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戦わせるにはちょっと2人は強過ぎる

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 お姫様抱っこから降ろそうとしているのにカウモアが手を離してくれない。

「手ぇ、離せよ」

「埋もれるまでが抱っこです。さあ遠慮なく」

 質量が違っていても、2度3度やれば慣れる。もうおっぱいに顔を埋めるような失敗はしないのだ。が、カウモアはそれがご所望のようで、グイグイと俺の首に力を込める。

「離してくれたらべろちゅーしてやるぞ?」

「では、べろちゅーしてくれたら離します」

「せめてマスクを外せよ。牛の顔とキスするのは嫌だぞ?」

 しばらく考えたカウモアは手を離し、マスクを外した。

「さて、寝るか」

 俺を挟んでタララとカウモア。布団をかけて寝る。灯りを消したカウモアが、俺の体に半身を乗り上げてキスして来ると、タララまでべろべろチュッチュと舌を絡ませて来る。良い匂いと、柔らかい感触に固くなってしまったアイツを2人に気づかれないように、その日は寝た。

 朝になり、部屋の外から鳴り響く装備のガチャ音で目覚めると、俺の股間を枕にして眠る酔っ払いが湧いていた。柔らかい状態で助かったが、寝てる間に変な事してないだろうな?

「タララ、カウモア。おっぱい揉んで良いか?アイツを起こしてくれたら揉んでやる」

 いつものように、俺の体は左右からガッチリホールドされてて動けないのだ。更に今朝はメロロアが内側から足を抱いている。俺は寝返りを打たせてもらえない、可哀想な子なのである。

「メロロア、起きないとゲインの硬いの見れないじゃない。どきなさいよ」

「…かたくないれふよぉぅ……」

「あんたが乗っかってるから硬くなれないんじゃないの?それともアイツが寝てる隙に…」

「貴女!」「お前っ!」

 ガバッと起きた2人がメロロアに迫るのを、一瞬でアントルゼの背後に回り込む。…みんな起きてたんじゃねーか。

「皆さんおはようございます。飲みまくって朝帰りの二日酔いですが、誓って変ら事なんてしめませんっ」

 シャキッとしてるフリしてカミカミである。そして、人の股間を枕にして寝る行為は変な事だと思うんだ。

「嘘だと分かったら、俺はお前を嫌いになってしまうかも知れん。それでも誓うのか?」

「契約書でも水晶玉でも持ってきてくらさいっ」

 キリッとしてても噛んでるからな?タララとカウモアが脱力して着替え出したのでこの辺にしておこう。俺も着替えて飯の支度だ。

「二日酔いは大丈夫なのか?」

「アンチポイズン飲んで寝たので取り敢えずは治らってますね」

「まだ酔ってるんじゃねーの?」

「かもしれまへん」

 着替えのついでにヤカンに水とコップを出して、みんな好きに飲んでくれ。メロロアは3杯おかわりしてた。

「ぷふ~、染みますね~…。ああそうだ。出発はギルドに寄ってからでも構いませんか?儀礼みたいなものですが、最後の出勤退勤があるんですよ」

「何よそれ?お見送りでもされるの?」

「ですね。出勤したら入口の前でおはようございますって叫んで、1つだけ業務をこなしたらお花をもらい、捨て台詞を吐いて退勤します。寿退社する子ですと、『わたし、これからもっとしあわせになりますっ』なーんて呪言を吐いて出て行くんですけど。私の場合、どうしましょ」

「私、冒険者になります~。…みたいな?」

 タララは多分、メロロアの真似をしたのだろう。全然似てない。

「私、ゲインさんに付きまといます~。…なんてどうかしら」

 アントルゼの声真似は若干似てるな。メロロアはどちらも否定しているが。


 そんなこんなで着替えを済ませ、ベッドを片付け食堂へ。飯を食ったらみんなしてギルドへと向かった。

「ではちょっと行って来ますので、皆さんは外で待っててくださいね」

 儀礼は見せてもらえないようだ。ごねるのも馬鹿らしいので大通りの反対側で待つ事にした。ギルドの周りは人が集ってて近寄りたくなかったのだ。そんな人混みの中をスルスルと分け入るメロロア。

「おはようございます!冒険者ギルド職員、買取担当のメロロアです!今日も1日、よろしくお願いしますっ!」

 通りの反対まで聞こえる声が、拍手と歓声でかき消えた。その拍手と歓声は、メロロアが出て来るまで続く事になる。

「お待たせしましたっ」

 若干テンションの高まったメロロアが合流し、俺達は街を出た。とは言え出たのは東門なので、街の外周をぐるっと回って南門まで行かねばならん。若干めんどい。

「メロロアさん、どんな捨て台詞吐いたの?」

 俺も気になっていたのをタララが聞いてくれた。捨て台詞を吐いただろう一瞬、歓声が消えたんだよな。

「大した事言ってませんよ?」

「その割には静まり返っていましたね」

「なんて言って場を凍りつかせたのよ」

「夏の始め頃までには赤ちゃんが見られるかも知れません…って」

「酷い嘘だな。俺、成人前に仕込んだ事にされてるじゃん」

「お腹に障るので置いて行きましょう」

「酷っ!ギルドの飢えたウルフ共にデカい口叩きたかっただけなんです~。ゲインさぁん怒らないでくださ~い」

「…怒る程の事じゃあないけど、子供と子作りするのは確か犯罪だったよな」

「平民ですと、罪ですね。貴族ですと、揉み消されますが」

「ゲイン、衛兵に突き出さなきゃ」

「タララさんまで!ゲインさぁ~ん」

 さて、走るか。アントルゼとタララの足に合わせて走り出した。当たり前だがメロロアからは逃げられない。フル装備だし、仕方ないね。

「所でメロロア。装備着けた方が良いよな?」

「街道の真ん中で着替えるのはちょっと…」

「ならあそこだな」

 走って早足、走って早足。近付いて来たのは俺がカウモアに不意を突かれた農民の休憩小屋だ。メロロアもそこで良いと言うので、近くで作業していた農民に少しだけ使わせてもらえるようお願いし、メロロアは着替えに行った。俺達は休憩。逃げたら輪廻の果てまで追いかけるって言われた。出来るのか?

「みんな、マメとかこさえてないか?」

「大丈夫だよ」「問題ありません」「ほんと、そう言うトコ気配り上手よね。私も大丈夫よ」

「足手まといになる前にケアしないとな」

「それでメロロアさんの着替えを優先したの?」

「まさか。アイツはあの格好でも俺達よりは強かろうよ。感知系スキル使っても見えなくなるんだぞ?威圧効かない俺にダメージ与えて来るしな」

「お待たせしました。あれはゲインさんのを受けて、初めてあんな使い方したんですよ?」

 俺の背後に立つな。びっくりしてビクッとしたわ!以前の黒い皮鎧では無く、普通の皮鎧だが、全身しっかり覆われて革製フルプレートと言った所。何だかお高そう。

「初めてで俺にダメージ与えるのか。流石メロロア先輩だな」

「褒めてもエッチな事しかしませんよ?」

「これからは厳しく接するよ。それより、良い鎧だな。奮発したのか?」

「優しくしてくれなきゃ夜這いしますからね?鎧は奮発って程でもないですよ。もちろん安くもないですが」

 皮鎧にしてはお高めなのだそうだ。ヘルメットがあれば性別も分からなくなるな。

 休憩を終えて木の門へ。門番さんに挨拶し、橋の向こうの馬鹿騒ぎにため息を漏らす。

「アリ以外、石はなるべく使わないように」

「無駄遣いはダメだね、分かった」

 遊撃のメロロアを先頭に、壁のタララ、中距離の俺とアリが並び、少し離れて近接の牛が殿で橋を渡る。離れているのはツーハンドソードを持っているからだ。ここで使って、少しでも慣れたいのだと思われる。

