上 下
1,435 / 1,519

具が多い

しおりを挟む


 俺の背に立つ店長は俺が振り向くのを待って声を掛けようとしているが、俺は今飯を食っている。ソーサーを齧り、スープを啜る。

「あ、あの、お客様」

「店主、失礼ですよ」

店長の言葉に割って入ったのはアルアだ。

「え、お客様は?」

「彼の方の妻、アルアイア・メルユーチヒ・カリバ・シュワイトリンゲンです」

「メルユーチヒ…、まさか…」

「偽れば首の飛ぶ名前ですよ?ねえ、お兄様」

「止めてよお忍びなんだからー」

「お、お兄様…あっ」

気付いて平伏したような音がする。

「こ、これはっ、当宿へお越し下さいまして真に有り難き幸せに御座いますっ」

「私の夫と、大事なお連れが部屋を用意されなかったと聞きましたが、真ですか?」

「そんなっ。格は全く及びませんが、部屋に空きは御座います」

「店長~、格はどうでも良いんだよね~」

「キキラ?キキラじゃないか」

ノシノシズルズル音がする。

「大部屋十五万って言われたそうだよ?」

「誰に!?」

「コイツ」

「ムラディア!?」

「あたし悪くないし。其奴金持って無さそうだったし。女なんか連れ込んでさ、連れ込み宿なら外でヤれば良いんだし」

「ムラ…お前…。貴族様の旦那だぞ…」

「知らねーし」

「あンた、死ぬ所だったよ?」

「はあ?死ぬ訳」

「おう、冒険者舐めんなよ?」

ワーリンが威嚇音を上げながら低い声を出す。これにはムラディアもビビってる様子。酒飲み過ぎて腹減ってるな。

「ぼ、冒険者が「すんませーん、キノコスープくださーい」」

「すっ、直ぐにお持ちします」

「お金これな。それと、早く連れ達にも食べさせてやってくれ。育ち盛りだからな」

「ははーっ、皆早くお持ちするんだ!」

「金あるんならあるって言えば良いんだし…」

「十人部屋、幾らだ?」

「ははっ、一泊五万ヤンと、なっております」

「十五万と言われたが?」

「金持ちならそんくらい払えし」

「お前さん、オレ腹減って気が短くなってるよ。此奴ボコって良いかな?」

「アタシもー」

「ボコボコで済むんなら儲けもんだな。埃立てるなよー」

「え、や、やめ」

それっきり、ムラディアの声は聞こえなくなった。ドカバキと二発、音がして、二人は席に着いたようだ。

「フッフッ…全く、信じらんないねっ」

「この人怒らせたら山が消えるよ!?」

「そんな…」

「知り合いの故郷だし、友達も出来たから更地にはしないが、寝る前や飯時に人死にを見たく無いんだよ。悪意持って欺いて来るのが分かる三人に吹っ掛けたのが悪かったな」

「な、何卒、お許しを」

「許すも何も怒って無いよ。俺が怒ると其奴と、多分お前は消える。お前はとばっちりだけど、責任者だからな」

「そこを、そこをどうかっ、お泊まりの、お食事代もお返ししますっ」

「金じゃ無いんだよな」

オドオドしたウェイトレスが持って来たキノコスープを啜る。キノコプリプリで心做しか具が多い。お泊まり客にも食事が並んだ。皆も食え食え。

「あの、では、どうすれば…」

「街全体の治安、良くしてくれや」

「それは、衛兵の仕事で…」

「盗まなきゃ生きられないモンに真っ当な仕事と報酬を出せるようにしてくれや」

「……」

「従業員の動向を把握出来無い者ではどうかと思うが…明日は我が身、だぞ」

言い終えて、女が消える。横目で見ていた店長は小さく悲鳴を上げて俺の提案を飲んだ。

 店長を下がらせて、ソロソロと人が増えて来る。どうやら店内の雰囲気を察して入れなかったようだ。

「カケルー」「カケルさぁ~ん」

「あれ?何で来たんだ?」

リュネとネーヴェが客に混ざってやって来た。

「私、依頼ちゅー」「なので連れて来ましたぁ」

確かそうだったな。ネーヴェにとっては貴重なお小遣い。無しには出来んよな。ネーヴェとリュネが合流し、更に料理を追加して、たっぷり食べたら宿を出て、ギルドで処理をし城へと向かう。

