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模擬戦

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 昨晩、ホルストの体調を考え翌日も休養日に決まったのだが、基本的な野営ルーティーンは変わらない。不寝番から明けてメイドと共に飯を作って皆に食わせて片付ける。

「昼飯迄寝てて良いんだよな?」

「良いぞ。しっかり体を休ませるんだな」

確認する弥一にそう答え、俺もマットで横になる。他の奴等も横になり、直ぐに寝息を立てだした。

 野営地はとても静かだ。メイドや騎士達は交代で休みを取っているようで、足音等は殆ど聞こえない。葉を擦る森の音に、鳥の鳴き声。そして時折聞こえるホルストの声。心地良い、自然の音を聞きながら充分な休養を得る事が出来た。

「カケルさん、模擬戦お願い出来ますか」

 昼飯を片付けもう一眠りと考えていた俺に、回復したお手頃価格が詰め寄って来る。

「お、それ良いな。うちの組もやらせるか」

俺は承認して無いのだが、近くを通り掛かったダミヤンが、やると言い出し触れ回り、結果、全組集まった。厨房と食事スペースを片付けて空間を作り、皆が使う分の木製武器を作らされる羽目に遭った。

「タイマンの勝ち残りだ。三連勝したら俺達が相手してやる」

ダミヤンがルールを告げる。反則は無い模様。

「俺は回復に回るから参加せんぞ?」

「私も見える場所での対人戦は出来無いので応援に回ります」

「なら四人から選んでもらおうか」

回復役のグリオーソと斥候役のディワダが逸早く離脱すると、ムームードは俺を含めた数で選択しろと言う。

「よっしゃ!翔っ見とけよー!?」

何故か気合いの入った弥一が初戦に出るが…、

「負けたー」

直ぐに帰って来た。

「お前の体ならダメージ等全て肉厚に吸収されてしまうだろうに」

「んな訳あるか。とにかく仕事は果たしたぜ」

地面に座り、紙とペンを持ち出して、お手頃価格達のバトルを見始める。此奴、態と負けたな?

何戦かして、やっと付き添い達への挑戦権が与えられた者が出る。

「カケル、俺と戦え!」

「は?俺回復の手伝いしてんだが…」

振り返り、審判やってるムームードに確認を取る。

「カケル、こっちは大丈夫だ。解らせてやれ」

隣で光魔法を光らせるグリオーソも俺を焚き付ける。出来れば女にして欲しい。

「マジか…」

呟いて、挑戦者の前に向かう。

「カケル、俺もお前の戦いが気になるんだ」

「仕方無いな」

ムームードの言葉を受けて、バットと木の球を出す。相手は木の長剣だ。確か一組の誰かだったか、結構ガタイが良い。

「では尋常に、勝負!」

それ殺し合いの合図だろ。長剣片手に走り寄る男に、クイックモーションからの初球をど真ん中に放り込む。

バシンッ!

ボールがミットにぶつかる様な音がして、男は呻いて蹲る。至近距離からぶつけられたら皮鎧着てても痛いわな。転がって来たボールを拾い、呻く男から少し離れる。
第二球、ワインドアップで振り被り…、

「そこ迄っ!そこ迄だっ!」

ムームードに止められた。俺の勝ちである。

「カケルの戦い方は参考にならんから対戦者から外すぞっ」

良かった。お役御免となったみたい。

「翔、えげつねーぜ…」

「いやぁ、見て避けるだろ普通」

「知ってりゃあな」

直撃を食らった事のある弥一は言う。軟球でも痛いのだ。硬球なら尚更だろう。

「一応だが、中衛や盾役の初動ではあるんだぜ?」

「盾役もか?…まあ分からなくも無いが」

「盾役の初動か。詳しく聞きてぇな」

ヨロヨロの男の首根っこを掴んでやって来たダミヤンが詳しくと言うので簡単に説明する。

「成程。出足を挫くって訳か、納得した。ほれ、行くぞ」

「ぐ…、俺は、負けてねぇ…」

イメージが出来るのは場数を踏んでいるからだろう。ダミヤンは負け犬の首根っこを掴んだまま、グリオーソの所へ向かって行った。

「カケル様、見事な一投でしたわっ」

「お騒がせしております」

ダミヤンと代わるようにニーネンタールがやって来る。最初は興味無さそうでお茶を嗜んでいたが、俺を持ち上げようとしてくれるらしい。



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