「な!何だお前等!?」

「俺達の獲物だぞ!」

 まだ取っても無いのに自己主張する馬鹿共にイラッとする。

「タララ、盾を仕舞って振り回して歩け」

「人に当たるじゃん」

「積極的に当てて行け。どうせこんなの居なくても街に被害は無いからな。牛も斬り捨てて良いからな?」

「了解です。近寄る物は全て斬り捨てます」

「ひっ!」「ゴブリン所じゃねえ!」

 前に居たタララより、殺傷力の高そうな牛の剣が振り回されたのを見てビビったようだ。ボコってたゴブリンを見捨てて草藪に逃げて行く冒険者。そしてそれを追いかけるゴブリン。街道がスッキリしたので先を急ごう。無駄に絡まれるのは嫌なので走って行くぞ。
 それでも馬鹿なゴブリンが何匹か立ちはだかったが、タララの金棒に頭を砕かれ、お小遣いとなった。回収だけして後で選別するよ。


「試し斬りが出来ませんでした」

 草藪ゾーンを抜けて森の中の街道を行く。ここでは長物は振り回せないのでブロードソードに持ち替えた牛がごねている。また機会はあるだろさ。
 休憩地点の広場でしっかり休んで出発すると、商隊の馬車が向かって来た。商隊だと分かるのは馬に乗った護衛が居ないのと、冒険者が護衛してるからだ。
 武器を下ろして道を開ける。もちろん挨拶も欠かさない。

「こんにちは。護衛かい?」

「お、おう。とっとと街でゆっくりしたいぜ」

「お前等野盗とか、見てないよな?」

「居なかったよ。いつも通り冒険者がゴブリンと遊んでるけど」

「そうか。情報ありがとな。こっちも猪が居たくらいで大したのは居なかったぞ」

「こちらこそどうも」

「あれ?メロロアさん?」

「あ、どうもです。先を急ぎますのでまた今度お話しましょう」

「またでーす」

 メロロアはギルド職員だっただけあって面が割れているな。商隊とすれ違い、移動しながら聞いてみる。

「あの人達、知り合いだったの?」

「買取りで直々って感じです。女性特有の情報交換もしてましたし」

「あたい、そーゆーの知らないんだけど」

「奇遇ね」「ですね」

「服だとか化粧品だとか。そんな話ですよ?」

「化粧しないしね~」

「必要ないものね」「水だけで充分ですね」

「…顔の産毛とか、処理しますよね?」

 顔のひきつるメロロアであるが食い下がらない。

「貴族は子供の頃からそう言ったのはやってるから、10歳を超える頃には逆に生えて来なくなるのよ」「ですね」

「ゲイン~、あたいも産毛、無い方が良い?」

 前見て歩け?感知系スキルで敵性反応は無いが、転ぶぞ?

