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辺境伯 4/4
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「わたしは戦後の執政を、前例に基づいて行うつもりであった。税を増やし、財力と戦力を整え、それを背景に他領との外交を円滑にする。先帝からこの地を賜った我が父も、きっとそうしただろう。概算では十年余りで、戦前の状態に戻せる見込みであった」
可もなく不可もない保守的かつ効果的な政策だ。政府の財政は税によって支えられている。つまり、領民への皺寄せによって財政を回復させるということだ。
「その話を聞きつけたあるお方が、猛烈な反発をなさった。民の暮らしを犠牲にするとは何事だ。貴族とは民の生活を守るための存在だ。などと主張されてな」
その通りだと、セスは思った。民は統治者の奴隷ではない。むしろ、政治を行う者こそ民の僕であるべきだ。真の指導者とは、民の栄光の為に自らを犠牲にする者に相違ない。
「その、あるお方というのは……一体どなたなのです?」
ラ・シエラ辺境伯に物申せるとなると、相当な地位の人間だろう。少なくとも侯爵以上。まさか、皇室に連なるやんごとなきお方だろうか。
「シルキィだ」
セスは一瞬、呆気にとられた。あの高飛車を絵に描いたような彼女の口から、そんな高潔な言葉が出てくるとはにわかに信じられなかった。年頃の少女である。贅沢もしたいだろう。彼女の振る舞いからして清貧とは無縁に思えた。
トゥジクスはイタズラが成功した少年じみた笑みを浮かべ、すぐに咳払いをして厳格な表情に戻す。
「驚くのも無理はない。私もそうだった。だがその後に続く言葉を聞けばどうだろう?」
セスは傍らのティアを一瞥した。彼女は眉一つ動かさない。
トゥジクスはテーブルを軽く叩き、語気を強めた。
「そんなことをすれば、ラ・シエラが野蛮人で溢れてしまう!」
カップとソーサーが揺れ、高い音を立てる。部屋にはひとときの静寂が訪れた。
どちらからともなく、セスとトゥジクスは笑い出す。
ああ、なるほど。確かに彼女なら言いそうだ。
税が上がれば消費が滞る。需要は減り、供給は不必要とされ、多くの人々が職を失うだろう。その結果、アルゴノートにならざるを得ない者が続出する。それはシルキィにとって、耐えがたい事態に違いない。
「どこまで本心か分からないがね」
トゥジクスはソファに座り直して腕を組みながら、天井を仰ぎ見た。
「結果的に、街の整備や領民への生活支援を優先させたおかげで求心力は強まった。民衆の支持という得がたい財産を手に入れたわけだ」
セスのティーカップは空になっていた。ティアが淹れたての紅茶を注ぐ。
「お嬢様の民を想うお気持ちに偽りはございません」
いつもの平坦な声色は、ほんのわずか強まっていた。
「であることを祈るばかりだ」
トゥジクスの呟きに、セスも首肯した。
もしティアの言う通りであるならば、その優しさと思いやりを少しでもアルゴノートに向けてくれないものだろうか。
そう願わずにはいられなかった。
可もなく不可もない保守的かつ効果的な政策だ。政府の財政は税によって支えられている。つまり、領民への皺寄せによって財政を回復させるということだ。
「その話を聞きつけたあるお方が、猛烈な反発をなさった。民の暮らしを犠牲にするとは何事だ。貴族とは民の生活を守るための存在だ。などと主張されてな」
その通りだと、セスは思った。民は統治者の奴隷ではない。むしろ、政治を行う者こそ民の僕であるべきだ。真の指導者とは、民の栄光の為に自らを犠牲にする者に相違ない。
「その、あるお方というのは……一体どなたなのです?」
ラ・シエラ辺境伯に物申せるとなると、相当な地位の人間だろう。少なくとも侯爵以上。まさか、皇室に連なるやんごとなきお方だろうか。
「シルキィだ」
セスは一瞬、呆気にとられた。あの高飛車を絵に描いたような彼女の口から、そんな高潔な言葉が出てくるとはにわかに信じられなかった。年頃の少女である。贅沢もしたいだろう。彼女の振る舞いからして清貧とは無縁に思えた。
トゥジクスはイタズラが成功した少年じみた笑みを浮かべ、すぐに咳払いをして厳格な表情に戻す。
「驚くのも無理はない。私もそうだった。だがその後に続く言葉を聞けばどうだろう?」
セスは傍らのティアを一瞥した。彼女は眉一つ動かさない。
トゥジクスはテーブルを軽く叩き、語気を強めた。
「そんなことをすれば、ラ・シエラが野蛮人で溢れてしまう!」
カップとソーサーが揺れ、高い音を立てる。部屋にはひとときの静寂が訪れた。
どちらからともなく、セスとトゥジクスは笑い出す。
ああ、なるほど。確かに彼女なら言いそうだ。
税が上がれば消費が滞る。需要は減り、供給は不必要とされ、多くの人々が職を失うだろう。その結果、アルゴノートにならざるを得ない者が続出する。それはシルキィにとって、耐えがたい事態に違いない。
「どこまで本心か分からないがね」
トゥジクスはソファに座り直して腕を組みながら、天井を仰ぎ見た。
「結果的に、街の整備や領民への生活支援を優先させたおかげで求心力は強まった。民衆の支持という得がたい財産を手に入れたわけだ」
セスのティーカップは空になっていた。ティアが淹れたての紅茶を注ぐ。
「お嬢様の民を想うお気持ちに偽りはございません」
いつもの平坦な声色は、ほんのわずか強まっていた。
「であることを祈るばかりだ」
トゥジクスの呟きに、セスも首肯した。
もしティアの言う通りであるならば、その優しさと思いやりを少しでもアルゴノートに向けてくれないものだろうか。
そう願わずにはいられなかった。
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