上 下
1,218 / 1,519

暖簾に腕押し

しおりを挟む


 地上に降りて窮地を脱したリアが合流し、スキルでこっそりしながら夜の城下街を歩く。先ずは何処からと言う話になったが、リアの提案で兄から救出する事になった。怪我は治したと言え気が気ではないだろうし、次代に必要な存在だからだ。

「兄は中立派、悪く言えばどっち付かずの方でしたがこと内政に於いては無くてはならぬ方です。貴方様がカケラントの王で無ければ、とも思いましたが」

「内政は大変だからなあ」

「うふ、ですよね」

程無くして《白昼夢》で見た屋敷に着く。

「どの者の屋敷かは存じませんが、貴族である事は間違い無いようですね」

「門を開けろ」

「「…はい」」

門前にて立ち呆けな門番に命令し、開け放たれた門を潜る。庭や玄関迄の通りにも何人かの兵士が居るが、皆門番同様に立ち呆けて居る。特に気にせずどんどん進み、玄関を開けた所で近くに居たメイドに命令した。

「兵隊を庭に、貴族は客間に、使用人達は厨房に集めろ」

「…はい」

メイドが動き出し、俺達も動く。地下へと続く通路は隠し扉になっているので《収納》で穴を開けて先へと進む。

「臭い」

「んん…」

地下下水道に降りて直ぐの部屋を開けると、マットに横たわる男が見える。

「気付いてるようだな。助けに来たよ」

「感謝したいが、誰の手の者か?」

「私です、兄様」

光魔法を灯して視界を得た男が、声の主に気付いて飛び起きた。

「まさか、カルメリアか!?」

「お久しぶりです。兄様も随分キレイなお姿になられましたね。貴方様、何かお召物を」

服なんて持って来て無いのでシーツサイズの雑木タオルを渡す。

「こうなる前の姿を見せてやりたかったぞ。貴殿だな?傷を癒してくれたのは。私はロデュローン。ロデュローン・ミラルダ・アフマクシアである」

「カケル・カリバだ」

「聞かぬ家名だが大儀であった」

「まだ始まったばかりだよ。助けを待つ者が居るのでね」

「父、か」

「女騎士の方が先かな」

「貴方様?」「カケルさぁん?」

「怪我してるのを軽くしか治して無いんだよ。コッチが優先っ」

「ならば私も行こう。此処に長居したくも無いしな」

「序に服を貰って行こうか。王子だしな?」

「気遣い痛み入る」

屋敷に上がって厨房へ。メイド数人に指示を出し、王子の服を見繕わせる。元の物は無いみたいだし、此処の貴族に上納する栄誉を賜らせてやろう。

「兄様。どの者に囚われたので?」

 服を着て出て来た王子にリアが問う。捕まって、最初に見た貴族はネイゲナー伯爵であると言う。上の階にはもっと沢山貴族が居ると言うと、ならば見てやろうと言う事になり、貴族共の屯する客間へとメイドに案内させた。

「貴方様」「何処見てますかぁ?」

「前だよ、前」

「カケル殿と言ったな。カルメリアと仲睦まじい様子だが…」

「兄様、カケル様は私の夫となった方です」

「…唯の家出かと思っていたが、駆け落ちして居たのか。では、其方の婦人も…」

「妾のリュネでぇす」

「妾が正妻と並び立つのか」

「俺はともかく、リュネの名を呼ぶ時は様を付けろよ?やんごとなき方だからな」

「…そのような方を妾にし、何故公女風情が妻なのか」

「兄様、私、残念ながら正妻でも御座いません。三番目、です」

「訳が分からん」

「単純に順番だよ」

「順番は大事ですよ~」

雑談しながら客間に着き、中に居る貴族共と面通しをする。

「貴様っ!よくもっ……どうしたこれは」

掴み掛かる王子に対し、暖簾に腕押しな状態の名も知らぬ貴族。あまりの呆気なさに王子が動揺した。

「スキルで腑抜けにしてあるんだ。詳しくは冒険者の秘密って事で」

「貴殿、冒険者だったのか」

「顔を覚えたら次へ行こうか。粛清は後でも出来るしな」

「うむ。決して忘れん」

アジトの屋敷から、再び徒歩で城へと向かう。都会な公都とは言え夜になれば道行く者の姿は無い。違う通りではどんちゃんしてるのかも知れないが、城へと続く通りは静かなモンだ。




しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

喰らう度強くなるボクと姉属性の女神様と異世界と。〜食べた者のスキルを奪うボクが異世界で自由気ままに冒険する!!〜

田所浩一郎
ファンタジー
中学でいじめられていた少年冥矢は女神のミスによりできた空間の歪みに巻き込まれ命を落としてしまう。 謝罪代わりに与えられたスキル、《喰らう者》は食べた存在のスキルを使い更にレベルアップすることのできるチートスキルだった! 異世界に転生させてもらうはずだったがなんと女神様もついてくる事態に!?  地球にはない自然や生き物に魔物。それにまだ見ぬ珍味達。 冥矢は心を踊らせ好奇心を満たす冒険へと出るのだった。これからずっと側に居ることを約束した女神様と共に……

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

二度も親を失った俺は、今日も最強を目指す

SO/N
ファンタジー
主人公、ウルスはあるどこにでもある小さな町で、両親や幼馴染と平和に過ごしていた。 だがある日、町は襲われ、命からがら逃げたウルスは突如、前世の記憶を思い出す。 前世の記憶を思い出したウルスは、自分を拾ってくれた人類最強の英雄・グラン=ローレスに業を教わり、妹弟子のミルとともに日々修行に明け暮れた。 そして数年後、ウルスとミルはある理由から魔導学院へ入学する。そこでは天真爛漫なローナ・能天気なニイダ・元幼馴染のライナ・謎多き少女フィーリィアなど、様々な人物と出会いと再会を果たす。 二度も全てを失ったウルスは、それでも何かを守るために戦う。 たとえそれが間違いでも、意味が無くても。 誰かを守る……そのために。 【???????????????】 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー *この小説は「小説家になろう」で投稿されている『二度も親を失った俺は、今日も最強を目指す』とほぼ同じ物です。こちらは不定期投稿になりますが、基本的に「小説家になろう」で投稿された部分まで投稿する予定です。 また、現在カクヨム・ノベルアップ+でも活動しております。 各サイトによる、内容の差異はほとんどありません。

処理中です...