「タララよ。お前のは産毛じゃ無い。毛だ。それにだ、タララの顔がツルツルになったら逆におかしいだろ」

「そうかしら?口周りだけでも処理したら良いんじゃない?」「ですね」

「よく分からんが、街に着いたらやってもらえば良いさ」

「そだね。けどゲインがメロメロになったらど~しよ~?」

「近場に土地を買って農家にでもなりましょうか?」

「それメインで食ってくとなるとキツいぞ?しばらくは開墾だけになりそうだしな」

「私はもう少し進んでからにしたいわね」「ですね」

 そんなこんなでおしゃべりしながら2つ目の休憩地点でお昼ご飯とする。時間も無いので調理が出来ず、干し肉と水で済ませる。

「何か、熟成されてるわね、これ」

「それは、美味いと言う事で良いのか?」

 俺にはよく分からない。

「美味しいよ?」

 きっとタララにも分かってないと思う。噛みごたえ=美味しい、だろうからなぁ。

「干し肉の味なんて気にしませんからねぇ。店売りの物より遥かに美味しいのは分かりますが」

「ゲインの手作りだもんね~」

「嫁にした…、嫁にしてください」

「あたいが先だかんね」

「いや、食うだけの嫁なんてちょっと欲しくないかなー」

「う、一緒につくろ?」「私も頑張りますので、ひとつ宜しく」

「花嫁修業の旅なのかしら?」「ですね」

「そういや牛は、さっきから相槌しか打ってないな」

 森の街道に入ってから、ですねしか言ってない牛が気になった。

「いえ、特には。外を歩いている時は何となく黙ってしまうだけです。気を張っているからでしょうね」

「まあそれが普通なんだよな。索敵はそれなりに万全とは言え、集中して悪い事なんて無いからな」

「今はまだ、温存しておくのが良いですよ。気を張るのは夜に取っておきましょう」

 メロロア先輩の言も一理ある。気を抜き過ぎない程度に力を抜いて、先を行く事になった。


「たしか、もうすぐ森を抜けるよ~」

「先が明るくなって来たな」

 道を覚えてたタララが森の終わりを告げる。野盗とか、出なくて良かった。

「村まではまだまだありますけどね。この調子でしたら夕方までには着けるかと」

「宿は…無さそうだよな」

「馬車の近くで寝たよ。女は中で、みたいな」

「急いで行くか、手前で野営するかを選ばにゃならんか」

「テントがあるのだから急ぐのを推すわね」

「だね~」「アリの体力次第です」

「その時はゲインに抱っこしてもらうわ」

「おんぶにしてくれ、あれは結構腕と腰に来るから」

「大丈夫よ。私、軽いから」

「取り敢えず、少し早めに走るか」

 今までも走るのと早足を交互に移動していたが、急ぐとなると走るのを多めにして行かねばならん。走るー、走るー、走るー、早足。走るー、走るー、早足。アリの調子とタララのペースを見ながら移動して、畑の連なる丘の麓にやって来た。この村も段々畑なのな。水やりの苦労は知っている。井戸も深掘りなんだ。
 足を使いまくって丘のてっぺん。村の入口に着いた。金属鎧でこれはキツい。脱げば…と言う誘惑にほぼ負けていた俺達は、木で出来た柵と門の前でへこたれてしまった。メロロアだけはまだ余裕がありそうなので入村の受付をしてもらったよ。

「ゲインさーん、入って良いですよー?」

 村人と話をしていたメロロアが、手を振って俺達を呼ぶ。ここでグダっていても飯も寝床も無い。ここが踏ん張り所である。

「みんな、テントを立てたら水浴び場を作ってやる。だからもう一息頑張ろう」

「ゲイン、大好き!お肉もたっぷりね!」

「早く横になりたいわ」「…ですね」

 体に鞭打ち村に入り、野営場所を指示してもらって設営に取りかかる。
場所は集落から離れた空き地。空き地とは言っているが薬草を生やしている場所でもあるだろう。事実、カツリョクソウにツルゲネツが生えている。
 ツルゲネツは草藪の上まで蔓を伸ばして葉を茂らせる。薬効のある葉っぱを採っても暑い時期ならすぐ生えてくる丈夫な薬草だ。
 出来るだけソイツ等が生えてなさそうな場所を選んで草を刈る。

「フンッ、フッ!」

 ツーハンドソードの使い方はそれで合っているのだろうか。くるぶしを斬る程の高さでツーハンドソードを横薙ぎにして草を刈り取って行く牛が居る。すぐに10ハーン四方無いくらいの空間が得られた。

「デリートウォーター」

 刈り取られた草を脱水して収納しておく。色々な事に使えるからな。
 広くなった空き地に荷物を降ろし、女達はテントを建てて行く。俺はトイレと水浴び場の建設だ。

 地面を薄く収納したら、むき出しになった地面をブロック状に切り取り積み重ねる。柱が焼けちゃったので広い空間だと屋根が作れない。せいぜい2ハーン四方が良い所だ。高台だから覗かれる心配も無さそうだけどな。広さ4平方ハーン地上高2ハーン、地下1ハーン程の空間が出来上がった。床は土なので枯れ草を厚く敷き、靴を脱いだ足で踏みしめる。入口の向かい側にブロックで壁を作って目隠しにしたら水浴び場は完成だ。
 トイレも同じ並びに作る。目隠しの壁が活用出来るからな。こちらは地上高1ハーン、地下1ハーンで広さは2平方ハーン程。穴は少し浅めに1ハーン程しか掘ってない。長く使わないし土かけるからね。

