上 下
1,373 / 1,519

しおりを挟む


「ぶ、武器を捨ててっ、おと、大人しくして」

 女が猪モドキの後ろに隠れ、そう言い放つ。

「俺は強いから武器なんて持ってないんだ」

「こ、こっちにはコーラーが居るんだからっ。本気になったら怪我じゃ済まないんだからねっ」

「言ったろ?特に敵対しなきゃ何もしないよ」

コーラーは、飼い主から醸し出される何かを察した様で、食事を切り上げノシノシと寄って来る。体高は三ハーン程だろうか。中々デカい猪だ。見えないように隠れてる女はズボンに上着に皮の靴と、全て鞣し皮で揃えているようだ。

「止まってっ、止まれぇぇ」

自由奔放は家畜である。ペニスケに鼻が付く寸前で極々弱い《威圧》を言葉に乗せる。

「止まれ」

ピクリとしてコーラーは止まった。

「なああンた、この子撫でても良いか?」

「知らないっ!何で私の言葉は聞かないのよーっ」

「言葉に意志が無いからだ」

コーラーの鼻に握った手の甲を近付け、それから下手で腕を伸ばし頬に触れ、撫でてやる。豚も犬も基本の撫で方は変わらない。

「大人しい子だな」

「見ず知らずなのにっ、ちょっとは警戒しなさいよ!」

「近寄って確認して、警戒を解いたんだろ?」

「うう…。あー言えばこー言うー」

「コーラーだって分かってくれたんだ。人だって分かり合えると思うぞ?話が出来るんだからな。君の名は?」

「…ユッカネンの三」

ん?ユッカネンは名前だよな。で、の?三?

「ユッカネン?」

「それはお母さんの名前。お母さんの三番目の子なのっ」

「大人になると名前が貰える訳か」

「子供が出来たらっ。私はもう大人よ」

この国、リフズラントの法では、子を成した女に名前が与えられると言う。家母長制に近いのかな?

「と、取り敢えず付いて来なさいっ」

「分かり合えたか?」

「役人に突き出すのっ」

「穏やかじゃないな」

「私じゃどうにもならないもんっ」

それじゃあ仕方無いよな。ウドモドキの森を、あっちだこっちだ指示を受け、俺を先頭にして歩く。後ろにはコーラー、それにくっ付いてユッカネンの三が歩く。獣道だから目的地の方向さえ解ればどう行っても良い訳だ。

「ユッカネンの三よ」

「何よ」

「誰かコッチに来ているぞ?知り合いか?」

「一かもっ」

「二人居るぞ?」

「何で分かるの!?私見えてないのにっ」

「前歩いてるからだよ。そろそろ見えるだろ」

《感知》のお陰なのだが敢えては言わん。互いに近付いていると、コーラーの巨体に気付いた二人が走り寄って来た。

「三っ!」

「一ぃっ」

家族間では数字で呼び合うのか。短くて良いが、他人間だと長いままだな。

「三ちゃんよ、其方の人は知り合いか?」

「貴様こそ、ユッカネンの三の知り合いか?」

声からして女だが、フルフェイスの革鎧では顔も分からん。

「迷い人でな、つい今し方知り合った」

「…貴様…男、だな?」

「え!?」「男っ!?」

男である事に何故驚くのか。三はコーラーの影に隠れながら俺を見ているし、一と呼ばれた女は固まって動けなくなっている。そして革鎧の多分女は腰に提げた鈍器を抜いた。皮に包まれたソレは、半ハーン程の棒状の硬い物と、丸い物に分かれ可動性がある。確かフレイルとか言うんだったか。

「答えろ」

「男だとイカンのか?」

「貴方っ、男は此処には住めないのよっ」

「来たばっかりだし、住んでも無いぞ?」

「迷い人、なのよね確か」

「確かめる。詰所迄来い」

「どの道役人の所に行く予定だ。案内頼むよ」

「ふ、殊勝だな。だが痛い目を見たくなければ抵抗はするなよ?」

「言っとくが、俺はかなり強いぞ?」

「男の見栄だな」

「そう思うなら優しくしとけ。俺は敵対されなければ敵対せん」

「ならば解らせてやる事にしようか」

革鎧が鈍器を両手で構え、腰を落とす。だが俺は動かない。

「ブフッ」

鳴き声とも吐息とも付かぬ声を出し、コーラーがノシノシと割って入ったからだ。

「よしよし。お前は優しい奴だな。争うのは止めておこうね、よしよしよしよし」

撫でられて、目を細めるコーラーであった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

左遷されたオッサン、移動販売車と異世界転生でスローライフ!?~貧乏孤児院の救世主!

武蔵野純平
ファンタジー
大手企業に勤める平凡なアラフォー会社員の米櫃亮二は、セクハラ上司に諫言し左遷されてしまう。左遷先の仕事は、移動販売スーパーの運転手だった。ある日、事故が起きてしまい米櫃亮二は、移動販売車ごと異世界に転生してしまう。転生すると亮二と移動販売車に不思議な力が与えられていた。亮二は転生先で出会った孤児たちを救おうと、貧乏孤児院を宿屋に改装し旅館経営を始める。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

処理中です...