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賑やかし
しおりを挟む日が登り出す時間になっても雨が止む事は無く、取り敢えず起きて来た者等は弁当を受け取って、各自のテントや車両に篭り朝食を摂る。そして片付け迄にびったびたになった者共を《洗浄》して乾かし、本日の移動が始まった。それにしても馭者の雨具が凄い。何処に仕舞ってあったのか、何かの皮で出来ているかなり厚手のレインコートを着けていて、多少の攻撃なら受け切れそうだ。聞くと、船乗り御用達のトーピードの皮に綿を挟んで裏張りしてあるそうで、雨には強いが暑い季節は耐えられんと言う。値段はお手頃価格十人分は下らないのだとか。
「良いヤツだけど、俺達には持てないな」
それを聞いたお手頃価格達は思案する。
「嵩張ると持ち帰りが減るしな」
「マントにするのが精々だろ」
「マントかー。こんな事でも無きゃ欲しいとも思わんぜ」
俺もだぜ。雨の少ないシルケでは、マントを羽織る者は多くない。Aランクの男三人は着けてるが、ディワダはポンチョ、ヘンプシャーと俺は着けてない。ディワダ以外は実用と言うより嗜好品に近いのかも知れない。
雨の移動は速度が落ちる代わりに敵の姿も無い。《感知》を飛ばして見付かる野獣は巣穴に篭っているようで、地面の中で一塊になっている。ブフリムやゴーラもじっと動かず、雨が止むのを耐えていた。
天候に変化があったのは昼食後、午後を少し過ぎてから。正面が明るくなって来て少しホッとする。濡れた場所での設営は大変だからな。
ホルストが歩き続けている内に、雨の勢いも減って来て、腹を空かせたブフリム達が活発になる。
「ディワダさんが出たな。一組の奴等も」
「ずっと車中で体が痛いのだろう。俺達も外に出て体を伸ばそうや」
「「「おうっ」」」
弥一が気付き、俺の提案に皆が乗る。速歩のホルスト車から外に飛び出ると、後ろに居る三号車がそれに気付いた。
「付き添いの兄さん、まだ雨降ってるが、走るのか?って、此方の姉さんが」
馭者に伝言とはズボラかよ。
「敵が来る。後体が痛いから外に出たんだ」
「敵だそうですぜ」
「早く言いなさいよっ」
「数も少ないし、中で警戒してても良いぞ?尻が痛くなければな」
「痛くない!皆、外に出るわよ!?」
バタバタして外に出て、すっ転ぶお手軽女子を浮かせて着地させる。
「斜め前に飛んで走り続けろ」
「はいっ」
ヨタヨタしながら五人が降りて、マラソンの列に加わった。
「弥一、《抵抗》掛けてやれ」
「あいよ。みんなちょっと、集まっとくれ~」
無いよりマシ程度の《抵抗》だが、無いよりはマシなのだ。装備を押さえ、ヒッヒッフーと駆けてくと、敵との距離も縮んでく。
「そろそろだな」
「数は五。多分前の組で足りるだろうが回り込ませないようにしようぜ」
「だな」「左右の警戒」「何時でも抜けるぜ」
そうこうして、先頭で戦闘が始まった。五組も出て来て十対五。回り込む余裕も無い腹ぺこ共が、一つ二つと殺られてく。後詰の三と六組は、応援したり《威圧》の練習したりで賑やかしていた。
黒い森から出発して十一日目の昼。懐かしの森に到着した。
「カケル。食料は持つのか?」
「大丈夫だ、問題無い」
今日は此処で寝泊まりすると言う事で、湖畔にキャンプを張ったら、お手軽価格達は一部を除き自由行動とした。付き添い達は此処からの行程についての会議である。行きは最速にしたが帰りはどうするか、とかそんな話だ。最速にするかどうかで食料の減りが変わるのが几帳面なダミヤンにとっては心配なのだろう。
「問題無いならそれで良い。飯の恨みは執拗いからな」
シルケでもそうなのか。
「時間があるならお風呂作ってよ」
「俺ん家の屋上から覗かれちゃうぞ?」
「屋根作りなさいよっ」
「警戒心が薄れちゃうだろ」
「旦那方、ちょっと良いかね?」
話を割って入って来たのは馭者の一人。此処での滞在日数が知りたいようだ。最速にするならしっかり休ませたいとの事で、此処での滞在は二日と決まった。
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