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丸呑み
しおりを挟む俺が来た目的を女達に告げた。そして四人が孕んだ事も。母体の義の予定が絶たれていた三人は抱き合って喜び、涙を流す。静かにそれを聞いていた二キャンバルの四だけは小さく「そうか」と呟いた。
報告を纏めて城に上げる事となり、四人は仕事に戻ってく。
「成る可く穏便にな」
「敵対されなきゃね」
「我慢を覚えた方が良い。では、またな」
出入口前で見送って、風呂場を見遣る。
「お前誰だ?」
その女は喋らない。ピクリと体が動いたので聞いてはいるのだろうけど、浴槽に浸かって長湯を楽しんでいる。
「《隠密》系か、《阻害》系か。何方にしても丸見えだぞ?」
「……」
バレバレなのを教えると、無言の女が此方に流し目を送り、睨め付ける。視界に違和感。女の像が歪んで見える。《魔力視》に切り替えるとそれは細い割にある、女の子の姿では無かった。
「獣人か」
「竜人と呼べ、下郎」
「で?トカゲちゃんは女なのかい?それとも女の子になりたい男の子かな?」
《魔力視》を戻し、其奴の本来の姿が目に入る。ツルッとした肌には細かい鱗が光り、髪の代わりに棘が生えた人型のトカゲが湯に浸かっていた。
「命乞いは聞かん。死ぬが良い」
その瞬間、《結界》が一枚剥がされた。それと同時に《威圧》を纏わせ動きを止める。多分だが、今のはスキルでは無く単純な魔力だ。魔力を収束して打ち出したモノと思われる。部屋が寒くなるぜ。
「む…、ググッ」
「お湯が気持ち良過ぎたか?上がれないなら出してやろうか?」
「ムギッ、ングッ」
「《結界》一枚は破れたのに、それより弱い《威圧》は破れないのかい?トカゲちゃ~ん」
「んんんっ!」
「ほれほれ頑張れ。がーんっばれ、がーんっばれ」
頭に血が上り、正常な判断が付かなくなったトカゲちゃんは白目を向いて気絶した。酸欠である。《威圧》を解いて《洗脳》したら浮かせて放置した。
「カケル!どう言う事だ!?」
昼食を持って来た二クリアの九が、部屋に入って絶句した後、俺に詰め寄った。
「キレイな部屋になったろ?」
「そ、そうじゃ無い!此方のお方はどうしたのか!?」
「下郎に負けたトカゲちゃんだねぇ」
「此方のお方は竜人族、この国を治める方々のお一人だぞ」
「そうなんだ?おい起きろトカゲッ」
「ヒギッ」
《威圧》を放って起こしてやると、ジタバタと俺の方に向き直ろうと体を攀じる。《洗脳》はあんまり効いてないみたいだな。
「うお、おのれ外道っ」
「下郎から外道になっちゃった。その外道に手も足も出ない気分はどーだい?」
「カケル、止めるのだ!竜人族と事を構えるといかなカケルと言えど命が無いっ」
「此奴等が人を食料にしてても、それ言えるのか?」
「は?そんなまさか」
浮かせて放置してる時、《感知》で雌雄を確かめようとして見付けてしまったのだ。男女何方かは分からなかったが。
「予想するなら男だが、どっちなんだい?」
「糞ッ!魔法がっ何故だ!?首がっ」
「何が男なのだ!?竜人族は全て女で…まさかっ!?」
「干からびた腕かな?丸呑みしてたら俺にも分かるぜ」
《鑑定》に人の腕とあったから間違い無い。よく喉に引っ掛からなかったものだ。
「九ちゃん、もしかして、食事に出されてる肉って…もしや?」
「こっ、コレはコーラーの肉だ!繁殖も肥育も国の民がやっているっ」
良かった。けどコーラーって種の名前だったのか…。持って来てくれた食事に手を伸ばし、トカゲちゃんへの《洗脳》を強めた。
《洗脳》が効いたトカゲちゃんこと、二六七によると、元々は竜人族の住処だったこの地に人が流入し、搾取する側される側の生活が始まったのだと。で、増え過ぎる人口を脅威と見たトカゲの偉い人が男女を隔離し始めて、使い物にならなくなった食材を報奨として分配する事になったのだそうな。
「何だかこの国ヤバいな」
「そんな事を聞いて、よく食事が喉を通るな」
それはそれ、これはこれだ。
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