1,146 / 1,519
模擬戦
しおりを挟む昨晩、ホルストの体調を考え翌日も休養日に決まったのだが、基本的な野営ルーティーンは変わらない。不寝番から明けてメイドと共に飯を作って皆に食わせて片付ける。
「昼飯迄寝てて良いんだよな?」
「良いぞ。しっかり体を休ませるんだな」
確認する弥一にそう答え、俺もマットで横になる。他の奴等も横になり、直ぐに寝息を立てだした。
野営地はとても静かだ。メイドや騎士達は交代で休みを取っているようで、足音等は殆ど聞こえない。葉を擦る森の音に、鳥の鳴き声。そして時折聞こえるホルストの声。心地良い、自然の音を聞きながら充分な休養を得る事が出来た。
「カケルさん、模擬戦お願い出来ますか」
昼飯を片付けもう一眠りと考えていた俺に、回復したお手頃価格が詰め寄って来る。
「お、それ良いな。うちの組もやらせるか」
俺は承認して無いのだが、近くを通り掛かったダミヤンが、やると言い出し触れ回り、結果、全組集まった。厨房と食事スペースを片付けて空間を作り、皆が使う分の木製武器を作らされる羽目に遭った。
「タイマンの勝ち残りだ。三連勝したら俺達が相手してやる」
ダミヤンがルールを告げる。反則は無い模様。
「俺は回復に回るから参加せんぞ?」
「私も見える場所での対人戦は出来無いので応援に回ります」
「なら四人から選んでもらおうか」
回復役のグリオーソと斥候役のディワダが逸早く離脱すると、ムームードは俺を含めた数で選択しろと言う。
「よっしゃ!翔っ見とけよー!?」
何故か気合いの入った弥一が初戦に出るが…、
「負けたー」
直ぐに帰って来た。
「お前の体ならダメージ等全て肉厚に吸収されてしまうだろうに」
「んな訳あるか。とにかく仕事は果たしたぜ」
地面に座り、紙とペンを持ち出して、お手頃価格達のバトルを見始める。此奴、態と負けたな?
何戦かして、やっと付き添い達への挑戦権が与えられた者が出る。
「カケル、俺と戦え!」
「は?俺回復の手伝いしてんだが…」
振り返り、審判やってるムームードに確認を取る。
「カケル、こっちは大丈夫だ。解らせてやれ」
隣で光魔法を光らせるグリオーソも俺を焚き付ける。出来れば女にして欲しい。
「マジか…」
呟いて、挑戦者の前に向かう。
「カケル、俺もお前の戦いが気になるんだ」
「仕方無いな」
ムームードの言葉を受けて、バットと木の球を出す。相手は木の長剣だ。確か一組の誰かだったか、結構ガタイが良い。
「では尋常に、勝負!」
それ殺し合いの合図だろ。長剣片手に走り寄る男に、クイックモーションからの初球をど真ん中に放り込む。
バシンッ!
ボールがミットにぶつかる様な音がして、男は呻いて蹲る。至近距離からぶつけられたら皮鎧着てても痛いわな。転がって来たボールを拾い、呻く男から少し離れる。
第二球、ワインドアップで振り被り…、
「そこ迄っ!そこ迄だっ!」
ムームードに止められた。俺の勝ちである。
「カケルの戦い方は参考にならんから対戦者から外すぞっ」
良かった。お役御免となったみたい。
「翔、えげつねーぜ…」
「いやぁ、見て避けるだろ普通」
「知ってりゃあな」
直撃を食らった事のある弥一は言う。軟球でも痛いのだ。硬球なら尚更だろう。
「一応だが、中衛や盾役の初動ではあるんだぜ?」
「盾役もか?…まあ分からなくも無いが」
「盾役の初動か。詳しく聞きてぇな」
ヨロヨロの男の首根っこを掴んでやって来たダミヤンが詳しくと言うので簡単に説明する。
「成程。出足を挫くって訳か、納得した。ほれ、行くぞ」
「ぐ…、俺は、負けてねぇ…」
イメージが出来るのは場数を踏んでいるからだろう。ダミヤンは負け犬の首根っこを掴んだまま、グリオーソの所へ向かって行った。
「カケル様、見事な一投でしたわっ」
「お騒がせしております」
ダミヤンと代わるようにニーネンタールがやって来る。最初は興味無さそうでお茶を嗜んでいたが、俺を持ち上げようとしてくれるらしい。
0
お気に入りに追加
133
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
異世界転生したら何でも出来る天才だった。
桂木 鏡夜
ファンタジー
高校入学早々に大型トラックに跳ねられ死ぬが気がつけば自分は3歳の可愛いらしい幼児に転生していた。
だが等本人は前世で特に興味がある事もなく、それは異世界に来ても同じだった。
そんな主人公アルスが何故俺が異世界?と自分の存在意義を見いだせずにいるが、10歳になり必ず受けなければならない学校の入学テストで思わぬ自分の才能に気づくのであった。
===========================
始めから強い設定ですが、徐々に強くなっていく感じになっております。
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる