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特殊飲食店街
しおりを挟むザットルマン伯爵領の領都はザットルマン、では無くハイントスと言うそうで、拝領前の街の名をそのまま使っているのだと。
「名より実。実直な男ではあるが性根が少々素直過ぎますな」
「運も無いな。良い人に良い人だけが集まれば良いのにね。異を唱える者を傍に置くのが良いのかな。家は誰彼も無く進言してくれるよ」
「カケル殿は良い配下をお持ちの様で」
「龍は配下じゃ無いから一纏めにされると困るがね」
最初はどう処理してやろうと思っていたが、伯爵も騙されていた口である事を知り、話をして国に必要な人物と判断し、宰相共々口頭注意のみの処分と意見が一致したのだった。
「それは失言を。して、何処へ参られるおつもりか」
ハイントスの城下街はダンジョン景気で清濁併せ呑む感じの賑わいを見せている。日が沈み、庶民は家に閉じ篭もる時間にも関わらず、兵士や冒険者に平服の者迄、明かりに集まる蛾の如く、川沿いの通りを練り歩いていた。川を挟んで向かい合う二本の通りが日本で言う所の赤線、特殊飲食店街だと客引きの男に聞いた。
宰相の言う何処とは、勿論お姉ちゃんの居るお店の事である。多少酒を飲んでから、好みの女子と…ぐふふ。との所望である。金はたんまり持って来たと言うので、前世ではした事ない接待をする。
「お貴族様っ、良い子いますぜ?」「お大臣、ソイツんトコよりウチのが綺麗所が揃ってますぜ」
「ふふ。大臣と来たか」
「王様や宰相様は一人しか居りませんからな。沢山居る大臣が平民の呼べる最高位なのですよ」
「成程成程」
「三十路過ぎの獣人は居るか?」
「「は?」」
「大臣殿のご所望だ。俺も性欲強いタイプが好きだけど」
「ほ、ホントに大臣っ?」
「お前等の売り言葉に乗っただけだよ。貴族様なのはホントだけどな。居なければ他を当るぞ。系列店に声掛けて来い」
「へ、へいっ」「探して来やすっ」
客引きの二人はすっ飛んでった。近くに居て声を掛けなかった奴等も足早に何処かへ消えてった。
「手馴れたモノですな」
「貴族連れだからだよ。立ちんぼするのも詰まらんし、歩いて女見物でもしようか」
「お供しますぞ」
川の反対側には店が並び、明るい店の壁に開けられたスリットからは中の様子が窺える。普通の飲み屋が一番明るく見え、嬢が酌をするだけの店は少し暗い。一番暗い店からは…。
「ほうほう…」
「《暗視》ですかな?」
「この店は嬢と酒を飲みながら、本番以外を行えるようです」
「ほう!して、獣人は如何に!?」
「良い店を探しましょう。必ずありますから」
「高まりますなっ」
期待と共に背筋迄ピシッと高まる宰相殿であった。
「カケル殿、頼みますぞ」
昨夜はお楽しみだった宰相が、ご機嫌な様子で出発の音頭を取ると、俺は皆に目を閉じるよう指示を出し、城の前へと《転移》した。
「な!?」「待てっ宰相様のホルスト車だ」
流石に城の衛兵は直ぐ気付く。車の外には知った姿の鎧が居るし、ハイントスの衛兵と同じ事したら首が飛ぶだろう。此方が何か言う前に鉄扉を開けて、誰何も無く中に入る事が出来た。エントランスに着くと騎士達二人を残し、メイドと騎士達は解散となった。俺と宰相は謁見の間へ。待合室に入る事も無かった。
「戻ったか」
「ははっ」
宰相が王に報告する間、俺は暇である。椅子が欲しいが言わないと出て来ないし、言うタイミングを外してしまった。
「では冒険者ギルドのマスターのみの処分とな?」
「ははっ。使いの者はザットルマン伯爵に委ねまして御座います」
「分かった。では、そのように致せ。カケル殿にも面倒を掛けたな」
「只働きだが、飲み代奢ってくれたからそれを報酬とさせてもらうよ」
「貴殿がそう申すのであれば、感謝の言葉を送ろう」
王より感謝を述べられて、退席の運びとなる。ハイントス、良い街だったな。
このまま帰ると正座させられそうなので、土産を取りにサライプラマへ《転移》した。
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*この小説は「小説家になろう」で投稿されている『二度も親を失った俺は、今日も最強を目指す』とほぼ同じ物です。こちらは不定期投稿になりますが、基本的に「小説家になろう」で投稿された部分まで投稿する予定です。
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