「ゲイ~ン、テント出来たよ~」

「ああ、今行く」

 テントの床に枯れ草を敷いて伸す。その上にグランドを敷けば汚れないし柔らかいだろ。マットを並べて1セット足りないのに気付いてしまった。

「もこもこだね」

「それより1枚分足りないんだ」

「一緒に寝るね」

「鎧でか?潰れてしまうぞ?」

「あ、ゲインさん。それなら問題無いですよ。寝具ありますから」

 外にいたメロロアがベッドを出した。さすがにベッドは邪魔だな…。掛け布団と毛布を剥ぎ取り、それを使うと言う事らしい。

「ゲイン!トイレの葉っぱが無いのだけどっ?」

 今度はアリか。

「ゆっくり垂れておけ。牛に持たせるから」

「お願いねっ!?」

 慌ただしい奴よ。草藪に生えてるツルゲネツの葉をもぎる。掌大の大きさだし、これで大丈夫だろ。竈を見ていた牛に持たせて俺と交代。
 暗くなってからでは遅いので、火の起きた竈からランタンにもらい火しとこう。そして鍋に水、刻んだ干し肉と乾燥野菜にスパイスとハーブを入れて蓋をした。

「干し肉茹でるか?」

「あたいはどっちでも~」

 アリと牛はトイレなので俺が決める。スープの鍋に干し肉7枚刺して、蓋をした。次はソーサー。お玉2杯で1人分、普通のソーサーで3枚焼ける。薄ソーサーなら4~5枚だ。シャバシャバにしないようにそーっと水を入れて混ぜ、ドロっとしたのを焼鍋に注いで焼いた。

「今日は厚めなの?」

「タララの為に厚くしたんだ」

「ゲイン、嘘だよねー」

「タララの為に、肉3枚茹でたのに…」

「ゲイン、愛してるー」

「何やってんのよ…」「茶番と言う物です」

「私ともイチャイチャしてください!」

 トイレで何やらしていた2人と、どこかで何やらしていたメロロアが寄って来たので竈の番を任せよう。テーブルの支度もしなきゃだしな。

「アントルゼ、板出してくれ」

「テーブルね、分かったわ」

 箱を並べて板を乗せ、イス代わりの箱を並べてテーブルは良し。皿やカトラリー、ヤカンに水等出しておく。後はソーサーが焼き上がるまで待つだけだな。

「ねぇゲイン。鎧脱いじゃ、ダメ?」

「水浴びの時に脱ぎなされ。寝る時は皮装備だぞ?」

「ん~。村の中なのに、ダメなの?」

「村の入口見たろ?あんな木の柵じゃ猪突っ込んで来たら壊れちまうだろ」

「あーねー」

「それにですね、今夜はしっかり見張りを立てましょう」

「村の中なのに?」

「まあ、練習みたいなモノですね。安全だから気を抜く程、冒険者は気楽な商売じゃあ無いって事で」

 メロロアは何か察してるのか?ヘラヘラしてるのが逆に怪しく感じるが、みんなは何も感じてないみたいだった。

 ソーサーが焼き上がり、配膳したらいただきます。茹で干し肉増し増しのスープが濃くて美味い。もちろん茹で干し肉も暖かく、柔らかくなって美味い。ソーサーはいつもの味だ。

