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耳が長くなる

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 お椀を出す事で、バシットは此処を折り返しにすると決めたようだ。他の者はと言うと、バシットがお椀を出すのを見て諦めたようだ。ゴネて戻っても十階分なら誤差と見たのだろう。ペース配分が出来る此奴等はやはり優秀な冒険者だと思う。俺も鍋を出す。

「カケル、交代だ」

夜警の交代を告げるギルマスに起こされ、俺は身を起こす。

「目が乾いてシパシパするな」

メットを外すと魔法の水を玉にして顔を突っ込む。当たる瞬間ぽよんとしておっぱ感あり。

「水魔法も使えたのか」

「生活魔法の範囲でな」

ギルマスはまだ起きてたようで、水魔法を使える事に関心を示す。

「人妻乙女を助けたのだろ?」

「…まあな」

「何故、此処迄?」

ダールッターは確信して質問を投げ掛けている。答えてやるのが筋だろう。

「精神攻撃に耐えられる人種が居ないからだよ」

「だが、君は助けられた」

「人妻乙女のお陰でな」

「どう言う事だい?」

「あの五人の内、四人は真のドラゴンが人化したモノだ」

「…初耳だね。耳が長くなるよ」

「何だいその格言は。…まあ、ドラゴンが人の子と幼いドラゴンを守る為、力を使った結果、動けなくなった訳だ」

「それを助けたのか」

「それと、精霊が居なければ遭難現場迄行く事も出来無かったよ。対価として目玉一つ、使えなくなったがね」

「目玉…え?魔道具?うわ…埋め込んだのかい?」

素顔から覗く俺の左目を見てドン引きしとる。魔力視で見たからだろうな。

「ドラゴンの母にやってもらった。怖かったぞ?」

「ふぅ…。人に化けるドラゴンなんて、物語の中だけかと思っていたよ…、けど、まだ欲しい答えは聞けてないな」

「幼い娘を虐められたドラゴンが激オコでな。街を凹みにする所だったのを止めた結果だ」

「街…よりは、マシ…なのか」

「俺はそう思ってる」

『そんな事しませぇ~ん』

「うっ」

「ふむ。入場記録は一回しか無かっ…どうした?」

「ドラゴンからの思念が届いた。あまり身内の恥を晒すな、とな」

「これ以上は君の命が危うい、か。此処は退こう。だが、復興の手伝いはして欲しい。この街は私のような者でも隔て無く生かしてくれる」

「仕方無い、か」

「そろそろ寝るよ」

仕方無いな。俺も此処の女達好きだし。


 起きて飯を食い、今日から折り返し。心の憂いが晴れたのか、ダールッターはにこやかだ。逆に俺は悩ましいぜ。
帰りは敵も殆ど居らず、掘られた穴を進むだけなので進行が早い。疲れ易い魔法職の休憩を挟みながらも七十階迄上がり、翌日は二十五階、三日目の午後にして地上に出る事が出来た。

「報酬は責任持って振り込むよ。報告書は部屋で書けるからね。皆、お疲れ様」

本来ならギルドに戻って報告するのだが、ギルマスが直に見て来たのだからその必要が無い訳で、冒険者達はダンジョン入口にて解散となった。そして男達は風呂へ向かう。俺は先に宿へ向かうと断って男達と別れた。《洗浄》すれば一瞬だしな。

「来てくれると信じていたよ」

「来ないと指名手配にするつもりだったろ」

「ハハ、まさか」

嘘吐きは《洗浄》だ。風呂にも入らずギルマス室に篭った男の匂いを嗅ぎたくない。窓も開ける。

「びっくりしたが、成程、キレイになった。君は本当に多彩だね」

「取り敢えず、復興計画は後で書面か図面で提出する。それで良いか?」

「街のお歴々が納得出来るなら、ね」

「オーバーフローしなくなっただけでも喜んで欲しいモンだが」

「その分恩恵もあったんだよ。ドロップ品や入場料の収益、街に流れる金もね」

「最近の買取目録見せてくれる?」

「守秘義務なんだが…」

「その額を目標にしないと何作ってもダメ出しされそうでな」

「一番はダンジョンに戻す事なんだが、流石に無理だろうしね」

「魔素を流し込めば魔物は湧くが、ブフリムやらミミッキュ、後はゲルの仲間だしな…あ」

「戻せる宛があるのかい?」

ある、には、ある。










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