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尻を出せ
しおりを挟む深呼吸をしたハーラデーはそれを一枚摘み上げると、二つに割って小さい方を口へと運ぶ。育ちは良さそうだ。
パリッ…サクッ…サクサクサクサク…
「…甘くて美味いな」
「食事もしっかり摂りましょうね。殺す気はまだ無さそうだし」
「…そうか。まだ俺は、生き長らえさせられるの、か」
「寿命迄生きちゃいなよ」
「お前がさせるのか?何処の差し金…、否、ハーク様だな?」
「うん。けどトリントンも担がれてるだけだから、王選後はしっかり摂政してもらわんとね。それよりも、葬式には行かないのか?」
「葬儀と呼べ。流石に不敬であろう?…だが向かわせてはくれんだろうな。顔を変えた誰かが行かされる…、そんな言葉を耳にした」
「逃がしてやろうか?」
「戦争になるな。あの者共を見てみろ。全てギッツ王国の兵だ。動けんのはお前の仕業か?」
「凄いでしょ?この辺りって実効支配されてんの?」
「さあな。だが本国側では兵を集めていると聞いた。俺が王になろうがなるまいが、関係無く攻めて来るだろうよ」
「そんなに弱いのか?」
「地の利が無いのだ。あんな街囲まれたら終わる」
「成程な、沼を埋めて歩き易く…なんて戦法もあるしな」
「お前、名は?」
「俺はカケルだ」
「そうか。俺は元より王になるつもりは無い。此処に来てから叔父上の訃報を聞いたくらいだしな。ハーク様に敵対しないと誓おう。…そこでだ。俺に手を貸してはくれないか」
「構わんが、何が出来る?」
何がと聞かれて小首を傾げるハーラデー。
「金は?」
「ある」
「女は」
「小アトールで抱いた」
「…ならば爵位はどうだ?」
「俺はカケラント国の国王だ」
「…断るならもっと上手い事を言え」
「ハーラデー、お前自身は何が出来るんだ?」
「俺の…尻を出せば良いのか?」
「他ので」
「ふぅ。兄上には及ばぬが学は修めている。跡を継げぬ故、貴族相手の商売をするつもりで居たからな。…裏目に出たが」
「政はどうだ?」
「これでも継承順位は五位だ。勿論自信は無い」
「皆そんなもんだ。良し、俺の国へ亡命させてやる。宰相の元で働いてもらおうか」
「王の元では無いのか」
「俺あまりカケラントに居ないからさ」
「それで成り立つ国も凄いが、お前が王なのは事実だったのか」
「そう言ったろう?では、食い終わったら行こうか」
「良いのか?夜だぞ?」
「高々貴族の小僧が一人、この森の中そう遠くへは行けまい、の術だ」
「よく分からん。食べてやるから待っていろ」
腹、減ったな…。煎餅齧る。
「カケル、それ、俺にもくれ」
「食後にな」
「むぐ、あの様な甘味を扱えるのだ…はむ、余程稼いで居るのだな。ごく、ぐびぐび」
「この茶色いのは黒糖。平民に手が出せる値段でしか売ってないんだ。貴族は白糖あるだろ?」
「安く、量を売る、か。食い終えたぞ。では甘味を貰おうか」
三枚な。サクサクッと平らげたハーラデーを連れて、城へと《転移》した。
「はっ!?ハーラデー様…。危のう御座いました」
「申し訳御座いません。曲者かと思い刺してしまう所でした」
俺には普通に刺して来る癖に、ハーラデーと認識すると、ナイフを背中に隠して腰を折るメイド達。
「明日話し合いの場を持つから、ブルランさんにハーク達、トリントンとその一派、ハーラデーの取り巻きも集めてくれ」
「「畏まりました」」
「カケルよ、俺に取り巻き等居らんと思うが」
「明日のお楽しみだな」
「そうか。所で俺は城で寝るのか?死ぬかもしれんぞ?」
死にはしないと思うが不安はあるのだろう。見た目はまだ子供に見えるしな。
「お前、歳幾つよ?」
「む?十六だが、それがどうした」
「なら外でお泊まりしても問題無いな」
「あるかどうかと言えば無いが…」
折角だし、良い所に連れてってやろう。メイド達に別れを告げて、再び《転移》で移動した。
「うっ、クラクラするな…」
その内慣れると言葉を返し、とある宿へとやって来た。
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