「暖かい食事は英気を養えますね」

「そうね。眠くなるわね」

「見張りの話だが、まずはメロロア、次にアリと牛、その後は俺とタララで行こうと思う」

「あーい」「分かったわ」「「了解です」」

「なので水浴びもその順番でしよう」

「あたいとゲイン、一緒に入るの?」

「入っても良いぞ?」

「…優しく、してね?」

「体を洗えと?」

「知ってた!ゲイン外じゃそーゆー事しないもんっ」

 分かってもらえて何よりだ。

「家の風呂ならもしかしたら我慢出来ずにしてしまうかも知れないが、外じゃ危険過ぎるだろ」

「家にはお風呂を作りましょう」

「あるに越したことはないわね」

「頑張って稼ぎましょう」

 飯を平らげ、明日の分の仕込みをしたら片付けて、ランタンを持ったメロロアが水浴び場へと消えて行く。アリと牛が続き、そして俺とタララの番。

「あんまりじっと見られると恥ずかしいんだが」

「だって、あたいソレ付いてないし。ゲインだって見てるじゃん」

「俺にも付いてないからな」

「我慢、してんだね…」

「我慢しないとタガが外れちまうよ。みんな魅力的だからな」

「ね、誰が一番魅力的?」

「ティアラ着けたアリが一番だ」

「そう…」

「マスク外したらタララが一番だよ」

「そう…うひひ…。背中洗ったげる」

「ん…、それは、洗えているのか?」

「じっとしててね」

 じっとした。

「大きいね…。それに、硬い」

 背中の事だろ。

「あたい、我慢するから」

 俺も出来るだけ我慢した。


 ウォーターウォールを消して、皮鎧に着替える。凄くサッパリした。

「タララ、ありがとな」

「ん」

 ちょっと長めのキスをして、水浴び場を後にした。

「一体、ナニをしていたんですかねぇ~?」

「体を洗ってもらったぞ。じゃあ頼むな」

 ニヤニヤするメロロアを華麗にスルーして寝床に就くと、左右にタララとカウモアがベッタリ。寝返りは、打たせてもらえないようだ。

 しばし寝て、メロロアが起こしに来る。アントルゼとカウモアが毛布を被って外に出ると、俺に抱き着くようにメロロアが横になる。

「静かに聞いてくださいね。村人が攻めて来る可能性があります」

「…そか」

「しっかり見張りしてれば何とかなるとは思いますが、警戒しといてくださいね」

「街に着いたら、ゆっくり寝よう…」

「はい…んちゅ…おやすみなさい」

 うちの村ではそんな事は無かった。と思いたいが、食えない所はそう言う事もあるようだ。俺達を殺して荷物を奪い、それを売って飯にする。まあ、殺した所で大事な物はマジックバッグの方に入ってるから大した稼ぎにならんのだが、女達を奴隷として売り払えば結構な稼ぎになっちまう。
 感知系スキルを細く伸ばして広範囲を見て回る。もう夜なのに大人はまだ起きてるな。普通の村人ならとっくに寝てる時間だ。これはやる気満々っと言った所か。
 借り物の土地だから壁や壕を作るのを躊躇ったのが痛いな。この場所だと囲まれる可能性があるぞ。

ぽん。ぽん。

 思案している俺の腹を、メロロアの手がぽんぽんと優しく叩く。少しだけ、脱力した俺は考える事を止めた…。

 そこまで熟睡は出来なかったが、浅い眠りを繰り返し、交代の時間となったようだ。ようだと言うのは寝てるはずのメロロアがつねって来るのだ。首の横とかを攻撃して来るので地味に痛い。タララはまだ寝てるけど、トイレ行きたいし早起きするか。

「ゲイン様、まだ早いと思いますよ?」

 モゾモゾとテントを出ると、気付いたカウモアが小声で応える。

「おしっこ」

「硬くなってるの?」

 アントルゼはなぜ硬さにこだわるのか。

「なってないな」

「そ…」

 暗さに慣れた目でトイレに向かい、穴に向けてジョロジョロロ…。その時、草藪の中からガサガサと音を立て、たくさんの何者かが集まって来た。
 トイレの建屋を一気に収納し、感知系スキルで見える者へと射出する。

ドカッ!ドシャッ!ドカッ!