「お帰りなさいませ陛下、皆々様。ご視察の成果は如何で御座いましたでしょうか。皆々様に…」

ブルランさんの挨拶が長い。







しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

RiCE CAkE ODySSEy

心絵マシテ
ファンタジー
月舘萌知には、決して誰にも知られてならない秘密がある。 それは、魔術師の家系生まれであることと魔力を有する身でありながらも魔術師としての才覚がまったくないという、ちょっぴり残念な秘密。 特別な事情もあいまって学生生活という日常すらどこか危うく、周囲との交友関係を上手くきずけない。 そんな日々を悶々と過ごす彼女だが、ある事がきっかけで窮地に立たされてしまう。 間一髪のところで救ってくれたのは、現役の学生アイドルであり憧れのクラスメイト、小鳩篠。 そのことで夢見心地になる萌知に篠は自身の正体を打ち明かす。 【魔道具の天秤を使い、この世界の裏に存在する隠世に行って欲しい】 そう、仄めかす篠に萌知は首を横に振るう。 しかし、一度動きだした運命の輪は止まらず、篠を守ろうとした彼女は凶弾に倒れてしまう。 起動した天秤の力により隠世に飛ばされ、記憶の大半を失ってしまった萌知。 右も左も分からない絶望的な状況化であるも突如、魔法の開花に至る。 魔術師としてではなく魔導士としての覚醒。 記憶と帰路を探す為、少女の旅程冒険譚が今、開幕する。

アルゴノートのおんがえし

朝食ダンゴ
ファンタジー
『完結済!』【続編製作中!】  『アルゴノート』  そう呼ばれる者達が台頭し始めたのは、半世紀以上前のことである。  元来アルゴノートとは、自然や古代遺跡、ダンジョンと呼ばれる迷宮で採集や狩猟を行う者達の総称である。  彼らを侵略戦争の尖兵として登用したロードルシアは、その勢力を急速に拡大。  二度に渡る大侵略を経て、ロードルシアは大陸に覇を唱える一大帝国となった。  かつて英雄として名を馳せたアルゴノート。その名が持つ価値は、いつしか劣化の一途辿ることになる。  時は、記念すべき帝国歴五十年の佳節。  アルゴノートは、今や荒くれ者の代名詞と成り下がっていた。 『アルゴノート』の少年セスは、ひょんなことから貴族令嬢シルキィの護衛任務を引き受けることに。  典型的な貴族の例に漏れず大のアルゴノート嫌いであるシルキィはセスを邪険に扱うが、そんな彼女をセスは命懸けで守る決意をする。  シルキィのメイド、ティアを伴い帝都を目指す一行は、その道中で国家を巻き込んだ陰謀に巻き込まれてしまう。  セスとシルキィに秘められた過去。  歴史の闇に葬られた亡国の怨恨。  容赦なく襲いかかる戦火。  ーー苦難に立ち向かえ。生きることは、戦いだ。  それぞれの運命が絡み合う本格派ファンタジー開幕。  苦難のなかには生きる人にこそ読んで頂きたい一作。  ○表紙イラスト:119 様  ※本作は他サイトにも投稿しております。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

第三王子に転生したけど、その国は滅亡直後だった

秋空碧
ファンタジー
人格の九割は、脳によって形作られているという。だが、裏を返せば、残りの一割は肉体とは別に存在することになる この世界に輪廻転生があるとして、人が前世の記憶を持っていないのは――

異世界帰りの【S級テイマー】、学校で噂の美少女達が全員【人外】だと気付く

虎戸リア
ファンタジー
過去のトラウマで女性が苦手となった陰キャ男子――石瀬一里<せきせ・いちり>、高校二年生。 彼はひょんな事から異世界に転移し、ビーストテイマーの≪ギフト≫を女神から授かった。そして勇者パーティに同行し、長い旅の末、魔王を討ち滅ぼしたのだ。 現代日本に戻ってきた一里は、憂鬱になりながらも再び高校生活を送りはじめたのだが……S級テイマーであった彼はとある事に気付いてしまう。 転校生でオタクに厳しい系ギャルな犬崎紫苑<けんざきしおん>も、 後輩で陰キャなのを小馬鹿にしてくる稲荷川咲妃<いなりがわさき>も、 幼馴染みでいつも上から目線の山月琥乃美<さんげつこのみ>も、 そして男性全てを見下す生徒会長の竜韻寺レイラ<りゅういんじれいら>も、 皆、人外である事に――。 これは対人は苦手だが人外の扱いはS級の、陰キャとそれを取り巻く人外美少女達の物語だ。 ・ハーレム ・ハッピーエンド ・微シリアス *主人公がテイムなどのスキルで、ヒロインを洗脳、服従させるといった展開や描写は一切ありません。ご安心を。 *ヒロイン達は基本的に、みんな最初は感じ悪いです() カクヨム、なろうにも投稿しております

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...