 蓮(ふじいけ れん)は、かなり多忙だ。  現代社会において、忍びの需要は無くなるどころか人手が足りない状況だ。そんな多忙な蓮は任務を終えた帰りに、異世界に転移させられてしまった。  異世界で、人の未来を左右する【選択肢】を見れるレアスキルを手にしてしまった蓮は、通りすがりの訳アリの令嬢からすがられ、血に刻まれた【獣使役】の力で討伐対象である猛獣からも懐かれ、相変わらず忙しい毎日を過ごすことになったのだった。 ※週一更新を予定しております!

処理中です...