「うぎゃ!」「あがっ!」「グエッ!」

 トイレを形作っていた33個のブロックの内、8つを射出し、11人をぶちのめした。カウモアはトイレと水浴び場の壁を背にしたアントルゼ守るようにブロードソードを構え、メロロアはテントを収納してタララを引きずり出していた。まだ寝ていたのか。

「クソっ!起きてやがった」

「あの熊からやれ!」

「牛、頼む」

「了解!」

 カウモアが一足飛びにメロロアと合流し、メロロアが消える。俺はアントルゼの前に立ち、ブロックを置いていった。

「アリ、分かってるな?」

「そうね。敵なのよね」

「そうだ」

 アントルゼがブロックを10個収納する間に、俺は農具を構えた敵共に6つのブロックを当て数を減らす。
 攻撃力の高そうなカウモアに襲いかかる勇気のある馬鹿は居ない。だが、躊躇していると後ろから襲われる。メロロアだ。隣に居た仲間が突然倒れて動揺しているが、何も出来ないまま意識を刈り取られて行った。
 残るは俺とアントルゼの居る側の3人。壁の裏に2人、横から機会を伺う1人となった。

「当たりなさいっ」

 当たれと言って当たる馬鹿は居ない。サッと壁の2人と合流したが、それは悪手だ。アントルゼが俺を見る。やる気のある顔だ。
 壁に向けて両手をかざして返答すると、壁から離れて手をかざす。

ドカドカドカドカッ!

 ありったけのブロックを思い切り射出すると、壁が崩れて3人は下敷きとなった。

「上手く行ったな」

「何とかね…」

「ゲイン様、ご無事で」

「それよりタララは起きたか?」

「起きたよ!起こしてよもう!」

「盾役にはあまり負担かけたくなかったんだよ」

「寝てるのを怒るのかと思ったわ」

「この程度の雑魚でタララは出せないよ。それに、タララが殴ったら死ぬと思うし」

「壁に潰されたのって、生きてるの?」

「皆殺しよりはマシだろ?カウモアを援護に徹してもらったのもその為だ」

 壁に潰されたのと、ボコボコにして伸びてる奴等を一纏めにして3ハーン程の深さに掘った穴へと投げ落とす。ブロックで壁を作り、出られなくした。

「メロロア、見回ってもらえるか?」

「ゲインさんは?」

「トイレ作るよ」

「さっきしてたのよね?」

「してないぞ?水出して、する振りしてたんだ」

 男だからその辺でしても良いのだが、覗き込まれそうで嫌だ。見返してやる事も出来ないだろうしな。

 行ってきますと闇夜に消えたメロロアを見送って、余ったブロックでトイレを建て直す。簡単な構造だしアントルゼが手伝ってくれたのですぐに終わったが、目隠しの壁は崩れてしまったので、結局ブロックを掘る事になってしまった。

 翌朝。日の出と共に起き出す農民達を穴の場所に集める。ほとんどが女と子供、そして年寄りだ。口々に旦那が居ないだとか、息子がだの父ちゃんがだの騒いでる。

「この村の男手はどこに行ったんだろうな?」

「昨日の夜、寄り合いだって出てったきりだよ!まさか野獣にでも…」

「その割には畑もキレイだよな?荒れてるのは俺達が寝てた場所くらいだ。でな?俺達、夜遅くに夜襲を受けてな。ぶちのめして捕まえた悪党を残らず穴に突っ込んであるんだ。農具を持って襲いかかって来る野盗も珍しいがな」

