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皺寄せ
しおりを挟む《威圧》の枷で手足と頭を固定され、強い《洗脳》を受けた二六七は、会話こそ出来る様になったが体の方はジタバタと落ち着きが無い。本能の抵抗力がかなり強い種族なようだ。
「所で此奴等全員女だと言ったが、どうやって増えるんだ?」
「カケル、よもや竜人族とも交合うつもりなのか?」
「流石にそれは無いな。鱗でアソコが切れちまう。それより、人の雄と交合って子を成す場合、人が入植する迄はどうしてたのかと思ってな」
「我等に、人のような生殖行為は、必要無い」
なんと、単一生殖で増やせるのだと。益々トカゲみたいだ。とは言え勝手気ままにポコポコ産んでは食糧難で滅んでしまうので徹底した人口管理をしていると言う。その皺寄せが人の生活域にも来てしまっているようだな。
食人に関しては、死んだり死に掛けになった者を隔て無く食すそうだ。
「我を、解放…しろ。さも無くば、殺…すっ、ぐぐぐ」
中々の抵抗力だ。頑張れば解かれてしまうかも知れないな。
「解放しても殺りに来る癖に。戦ってやるのは吝かじゃないが、此処壊されるのは悔しいからな。外に出ようじゃないか」
「カケルッ!」
「こ、殺して必ず食ろうてくれる…」
「俺を殺したらこの国消滅するけどな。まあ頑張れ」
装備を着込むと座標を指定し《転移》する。
「うぐっ、何だこの明るさはっ!?」
「外に出ただけだろ」
全身の枷と《結界》を解いてやると、多分ドヤ顔だったのだろう引き攣った顔が更に歪み、膝を抱えてしゃがみ込んだ。
「コレでヒギッ!痛いっ!?何をした!?」
「何もしてないぞ?俺は約束を守る男だからな」
服も着ず、雪積もる屋外に出れば大体の人はこうなる。人より寒さに弱そうなトカゲなら尚更この冷気は辛かろう。無詠唱で両手から湧き上がる炎毎、二六七の腕を《収納》した。
「あ…、あぎゃ、ぎゃああああっ!」
人と同じ色の液体を垂れ流し、二六七は悲鳴を上げた。腕を畳んで尻を突き上げるように蹲る姿は少し興味を注がれるが、名残惜しまず脚を《収納》する。
「イギッ、な、脚、迄…何をした…」
「死ぬ可能性のある攻撃だよ。そんな事も分からんのだな」
魔法の水をぶっ掛けると、二六七はシャーベット状の雪の上に沈み込むように突っ伏したまま動かなくなった。寒いから地下に戻ろう。
「カケル!」「お前何と言う事を!?」「竜人殿はどうした!?」
牢に戻ると見知った女達が集まっており、矢継ぎ早に質問を浴びせられる。
「俺が勝って、彼奴が負けた。それだけだ」
「本当に、何と言う事を…」
「カケル、お前とはもっと楽しみたかったが、いよいよ城へ連れて行かねばならなくなった」
「罪人として、なのが心苦しいが」
「問題無いさ。何れ行く予定だったんだ」
「せめて、死なない事を祈ろう。さあ、お縄に着いてくれ」
両手をロープで縛られて、腰に通して結ばれる。俺は敵対しない相手には敵対しないのだ。背中を押され、階段を上がって外に出る。そして詰所の外へ出ると用意されていたコーラー車に乗せられた。窓はあるが、閉ざされていて外は見えない。
上座には二キャンバルの四が座り、隣には見知らぬ女。俺は二人の対面に一人で座る。二人は終始無言を貫くらしい。俺は寝る。
「…寝たのか」「……こんな状況でよくもまぁ」
起きてますよ。寝ようとしてたけど。
「これで詰め腹なんて言われたらどうしてくれるのだ。私は今初めて見たと言うのに」
「その責は、私が負う」
「はぁ、次の隊長は私か」
「ああ、後は任せた」
対面の二人が言葉を交わし、再び静かになる。あのトカゲ顔が傍に居ても気付かなかったのだ。責任の一端はあるのだろうが、そんな事で詰め腹は許せんな。今度こそ寝よう…zzz
ぐっすり眠っていたので時間は分からないが、どうやら城に着いたらしい。此処迄熟睡出来たのは、浮いてるせいもあるが客車に何か仕掛けがあるようだ。
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