上 下
1,494 / 1,519

特殊飲食店街

しおりを挟む


 ザットルマン伯爵領の領都はザットルマン、では無くハイントスと言うそうで、拝領前の街の名をそのまま使っているのだと。

「名より実。実直な男ではあるが性根が少々素直過ぎますな」

「運も無いな。良い人に良い人だけが集まれば良いのにね。異を唱える者を傍に置くのが良いのかな。家は誰彼も無く進言してくれるよ」

「カケル殿は良い配下をお持ちの様で」

「龍は配下じゃ無いから一纏めにされると困るがね」

最初はどう処理してやろうと思っていたが、伯爵も騙されていた口である事を知り、話をして国に必要な人物と判断し、宰相共々口頭注意のみの処分と意見が一致したのだった。

「それは失言を。して、何処へ参られるおつもりか」

ハイントスの城下街はダンジョン景気で清濁併せ呑む感じの賑わいを見せている。日が沈み、庶民は家に閉じ篭もる時間にも関わらず、兵士や冒険者に平服の者迄、明かりに集まる蛾の如く、川沿いの通りを練り歩いていた。川を挟んで向かい合う二本の通りが日本で言う所の赤線、特殊飲食店街だと客引きの男に聞いた。

宰相の言う何処とは、勿論お姉ちゃんの居るお店の事である。多少酒を飲んでから、好みの女子おなごと…ぐふふ。との所望である。金はたんまり持って来たと言うので、前世ではした事ない接待をする。

「お貴族様っ、良い子いますぜ?」「お大臣、ソイツんトコよりウチのが綺麗所が揃ってますぜ」

「ふふ。大臣と来たか」

「王様や宰相様は一人しか居りませんからな。沢山居る大臣が平民の呼べる最高位なのですよ」

「成程成程」

「三十路過ぎの獣人は居るか?」

「「は?」」

「大臣殿のご所望だ。俺も性欲強いタイプが好きだけど」

「ほ、ホントに大臣っ?」

「お前等の売り言葉に乗っただけだよ。貴族様なのはホントだけどな。居なければ他を当るぞ。系列店に声掛けて来い」

「へ、へいっ」「探して来やすっ」

客引きの二人はすっ飛んでった。近くに居て声を掛けなかった奴等も足早に何処かへ消えてった。

「手馴れたモノですな」

「貴族連れだからだよ。立ちんぼするのも詰まらんし、歩いて女見物でもしようか」

「お供しますぞ」

川の反対側には店が並び、明るい店の壁に開けられたスリットからは中の様子が窺える。普通の飲み屋が一番明るく見え、嬢が酌をするの店は少し暗い。一番暗い店からは…。

「ほうほう…」

「《暗視》ですかな?」

「この店は嬢と酒を飲みながら、本番以外を行えるようです」

「ほう!して、獣人は如何に!?」

「良い店を探しましょう。必ずありますから」

「高まりますなっ」

期待と共に背筋迄ピシッと高まる宰相殿であった。


「カケル殿、頼みますぞ」

 昨夜はお楽しみだった宰相が、ご機嫌な様子で出発の音頭を取ると、俺は皆に目を閉じるよう指示を出し、城の前へと《転移》した。

「な!?」「待てっ宰相様のホルスト車だ」

流石に城の衛兵は直ぐ気付く。車の外には知った姿の鎧が居るし、ハイントスの衛兵と同じ事したら首が飛ぶだろう。此方が何か言う前に鉄扉を開けて、誰何も無く中に入る事が出来た。エントランスに着くと騎士達二人を残し、メイドと騎士達は解散となった。俺と宰相は謁見の間へ。待合室に入る事も無かった。

「戻ったか」

「ははっ」

宰相が王に報告する間、俺は暇である。椅子が欲しいが言わないと出て来ないし、言うタイミングを外してしまった。

「では冒険者ギルドのマスターのみの処分とな?」

「ははっ。使いの者はザットルマン伯爵に委ねまして御座います」

「分かった。では、そのように致せ。カケル殿にも面倒を掛けたな」

「只働きだが、飲み代奢ってくれたからそれを報酬とさせてもらうよ」

「貴殿がそう申すのであれば、感謝の言葉を送ろう」

王より感謝を述べられて、退席の運びとなる。ハイントス、良い街だったな。
このまま帰ると正座させられそうなので、土産を取りにサライプラマへ《転移》した。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

欠損奴隷を治して高値で売りつけよう!破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公が転生したのは、ゲームに出てくる噛ませ犬の悪役奴隷商人だった!このままだと破滅フラグしかないから、奴隷に反乱されて八つ裂きにされてしまう! そうだ!子供の今から回復魔法を練習して極めておけば、自分がやられたとき自分で治せるのでは?しかも奴隷にも媚びを売れるから一石二鳥だね! なんか自分が助かるために奴隷治してるだけで感謝されるんだけどなんで!? 欠損奴隷を安く買って高値で売りつけてたらむしろ感謝されるんだけどどういうことなんだろうか!? え!?主人公は光の勇者!?あ、俺が先に治癒魔法で回復しておきました!いや、スマン。 ※この作品は現実の奴隷制を肯定する意図はありません なろう日間週間月間1位 カクヨムブクマ14000 カクヨム週間3位 他サイトにも掲載

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

処理中です...