 俺の言葉に騒めき立つ村人達。

「村に衛兵が居ないなら、木の門まで持ってかなきゃならん」

「ちょっと、その…。見せてはくれないかねぇ」

「見て、どうするんだ?」

「だって…」

「捕まえた悪党がお前等の夫や息子。村の男手だったらどうするんだ?」

「犯罪奴隷になるか、その場で死罪です」

 メロロアが説明する。元ギルド職員だけあって説明が上手い。村ぐるみで犯罪に関与していたら、大人は全て罪人となり、子供は施設に送られるそうだ。




現在のステータス
名前 ゲイン 15歳
ランク C/E
HP 100% MP 100%
体力 D
腕力 E
知力 E
早さ D-
命中 E-
運 D

所持スキル
走る☆☆ 走る☆☆ 走る 走る 走る
刺突☆☆ 刺突
硬化☆☆ 硬化 硬化
投擲☆☆ 投擲
急所外物理抵抗☆☆
飛躍☆ 飛躍
木登り☆
噛み付き☆☆ 噛み付き 噛み付き
肉体強化 肉体強化☆ 肉体強化☆
腕力強化☆ 腕力強化 腕力強化
脚力強化☆ 脚力強化☆ 脚力強化
知力強化☆
体力強化☆ 体力強化 体力強化
ナイフ格闘術☆ ナイフ格闘術
棒格闘術☆
短剣剣術☆ 短剣剣術☆
避ける☆
魅力☆
鎧防御術
察知
探知
マジックバッグ
マジックボックス

鑑定☆ 鑑定
魅了
威圧
壁歩き

水魔法☆ 水魔法
|├ウォーター
|├ウォッシュ
|└デリートウォーター
├ウォーターバレット
├ウォーターウォール
└ボーグ

土魔法☆
├ソイル
├サンド
└ストーン

火魔法
├エンバー
├ディマー
└デリートファイヤー

所持品
革製ヘルメット
革製肩鎧
革製胴鎧
皮手袋
皮の手甲
混合皮のズボン
皮の脚絆
水のリングE
水のネックレスE

革製リュック
├草編みカバン
├草編みカバン2号
├紐10ハーン×9 9ハーン
└布カバン
 ├冊子
 ├筆記用具と獣皮紙
 ├奴隷取り扱い用冊子
 └木のナイフ

革製ベルト
├ナイフ
├剣鉈
├剣鉈[硬化(大)]
├解体ナイフ
└ダガー

小石中☆500
小石大☆450
石大☆20

冒険者ギルド証 0ヤン

財布 ミスリル貨235 金貨11 銀貨8 銅貨9
首掛け皮袋 鉄貨74
箱中 997,435→980,435ヤン 
ミスリル貨 金貨85 銀貨118 銅貨124 鉄貨35 砂金1250粒

マジックボックス
├箱
|└シルクワームの反物×33
├未購入チップ各種箱
├医薬品いろいろ箱
├食料箱×2
├調理器具箱
├ランタン箱
|└油瓶×10 9.4/10ナリ
├竈、五徳
├蓋付きバケツ大
├テントセット
├マット×4
├毛布×4
├洗濯籠
|├耐水ブーツ
|└耐水ポンチョ
└宝石
鉄兜
肩当
胸当
腰当
上腕当
ゲル手甲
ゲル股当
帆布のズボン
脛当
鉄靴
熊皮のマント

籠入り石炭0
石炭86ナリ

ランタン
油瓶0.3/0.8ナリ
着火セット
服箱
├中古タオル
├中古タオル
├未使用タオル×2
├中古パンツE
├パンツ
├未使用パンツ×2
├ヨレヨレ村の子服セットE
├サンダル
├革靴
├街の子服Aセット
└街の子服Bセット

スキルチップ
ハシリウサギ 0/4521
ウサギS 0/1
ウサギG 0/1
ハシリトカゲ 0/3166
ハシリトカゲS 0/1
ハチ 0/2859
ハチS 0/1
カメ 0/3459
カメS 0/1
ヨロイトカゲS 0/2
石 0/1861
石S 0/1
スライム 0/2024
オオスズメ 0/1573
トンビS 0/4
フォレストモンキー 0/972
ウルフ 0/1070
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ラージアントワーカー 0/100
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体G 0/1
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短剣S 0/100
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