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バッセン
しおりを挟むたわわの柔らかさと良い匂いを残し、リュネは帰って行った。俺は大きく深呼吸して仰向けになる。
先日の事もあり、苛々が溜まっている。学生時分に培った忍耐力は持って五時間。社会に出て十二時間程に伸びた。今回はそれを少し超えてしまったのだろう、と自分なりに分析する。
「バッセン…」
心の声が漏れる。拘束時間と共に増したストレスを発散するのはバッセンであった。それも一時期の話ではあるのだが。
掌に収まり良い球を雑木で作り、存在しない縫い目に指を掛け、カーブだシュートだ握りを変える。スライダーは投げて曲がれば何でもスライダーだ。曲がらなくてもスライダーだ。
胡座になり、バットを取り出す。雑木で作った木目の無い木製バットは、握ると手の汗を吸ってグリップ力を増す。
立ち上がり、両手で構えてゆっくりとスイング…。そこそこの広さのある小型UFOの中でも思い切り振り回すのは少し危ない。滑り止めのロジンが無くてはすっぽ抜けた時大変だからな。部屋の中でロジン使うのもアレだが。
ハッチを開けて外に出る。下には向かわず上へ。小型UFOの屋根に降りる。此処なら振り回して飛んでったとしても止められる。仮想ピッチャーを当時バッピだった後輩に決めて構えると、仮想ボールに狙いを定めて振り抜いた。勿論当たった感は無い。だがしっかり当てていると感じる。余り使わないが《逃げる》と同時に常時発動となる《空想》の良い所だ。疲れ知らずの仮想バッピの投球を、スキル増し増しの俺は次々と二塁打三塁打にして行く。因みに股間のバットはデッドボール、基、デッドバットしそうだったのでズボンに仕舞われた。
体が温まると仮想バッピとの対戦を終え、そして良さげな場所に球を浮かせる。ティーを雑木で作るのは壊しそうなので止めといた。が、作っておけばと後悔した。
何度か球に芯を合わせ、思い切り振り抜かれたバットは木の球を芯に捉え、バキンッと甲高い音とグリップ。そして両掌の痺れを残し砕け散った。
「て…、手がぁ……」
同じ硬さなら球体の方が強いよな…。そして指示しない浮遊物は動かない。正確には星を軸にして動いてはいるのだが、今そんな事考えてる余裕は無い。回復を掛けて痺れを治す。
「ぐひ…、横着出来んな」
「カケルー」「カケルーどしたのー?」
甲高い爆発音を聞いて、ネーヴェとカラクレナイが飛んで来た。子供を抱っこしてる辺り、お散歩中だったようだ。
「バットが砕けちゃったんだ」
「木だし、おれる」「木なの」
「そっちはお散歩か?」
「そなの」「ん」
雑木を取り出して練り、理想の形を作り固める。
「俺はもう少しコレを振るから、お散歩の続きしておいで」
「見てちゃめ?」「めなの?」
「また砕けたら破片が飛んで危ないからね」
「ん。あとで」「…分かったの」
ネーヴェの言葉に従ったカラクレナイが名残惜し気に地上へ戻って行く。
バッティングティー。形はともかく素材をどうするか。取り敢えず雑木で形は出来た。問題は先端で、バットをぶつけると壊してしまう。
「壊しても良いや」
壊れるのは嫌だが、壊す前提のパーツを作れば良いのだ。ティーと球の間に筒状の粘土を挟む。これで良し。バットを添えて高さを合わせ、海に向かって思い切り振り抜いた。
パカンッ
ライナー制の当たりが海へと落ちて行く。水平振りならこんなモンだ。だが手に響く打球感はスキルよりリアルで、楽しい。
粘土を付け、球を乗せ、打つ。
粘土を付け、球を乗せ、打つ。
粘土を付け、球を乗せ、打つ。
その内面倒になり、手でトスして打つようになった。打球が上がる感覚が堪らない。何処迄飛ばせばホームランなのか。海の彼方へ球を飛ばし、雑木を浪費してしまった。だが、後悔は無い。
「ただいま…」
「「「お帰りなさいませカケル様!」」」「「「お帰りなさい!」」ませっ」「「「おかえり」なの!」なさぁ~い」「戻ったか」「信じていたぞ」
…姦しいな、全く。
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