上 下
1,181 / 1,519

無いのかよ

しおりを挟む


 ヘンプシャーの前にしゃがみ込み、目の前は股間。黒皮のズボンを剥いたらさぞやおぞましい光景があるのだあろう。だが治さない。

『今から毒素を抜く。どうせまたぶり返すだろうが、依頼中は平気だろ』

返事を待たず《感知》で毒の在処を探し、《収納》しては《治癒》をする。漏れ出る涙と小便が、痛みの程を表すも、俺はスキルを使わない。毒を取り切り、最後に《洗浄》して《結界》を解いた。荒い息を吐き、膝から崩れ落ちるヘンプシャーが目力弱くも俺を睨み付ける。

「お前を蝕んでた毒、見るか?」

「はあ、はぁ…、み、見ない、わよ」

「風呂に入ってゆっくり休め」

 飯作りを再開し、女達の長風呂が終わるとやっと俺も寝る事が出来る。小型UFOに女達を詰め込み空に上げると、煉瓦テントに潜り込んだ。

 あまり寝られた気がしない。風呂に付き合うと夜更かしせざるを得無いのだ。煉瓦テントを片付けて、外が雨な事に気付く。珍しいが、濡れるのは嫌なので《結界》を纏って雨露を凌ぐ。

「カケルさん」

「翔、雨だな」

「ああ、シルケは雨が少ないが、雨天での行動の練習にはなるな」

お手軽価格等に雨具の手持ちは無い。皆ギルドから貸与されたテントの中でしゃがみ込み、床上浸水に耐えていた。

「テントの端に棒を刺して面積を広げるぞ」

人が立って動ける程の長さの棒に、雑木ロープを出してやる。三角テントの端に長棒と雑木ロープを縛り付けたら、棒を立ち上げロープを張らせる。それを対角線に二ヶ所施した。

「タープ、だっけ?」

「ああ。雨で垂れ下がるから支柱も要るけどな。弥一も土魔法で椅子とテーブルくらい作れ」

「俺、倒れちゃうぞ?」

「とっととやれ」

弥一の魔法が土壁の塊を作る。それを固めて《洗浄》で脱水し、椅子だかテーブルだか分からん出っ張りとなった。それに合わせてタープとなったテントを移動し、取り敢えずの雨避けとする。

「カケルさぁ~ん」「出られませーん」

少し上から、女達の声がする。日和った事言ってやがる。

「後で乾かしてやるから、濡れる覚悟で降りて来い。テント持ってな」

「「「はーーい」」」

女達と新たな屋根が到着し、行動範囲が広がった。女達が座ったら一杯だがな。

「貴方、屋根くらい作りなさいよ」

「それじゃあ此奴等の経験にならん。それより体調はどうだ?」

「…助かったわよ」

「翔よう、雨の日の移動って、どうすんだ?あと寒い焚き火しよーぜ」

曇天で真っ暗な中、貸与品のカンテラ一つで良く此処迄立派な雨避けが出来たモノである。俺と弥一は《感知》で見えて居たが、他の奴等は転んで水浸しになった上に《洗浄》されて冷えきっている。体を温めるのは良い案だ。タープの真ん中に座る奴等を退かし、椅子になっていた土壁の塊に穴を開けて木っ端にした雑木を流し入れる。

「誰か、火は?」

「「「…………」」」

「無いのかよ」

こんな所で役立つ火口セット。随分使ってなかったが、皆が見てるのでヘマは出来ん。薄く削いだ雑木のモジャりを作り、火口と石を握りガチガチッと数回。何とか先輩らしい所を見せられたぜ!

「火口持ってる人、初めてです」「家でしか使わないですよね」

おや?火口ってアウトドア用品としてはメジャーでは無い様子。

「私達はコレですね」

皆に聞いて、女達が鞄から取り出したのは鉄の棒。それと設営用に貸与されたハンマーが二つ。

「さっきのふわふわください」

モジャりをくれてやると、ハンマー一つを金床代わりに鉄の棒を叩き出す。ガチンガチンと騒がしく、寝ていた奴等に動きが出る程だがモジャりに押し付け火種が出来るのを見て少し感動してしまった。

「それ、鍛冶屋がやる奴だな」

「知っているのか弥一」

「日本刀はコレで火種を起こすとか言うぜ?」

「ニホント?それより鍋に水、早く」

ヘンプシャーも寒かったのか。焚き火を二ヶ所に鍋を用意し、朝迄の時間を弁当を作って過ごした。







しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

喰らう度強くなるボクと姉属性の女神様と異世界と。〜食べた者のスキルを奪うボクが異世界で自由気ままに冒険する!!〜

田所浩一郎
ファンタジー
中学でいじめられていた少年冥矢は女神のミスによりできた空間の歪みに巻き込まれ命を落としてしまう。 謝罪代わりに与えられたスキル、《喰らう者》は食べた存在のスキルを使い更にレベルアップすることのできるチートスキルだった! 異世界に転生させてもらうはずだったがなんと女神様もついてくる事態に!?  地球にはない自然や生き物に魔物。それにまだ見ぬ珍味達。 冥矢は心を踊らせ好奇心を満たす冒険へと出るのだった。これからずっと側に居ることを約束した女神様と共に……

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

二度も親を失った俺は、今日も最強を目指す

SO/N
ファンタジー
主人公、ウルスはあるどこにでもある小さな町で、両親や幼馴染と平和に過ごしていた。 だがある日、町は襲われ、命からがら逃げたウルスは突如、前世の記憶を思い出す。 前世の記憶を思い出したウルスは、自分を拾ってくれた人類最強の英雄・グラン=ローレスに業を教わり、妹弟子のミルとともに日々修行に明け暮れた。 そして数年後、ウルスとミルはある理由から魔導学院へ入学する。そこでは天真爛漫なローナ・能天気なニイダ・元幼馴染のライナ・謎多き少女フィーリィアなど、様々な人物と出会いと再会を果たす。 二度も全てを失ったウルスは、それでも何かを守るために戦う。 たとえそれが間違いでも、意味が無くても。 誰かを守る……そのために。 【???????????????】 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー *この小説は「小説家になろう」で投稿されている『二度も親を失った俺は、今日も最強を目指す』とほぼ同じ物です。こちらは不定期投稿になりますが、基本的に「小説家になろう」で投稿された部分まで投稿する予定です。 また、現在カクヨム・ノベルアップ+でも活動しております。 各サイトによる、内容の差異はほとんどありません。

処理中です...