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ゴミ拾い
しおりを挟む「遊んでないで依頼でも受けたらどうですか?シンクちゃんも皮鎧ぺたぺたしないの。ばっちっちーなのよ?」
「あ~い」「ばっちくないのよ~?」
「パパ、いってら」
弾ける営業スマイルに目眩がし、行かざるを得ない感情に支配される。まさか精神魔法か!?うちのこすごい。掌をシッシと振られて掲示板へと来たものの、特に俺がやれる仕事は無い。ABランクの依頼が無いのだ。これじゃあお仕事出来無いな~っと振り向くと、娘のジト目が飛んで来る。ランク下でもやんなきゃダメ?ダメですか、そうですか。
「では街の清掃よろしくお願いします」「がんばえー」
頑張る所存。チョロいパパである。
清掃依頼は門前の駐車場で詳細を聞き、指示された場所の清掃をする依頼だそうで、ギルドから、門を挟んで向かい側、衛兵詰所の奥にある広いスペースへと向かった。此処からだと寝具店が目と鼻の先で、カケリウムに飢えた獣の気配が分かる。これが謎感知か。とりまスルー。
「いらっしゃい。泊まりかね?」
「否、清掃依頼で来たんだが」
「そんな身形でやる仕事かね。それにあンた、裏の子の旦那だろ」
流石地もピー身バレが早い。スレンダーな爺さんは話をしつつもカウンター下から丸められた獣皮紙を取り出して、それをカウンターに広げた。
「金は売る程あるんだが、娘に格好良い所見せたくてね」
「安売りするなら買いに行くよ。今回は南の区画が一パーティで手が足りてないだろうから、そこに行っとくれ」
「ゴミは此処に持って来れば良いのか?」
「手ぶらで戻ると女房が泣くよ?壁際のゴミ溜めに職員が居るから、ソコに持ってくんだ」
「敢えて聞くが、ゴミの定義を教えてくれ。飲んだくれや巾着切りはゴミに入るのか?」
「そりゃあ衛兵んトコだな。落ち葉や落ち糞、雑草なんかがゴミだ」
落ち糞は拾いたくないが偶に落ちてるんだよな。多分野獣のだろうけど。話が終わり、追い出され、南の区画を目指して歩く。南東南西に決まった区切りが無いのでその辺が稼ぎ場だろうと予想して、取り敢えず歩いて向かう。まだ南区画じゃないが、落ちてる物は拾って行った。
バルタリンド所属の冒険者な俺ではあるが、要所にしか行かないもんで、その他の場所はあまり詳しくない。あまりでは無いな、全然だ。賃貸か借家を探してる時に一度来た事がある程度の場所で、フラフラと路地に入ってはゴミを拾ってく。
南側に壁を背負い、薄暗い路地を一人で歩いてたりすると、何処からとも無くぐへへ…と来る物なのだが、治安の良くなったバルタリンドではまずお目に掛かれない。街に残った傭兵達にリュネドラが信仰されているからである。それでも時折現れる馬鹿は、その殆どがダンジョンが発見された後で街に来た奴だ。
目の前で街娘をナンパする冒険者もその口だろうか。六人掛かりで一人を囲んで、碌な事せんな。建物の三階から俺を見て手を振る者が見える。手を挙げて応え、六人の馬鹿を《威圧》した。
「あがっ」「ぎひっ」「ながっ、なっ」
「もう大丈夫だから行って良いぞ」
動きを封じられた馬鹿の中に立つ娘に声を掛けると、四つん這いになって這い出て来た。
「あ、ありがと」
「ゴミ拾いの序だよ」
「流石、カケルの旦那だよ!」
「カケル様?」「何処さ!?」「下だよ下ぁ」
三階で手を振ってた女が俺の名を出すと、周りの建物の窓から女達が顔を出す。よく見りゃ施設の常連じゃないか。こんな所に住んでたのか。
ドアを開けて一人が寄って来ると、他もわらわら集まって来る。
「アーイちゃん、良かったよぉ」「カケル様が来てくれて、本当に良かった」
アーイちゃんはそのまま腰が抜けたようでその場で泣き崩れてしまったが、主婦達に任せておけば良いだろう。
「所で旦那、こんな所に何の用だい?」
俺の元に寄って来た主婦は俺の手を取り聞いて来る。
「清掃依頼で指示されたのがこの辺りなんだ」
女の手をアイツに添えると撫で撫でしてくれたよ。
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