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義理を通す

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 詫びを入れた二人には丁寧に接する。世の理だ。

「お詫び、聞き入れましょう。ケーンケーン殿は何処かのご令嬢で?」

「え、あの…」

「私とケーンケーン以外は皆、元令嬢だ。ソイツは当家の子飼いだがな」

そう言ってドヤ顔するルジェ・バンドン。しかしお前には聞いてない。

「努力なさったのですね。感服します」

華麗にスルーしケーンケーンを褒めると、山羊っぽい顔に紅が差した。

「ハリシュ様、獣人好きとは、どうかしているのでは無いか?」

「それは当人の嗜好だ。仕事には関係あるまい」

「差別は良くない。それに俺は角のある女性には優しく接すると決めてんだ。妻も妾も、角が生えると怖いからな」

「女の尻に敷かれるか。全くお笑いだな」

「ハハハハハ」

「何が可笑しいっ」

俺が笑うと何故か怒るバンドン。キレ芸かよ。

「お前が笑う所だと言ったから笑っただけだ。取り敢えず話するなら座ろうぜ?」

「そうだな。皆、席へ着くのだ」

俺が座ると右からケーンケーン、カルーセル、バンドン、ハリシュ。左隣には何故かタックが座った…ああそうか。そう言う事か。

「タックは真面目なんだな」

「ど、どうした急に」

「直ぐに依頼に出るのでは無いのだろ?良かったら俺がやってる風呂屋に来てくれ」

「石鹸なんて使ったら敵にバレるだろうが…」

「大丈夫だ。後でハリシュに聞いてみれ」

「うむ、それはまた後程、な。では…」

訝し顔のタックに割り込んで、ハリシュが音頭を取った。

 依頼の内容を聞いて頭を抱える。依頼内容の前に、先ずこの依頼はギルドを通してない。直接依頼が無い事は無い。俺だってディカッカの依頼受けてたしな。だがそれは報酬面等で揉めたりする訳で、折り合い付かぬ間柄に、仲良くしろとか言われたりするのだ。反故に出来なきゃ笑うしかないよな。
で、依頼の内容だが、ハイネルマール絡みであった。

「密航船の護衛だろ?そんなに食い扶持足りないのか?」

「何を馬鹿な事を。義によって請けたに決まっているだろう」

ドヤ顔バンドンは内外問わずガワだけなのな。

「その心意気や良し。だが、俺の知る限りあの海峡封鎖の経緯を教えといてやるよ。それを聞いて義理を通すのなら、止めはしない」

俺はバルタリンド南征ルートが封鎖になった経緯を説明した。そして今回の依頼がギルドを通さなかった訳も。

「ドラゴンが統べる国…」

「国と言うか、ウラシュ島全土だな」

呟いて俯くケーンケーンの横顔は髭は無いものの殆ど山羊だ。

「その説明を信じると仮定して、キネイアッセンに乗り込んだら私達の命は無いよね」

「軍港には無人で飛べる騎竜も居るし、話は聞いてくれそうも無いな」

長台詞を吐いたタックが俺の水を飲む。俺のなのに…。

「これ水じゃん」

「お代わりもあるぞ?」

水の棒からジョロジョロ注ぐ。無詠唱魔法と勘違いされた。

「聞いたからには行かないとは言えんよな?」

ドヤ顔のバンドンが一番問題だ。

「問題山積みだけど、本当に請けるのか?もう受けちゃってるんだろうけどさぁ」

「問題等無いっ」

「お前、その鎧で泳げんの?落ちたら死ぞ?」

「落ちなければどうと「冒険者は常に最悪を想定して動くモノだ。それに」」

「山積みと言ったな。他に何がある」

「金属鎧の件を抜いて二点…三点か。ルート封鎖は国同士が決めた事。それを破ればハイネルマールは国賊だ。それに加担するのか。これが先ず一点。次に、ドラゴンの統べる国、ミネストパレスの女王は俺の妾で、ウラシュ島を盗り合ってたキネイアッセンの旧帝国、現カケラントの国王は俺だ。俺がアフマクシア王を退位させて迄結ばせた決め事を破るとなると、三国からのお尋ね者になる。それでも逆賊に加担するのか。以上…何点だ?」

五人固まってしまった。

「王…、とてもそんな風には見えないが」

「成り上がりなんだよ。偉そうでなくて悪かったな」

バンドンの、嫌味で無く、素の意見に反応してしまった。

「カケル殿、私達はどうしたら良いのか…」

報連相出来るハリシュは良い子だ。






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