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乙女の顔
しおりを挟む昼の部が終わって島に戻り、リームを見付けて話をする。
「皮を剥いで放り投げておけば勝手に食らうだろう」
「トカゲの生態に明るくなくてな。弱り過ぎた餌は食べなかったりとか、しないのか?」
「大きいモノを選んで食らっては居るな。死んで野晒になった餌も見当たらんし、生き死に関係無く食うのでは無いか?」
「試してみて、問題無ければそれで行こう。食いが悪かったら回復するか、家の飯にするしか無いな」
「ではこれから向かうか」
リームの一声で食堂を出ると、空に上がって光を放ち龍の姿に戻った。
「早く。妹が来てしまう」
此処で龍化したら気付くだろ?と思ったが、リュネはサミイやカラクレナイを連れてママ上殿の所に行ってるんだって。ササッと背中に乗り込んで、一目散に飛び出した。
「何をはしゃいで居る、愚妹よ」
海を越え、ウラシュ島に上がった辺りでミーネに見付かった。そりゃあそうだよな。ミネストパレスの女王だし。龍の目逸らしは首毎曲げるのな。
「餌トカゲの皮が欲しくなってな。試しに皮を剥いで放置しても食べてくれるのか。その辺りを調べに行くんだ」
「ふむ。行くのは良いが、人化して行け。トカゲが逃げてしまうだろ」
「う、うむ。すまぬ、主様」
「問題無い。それよりズボンの股が傷になってないか見てくれない?」
「暫し待て……良し」
人化したリームが俺の股を広げてカナブン色のズボンを見てくれる。
「我の背は乗り心地が良いからな。傷も付いては無さそうだ」
「旦那様よ、鞍を作るからもう少しだけ待つのだ。三リットで作るから」
「帰りにまた寄るからゆっくり作ってくれ」
「乗ってくれるのか?」
「リュネに妬まれるから秘密にしてくれるならな」
「分かった」
背中に乗るってだけで何故乙女の顔になるのか。人の子の俺には解らない感覚だ。
トカゲの餌場迄は俺の《転移》で移動する。リームの気配を感じたか、トカゲ達は巣であるアナアキ山の近くで大人しくしている。一方、餌トカゲはと言うと、塒の穴に隠れた小さい個体群以外は普通に草を食っていた。
「大きくなる程相手との力関係が計れなくなる…の、かな?」
「もしかしたら、アレ等は雄かも知れんな。妹の受け売りだが、アレは雌だけでも卵を産み、子を成せると言うのだ」
成程。《感知》で診ると雄なのが判る。雌も少数混じって居るが殆どが雄だ。
「単一生殖か。不思議だよな」
「知っていたのか主殿」
「先日迄居た国の竜人族がそうだったんだ」
「それで妹が妬いていたのか。アレは蜥蜴人の派生でしか無い。何方もトカゲだ」
「へ~」
蜥蜴人は正確には人種では無く、ダンジョンに居るトカゲの事だ。魔力臓器に魔石が無く、会話が成立し、肌がより人種に近いモノを、誰かが竜人と呼び出したらしい。確かに似ていたな。
リームが餌トカゲを浮かせ、ジタバタする間も与えず皮を剥ぐ。痛覚があるのか分からんが、筋肉剥き出しの姿になった餌トカゲはジタバタと暴れ狂い、山に向けて捨てられた。中々の拷問である。投げ込まれた方のトカゲ達はビクッとして警戒するが、餌だと分かってはいるので近くに居た者が首に噛み付き、楽にしてやっていた。
「食らい付いたな」
「息の根を止めてやっただけじゃ無いか?後で食うとは思うけど」
「主様、次は回復を頼む」
「頼まれた」
浮き上がり、皮を剥がれた餌トカゲに《治癒》を施す。離れているから効果は薄いが、ジワジワと皮が再生し、ピンクのトカゲになって行く。
「緑色じゃ無くなっちゃったな」
「日を浴びて緑になるのかも知れん。尻尾を落として分かるようにしておこう」
トカゲの尻尾は持ち帰り、本体は回復して放置した。次見に来た時に居なくなってれば食われたって事だし、色が戻っていれば殺さずに皮を剥ぐ事が出来る。ピンクのままだと…それはそれで需要ありそうだな。とにかく次回に期待だ。
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