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カツ丼とコーラ
しおりを挟む「皆、私の事、忘れてますね…?」
俺を含めた皆が一点に集中すると、居た。俺の隣に居た!
「お、隠密でも使ってたのか?」
「私、元々狩り専門で、斥候なんかもしてるんですよ。ディワダと言います。前には出ませんので撃たないでくださいね」
俺の問に狩り専門の斥候と答えたディワダ。座ってるだけで木化け石化けが出来るとは。ザラザラに艶を落とした皮のコートは厚く、それ以外は軽装。一見お手頃価格かと思いきや、魔装の匂いがプンプンする。金髪を茶色に染めて、逆プリンになってる男だ。
「ディワダさん、申し訳ありません」
「職業病ですので…、話をどうぞ」
カロの説明が終わり外に出ると、門の外にはホルスト車が六台に馭者。そしてお手頃価格の冒険者がわらわらっと集まっていた。
「お、翔。依頼受けたのか」
「死んだら助けてやれんから、死ぬ前に助けを呼べよ?」
俺の顔を見付けて寄って来る弥一に冒険者ジョークを飛ばしてやると、わらわらしてたお手頃価格共が静かになった。
「彼奴等さっきからだべってばっかで馬し、ホルスト車の席順も決めんのよ。ヤバくね?」
「それはヤバいな。年長であるグリオーソさん…より美人の方が聞く耳持つか。ヘンプシャーさん、お願いします」
「あんた達、言われる前に並んで待つ。間違ってる事言ってるかしら?」
「俺一番で」
ヘンプシャーの前にビシッと気を付け姿勢な弥一。笑顔がキモいぜ。お手頃価格共もわらわら寄って来て並び出す。
「私は黒革のヘンプシャー。Aランクよ。長生きしたいなら舐めない事ね」
「はいっ」
一人元気な返事は勿論弥一だ。惚れたのか?俺を含めて付き添いの紹介を終えて、お手頃価格共が名乗る。名前を覚え切れないが、女が五人、男は二十八か九人居ると思う。
「女達は私と、男共は適当に乗ってちょうだい」
「えー…」
「残念だったな。痩せて実力付けろ。女は顔より長生きな男が好きらしいからな」
「それだけが救いだぜ…。翔、一緒に乗ろうか」
「しゃーねーな」
女達とヘンプシャーは三番車、一番にディワダ、二番にダミヤン、四番ムームードの五番がグリオーソ。最後の六番車に俺が乗った。下位打線かぁ。
「翔よう、お前ならこの順番にするか?」
「俺は九番だから…てのは置いといて、一番二番は良いんでないの?」
「それは同意。三と四は逆だよな」
「温存か、算数苦手なのか、そんなトコだろ。俺等が出る羽目に遭えば気付くだろさ」
「無い事を祈るわ」
「お、動き出した。皆、尻を防御せよ」
車内に笑みが零れる。皆尻の痛みを経験しているのだろうな。それからはお手頃価格の四人とも話をしたりして、街道を進んだ。
「翔に言われて無きゃ尻が死んでたぜ…」
荷物を入れた背負いカバンを尻に敷き、衝撃を緩和する弥一。他の皆もそれに倣い、尻を守ってる。
「多分だが、今夜は俺の別荘の近くで野営する事になると思う」
「別荘…」「貴族様だっ、でしたか」
「否、普通の冒険者だよ。稼いでるけどな」
「なあ翔よ、俺も貴族と間違われんだけど?」
「デブだからだよ」
「成程…」
「貴族じゃ無かったのかお前」「何食ったらそんなに肥えるんだよ」
「…カツ丼とコーラ、かな」
炭酸無しのコーラなら作れるが、カツ丼は貴族でしか作れないな。鳥の卵は手に入れ辛いから。それを鑑みると弥一は貴族なのかも知れない。
コーラはスパイスと果汁で作る飲み物…と言う説明で皆納得した。しかしカツ丼は難しい。何せ米が無い。米の代わりに茹でマタル、鶏卵の代わりにヤモリの卵で説明すると、味の予想が付かないだけに納得した顔にはならなかった。
「肉と油と穀物。何でも食い過ぎれば肥えるって訳さ」
「ヤモリの卵ってのが見た事ねーな」
「トカゲの卵なら田舎で見たな。村総出で割り捲ってたけど」
「へー。食ったら良かったのに」
「焼いたら爆発したって聞いたぜ?」
煮てたら良かったのにな。
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