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こっちにおいで

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「よう兄さん、羽振り良さそうなモンぶら下げて。もう店は決まったのかい?まだならウチがオススメだよ」

 客引きの流れるような売り文句に立ち止まると、餌に群がる獣のように客引き達が集まった。

「お前、店はソコか?」

「へへっ、良い店でしょう?」

「お前のは?」

「ウチはあの、赤く光るランタンが目印でさ」

客引き共の店を聞き、中を《感知》で見る。

「此処は女一人きりか。で、そっちは二人。その奥のも一人。路地の中のは三人か。全員病気持ちじゃあ客も付かんよな」

「へへっ、それだけ売れてるって事でさ」

「そうだぜ。それにウチは一人じゃあ無えですぜ」

「たまたま非番ってだけさあ。呼べばいっくらでも来っから」

「早く河岸を変えた方が良いな。此処のダンジョン、死んでるから」

「兄さん、この街はダンジョン潜る為に来たんだろ?稼げなかったからってクヨクヨすんなって」

「パーッと行きやしょうや」

「…パーッと、ねぇ」

「そうそう、パーッとパーッと」

「お前等の囲ってる女、全員連れて来い。休んでる奴、立ちんぼも、全員だ」

「「「…はい」」」

「それと場所も用意しろ。広い場所だ」

「「「…はい」」」

客引き共に《洗脳》を施し解散させる。億劫だが待つか…。椅子が欲しいぜ。

「兄さん、あンたかい。ウチ等の女ぁ、かっ攫おうって野郎は」

暫く待って、女と一緒に男も来た。無駄に筋肉を付けた用心棒と、無駄に贅肉を付けた店長?男もそうだが女もニヤニヤしてるのは、娯楽に飢えてるのだろうか。

「俺に預けりゃ女達の病気を治してやんぞ?お前等のは治療院で治せ」

「冒険者だからって何でも出来ると思うなや」

「なら、試してやろうか」

筋肉ダルマを指でちょいちょい、こっちにおいでとしてやると、ソイツの首をスパッとした。血を流し過ぎると回復に時間が掛かるので、血は大事に《収納》しておく。
少量の血を流し転がったダルマの首にギャラリー達は固まった。

「コレを治せば俺の力が分かるよな?」

「て、てめぇ…」

「治療費はサービスだ。見とけよ見とけよ~」

《収納》の平面で血の出てない胴体から《収納》を外し、空かさず《治癒》を掛ける。ピューっと少し零れてしまったがそのくらいは問題無い。肉がモリモリ盛り上がり、ダルマの形になって行く。凡そ三リットで形になったら、《収納》されてる血を心臓に送り込んだ。

「良し。どや?」

「だ、旦那…」

「お…俺の、首が…何で、ソコに…」

「あンた!歯があるよっあンたぁ!」

歯の治療はサービスじゃ無かったんだが、治ってしまったモノは仕方無いな。ボディの付いたダルマに群がる女達は肌がキレイだとか歯が生えてるだとかと楽しんでもらえたみたいだ。

「三日後に依頼があるんでな。後二日。治して欲しい女は俺んトコ来たら治してやる。首を落としたりはしないから安心しろ。後金も要らん」

「オーナー、あたし、やるよ」「アタイもっ、歯が生えるなら何でもすんよ!?」

「店長さん、ダメだなんて言わないでね」「このままじゃ、稼げないしさ」

女達のお願いに、店長共は何も言えない。断れば飛んでしまい兼ねん勢いだからだ。

「広い場所は何処だ?案内しろ」

「…はい」

客引きの一人に先導させ、ゾロゾロとその場所へ向かう。そこは倉庫。嘗ては荷物で一杯であっただろうその場所は、今では片隅に積まれる程度になっていた。

「今日から二日、此処に住むから知り合い誘って来てくれ」

女達の元気な返事を聞いて見送ると、残るは男だらけ。

「兄さん、何が目的だい…」

脂肪ダルマの一人が臭い口を開く。

「目的?分かるだろ?」

皆の視線が一点に向かう。見られるなら女の子が良いな。視線が釘付けの男共は言葉の意味を理解してないみたいだ。

「俺はバルタリンドで風呂屋やってんだ。バルタリンドには近づかんでくれ。今回の治療は挨拶とお願いって所だな」

店長共は頭を捻る。





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